少女は城下町の本屋へ
【古書と伝承と】
自分の背丈よりも遥かに高い本棚が、眼前にそびえたっている。まるで、壁のようだ。
小さな背丈の少女は濃い金色の髪を揺らして、小さく嘆息を一つ。
(さすが、この城下町の本屋ね)
沢山の本が並んでいるのを見ると、少女の中の知的好奇心が「ここの本を読み尽くしたい」と訴えてくる。学生時代の学校の図書室に入った時の感覚に似ていた。
……だが今日は、それは我慢しなければならない。
(ここなら、目的の本がすぐ見つかるかもしれない)
魔法が栄える様になって久しいこの世界、しかし彼女は魔法を弾いてしまう特殊体質だった。なので、極力自分では魔法を使わないで生活をしているのだが。
日常に必要な生活魔法が使えないと、少々不便な事もある。
火を点ける魔法の代わりに、コンロを使う。
埃を払う魔法の代わりに、掃除機を使う…等、使えない所は魔術機械に頼らなければならない。その魔術機械の一つが、故障してしまったのだ。
(年代物だったから、そろそろ新しい物に替えれば良いのだけど)
魔法具の一種に当たる機械は、結構高いのだった。そのため、すぐに新しい物に買い替えをすることは難しかった。
だから、ここの本屋ならば詳しい修理の仕方の載った本があると思い、少女は足を運んだというわけだ。
少女の蜂蜜色の瞳が、背表紙の表題を追いながら「ふーん」と呟く。
機械の本の背表紙の中で、上段の方に修理についての本を見つけた。しかし、背を伸ばしても届かない所に置かれていた。
少女は焦らずに、静かに床を蹴る。
ふわり、と少女は宙に浮かび上がると、小さな手に目当ての本を抱えてから、スムーズに降りて床の上に足をつける。
(…本を買って帰ったら、カフェオレを入れて読書をしようかしら)
見つかった本を手に、目的は終わったのでお会計をしようと思ったのだが、ふと少女の目に、古い書物が目に映る。
その本を手にしてみた。
表紙に描かれた挿絵には、
綺羅びやかな服を纏い踊る少女。
鎧を着て剣を掲げる男性。
鮮やかに歌う少女。
そして、祈りを捧げる聖者の姿が載っていた。
その本の
こんなものがまだ残されていたのか、と少女は密かに思う。と同時に…あの娘にいいお土産が出来たかも知れない、と思った。
少女は、その古い書物を手に取った。
(英雄として語り継がれるには……それなりの功績が必要、か)
古い遺跡や伝承を調べている、知り合いの考古学者の卵の少女の事を思い浮かべる。彼女には、この前自分の仕事を手伝ってもらったのだった。
恐らく彼女は、この本を買って帰ったら喜んでくれるだろう。
そう考えた金色の少女は、2つの本を持ってレジへと向かった。
帰ったら、本を見ながら故障した機械の修理をしなければならないけれど…
それはそれとして、今度はゆっくりとここの本屋を訪れよう。と少女は考えながら、飛行塔近くの森の中にある診療所への帰路に着くのだった。
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