第一章 感染者──四五頁
「昔此処に居た時は何をやってた?」
「何ってわけじゃないよ。ただの使いっ走りさ」
「
崩れたコンクリート地面から、割れた石タイルを踏むようになった。隙間から雑草が生い茂っている。顔を上げてみれば、目の前の枯れた噴水を囲うようにそれは円を描いていて、そこからさらに奥のエントランスへ向かってほんのり蛇行しながら伸びている。脇には花壇だったものやベンチの残骸がそのままになっていた。手入れされていた頃は綺麗な庭先だったのだろう。
「残念だが、お前に役割を与えてやることは出来ても、その役割の内容を過去より良い物にしてやるのは難しい。もしまた疾駆者からやり直しになったとしても、俺を恨まないでくれないか」
「恨むなんて、とんでもない! 生かしてもらえただけでも嬉しいよ。どんな仕事だって、ナチのために頑張るさ」
「ん」
「俺はこのまま用を済ませに行ってくる。それまでは淑慰と一緒に俺の部屋に居てくれギディ。淑慰、案内は頼んだぞ。それと」
扉を開ければそこは、ギデオンにとっても初めての光景が広がっていた。思い思いの服装で何やら取引をする
「ナチ、お前は俺と来い。しばらく会えないだろうからな、ギデオンにちゃんとサヨナラは言っておけ」
人混みが上手に雷路の小さな身体を避けていく中で、自分は何度も肩をぶつけられながらギデオンは、巨体を挟んで反対側のナチと話すために首を伸ばした。彼女は不安に押しつぶされそうな顔をして、ずいぶん縮こまっていた。大丈夫だよ、と声をかけてやるが、あまり変化は見られない。生まれて初めての環境に臆したのか、はたまたギデオンとの別れを悲しんでいるのか。彼女は床と雷路とギデオンを行ったり来たりで見やりながら、小さな声で怖い、とだけ呟いた。
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