第7話

結果として作戦はうまくいっていた。


 首尾よく人狼を一体切り伏せた源治は逃げるもう一体の人狼をパルクールの要領で追いかけ、付かず離れずの距離で追いかけていた。


 唯一源治にとって誤算だったのは予想よりも長い間人狼との追いかけっこが続いたということであった。源治がいくら退魔部屈指のハンターとはいえ体力にも限界がある。ましてや30代後半など体力が下り坂に至り始める頃である。ついには膝に手をついてその場に座り込んでしまった。


「おい・・・ガキ・・俺だ・・・あいつはどっちに行った?」


「なにその声?もうバテたの、だらしない・・・とりあえずあいつは廃ビルに入ったよ。そこが根城みたい。」


「アラフォーにも・・・いろいろあんだよ・・・今からいう地点に迎えに来い。ちょっと休んで殴り込むぞ」


 息も絶え絶えに通信を行う源治に凛はため息を付けばバイクをUターンさせ源治の指定した地点に向かった。


 凛が源治の指定した地点に着くと、そこでは源治がどこかの自動販売機で買ったのかミネラルウォーターを飲みながらタバコを吸うという風変わりなことをして待っていた。


「そんなもの吸ってるから体力がないんじゃない?」


「大人にはいろいろあんだよ、いろいろな」


「それで?作戦はどうするの?」


「正面から真っすぐ行ってぶった斬る」


「なにそれ?作戦じゃないじゃん」


「いいんだよ、あいつと合流した本隊は少なからず警戒してるはずだ。なら小細工かますより、正面から言ったほうが逆に意表がつけるってもんだ。」


「足引っ張んないでよね」


「心配すんな俺に負けたやつよりかは長生きするさ」


 こうして源治と凛は凛の運転するバイクに乗り人狼達が潜む廃ビルへと向かった。


「オープン・セサミィ!」


 廃ビルの付近に着けばそこにバイクを止め廃ビルの入口まで行くとそう言いながら施錠されていた扉を蹴破る。ビル内に破壊音が響くが人狼が出てくる様子もない、そこを源治徒手空拳のままで凛を連れて我が物顔で進んでいく。


 階を上がり4階まで来ると今までとは明らかにフロアの雰囲気が変わっていた。


「ねえ・・・」


「流石にお前も気付いたか、こいつら畜生のくせに生意気にも不意打ち狙いみたいらしいな。それなら先攻は譲ってやろうじゃないか」


 そう言うと源治はまだ刀を抜かないまま部屋の中央まで歩を進めていく。雲が晴れ月明かりが吹き抜けの天井のから源治に降り注げば、それを狙っていたかのように左右から2匹の人狼が源治に向かって飛びかかる。


「さあ、ショータイムだ」


 飛びかかってきた人狼をその場で大きくジャンプして手近にいた人狼を踏み台にもう一度ジャンプし、包囲を抜け人狼の背後に回れば刀を抜き、股下から真っ二つに切り裂く。残った人狼の注意が源治に向かえば背後からブルーローズを構えた凛が背後から心臓を一突きにする。


「死んだら後始末が面倒だからな、死なないでくれよ!」


「あんたこそ!」


 腕を左右に広げて周囲を見渡しながら凛に発言するとそれに答えるように凛も後ろから襲ってきた1体の人狼の攻撃を避け脳天を正確にレイピアで着けば素早く源治の後ろに移動し背中合わせになる。


「さあ今日がお前らの命日でここが墓場だ!死にたくなかったら気合い入れてかかってこいや!」

 源治は目を生き生きと輝かせながら人狼の一団に向かって走り出し、出会い頭に片っ端から切り捨てていく。


「行くよブルーローズ、氷術 氷剣山」(ひょうけんざん)


 猛火のように突き進む源治とは対象に凛は冷静にレイピアを地面に突き立てれば術式を起動し、術式を起動すると、地面から生えた氷の剣が扇状に広がり、次々に人狼を串刺しにしていく。


「やっぱ術式使うと派手だな。よっしゃ!だったら俺もいっちょ派手に行くか!」


そう叫べば廃病院でやったように、刀を左腕の鎖に擦らせ炎を纏わせれば、手始めに近くにいた一体を正面から唐竹割りにし背後から迫る人狼の攻撃をその場で後ろに向かって宙返りして避ければ人狼の後ろに回る最中すれ違いざまに首を切断する。


「うるさい・・・」


 エキサイトする源治を横目で見れば自分周囲一体の地面を凍らせのそこをスケートのように踊るように滑りながら足元がおぼつかない人狼とのすれ違いざま急所を的確にレイピアで貫いていく。


「これでっ!ラスト!」


 自分の回りにいる最後の一体の眉間をレイピアで穿けば凛の周りにいた人狼は全て倒したのか源治の方を見れば源治もすでに倒し終わっていたのかその辺にあった椅子に座り凛の戦いぶりを観戦していた。


 今度は凛が源治の戦闘力に舌を巻く番であった。戦闘の合間に横目で見ていたが、源治の戦い方は荒々しく簡潔だった。


すなわち、走る、殴る、蹴る、斬る。


 一見セオリーを無視したチャンバラ剣法に見えるが、古流剣術を思わせるその斬撃は一撃一撃が重く鋭い一撃ばかりだった。そんなことを思いながら、源治を見てれば


「初めての怪異狩りにしちゃ頑張ったな、最後の仕事だ、ちょっと下に行って任務完了の報告してついでに何か飲むもの買ってこい」


「何で私がそんなこと・・・」


「オレ、センパイ。オマエ、シタッパ。ドゥーユゥーアンダスタンンンンドゥ?」


「ハイハイ、わかりましたよ」


 源治はぶつくさ言いながら部屋を出て下に降りる凛を見送れば


「さて、コソコソ隠れてないで出てこいや」


 一見誰もいない空間に向かって呟けば、そこから突如一体の人狼が飛び出し窓から逃げ出そうとする。


 「逃がすかぁ!」


 そう言って足元に転がっていた先の尖った鉄パイプ足でトスし掴めば投擲し、投擲された鉄パイプは人狼の右肩を貫き、そのままの勢いで壁に縫い付ける。


「お前、この群れのボスだろ?人語は理解できるはずだ。言え、お前のバックに居るやつは誰だ」


「・・・」


「だんまりか、まあいい。・・・・顔面以外を刺し身にすれば死者でも喋るだろ」


それは普段の源治からは想像できない、聞いた相手を芯から凍りつかせるような冷たい声だった。


 質問に対して、だんまりを決め込む人狼のリーダーの左足を刀で切り落とす。次いで右足も切り落とし逃げることのできないようにする。足を切り落とされた激痛に人狼はたまらず叫び声を上げるが源治が手にした刀で太ももを貫かれ、無理やり黙らされる。


 「言わなければ次は足の残った部分から順に切り刻む。まずは足、次に手から腕、お次は胴体、最後は頭を口以外ずたずたにする。」


「・・・ロボ、狼王ロボ様だ」


 狼王ロボ、その名を聞いた瞬間、源治の表情は怒りと歓喜に満ち溢れた人間離れした表情を見せた。


「ロボ・・・そうか、あいつが・・・あのクソ野郎が戻ってきたのか!・・・上等だ!今度こそ地獄に叩き落としてやる!」


「・・・質問には答えた、オレを開放してくれ」


「・・・今までお前はそうやって助けを乞うてきた人間を助けたことがあるのか?」


 足の斬られ開放してほしいと懇願する人狼に冷ややかな目を向ければ、背負った銃を抜き致命傷となる部分を避け何発も銃弾を打ち込めば、もはや虫の息である人狼の首を一刀のもと切り捨てる。


「言われたとおり報告して、ついでに飲み物も買ってきたよ。・・・どうしたの?」


 凛は戻ってくれば源治の姿を見るなりぎょっとした。なぜなら先程まで返り血一つ浴びていなかった源治がコートや顔を赤く染め、足元には大量の薬莢その視線の先には鉄パイプで壁に縫い付けられ、足と首を切り落とされ、体は弾痕だらけでもはや原型をとどめていない人狼の死体があったからだ、驚くのも無理はない。


「・・・いや、一匹撃ち漏らしがあっただけだ不意を突かれたせいでちょいと返り血を浴びちまった。我ながらスマートじゃねえな。」


「・・・・元々スマートな戦い方なんてしてないでしょ」


「それもそうだ、こりゃ一本取られたな。よし帰って飯にでもするか、ついでにお前、今日からウチのメイドな。」


「ちょっ、なんで私がそんなこと!」


「言ったろ?負けた方は勝った方の命令を聞くことって」


「それはそうだけど・・・」


「心配すんなって、メイドって言っても一般的な家事と副業のアシスタントをしてもらうだけだ」


「副業?」


「まあそのへんは帰ってから説明する、とりあえず早いとここっから出るぞ。ここは臭くてかなわん」


 こうして、源治と凛は手傷を負うことなく廃ビルを後にしたが、凛にはなぜ人狼一体にあそこまでする必要があったのかという疑念が残った。


 なお、凛がビルの近くに止めておいた源治お気に入りのバイクは駐禁を切られておりそれを見た源治はその場で膝から崩れ落ちこの日唯一の傷を心に負った。 

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