ある日のお昼休みの学園
「あっ!お弁当じゃん、珍しい!」
ついびっくりしてしまった。
お昼休み。
友達の新菜は、いつもはコンビニのパンを持ってきてお昼ご飯にしている。
それなのに、今日は珍しくお弁当箱を持ってきていた。
沙羽の反応にきょとんとしていた新菜は、「そうなんだ」とのほほんと言って席に着くと、お弁当箱の蓋を開ける。小さく「いただきます」と言って、お箸を持って食べ始めていた。
(……そうじゃなくてさ!)
もくもくと卵焼きを食べてる新菜は、きょとんと友人の沙羽を見つめた
「うん、美味しいよ」
「聞いてないし」
そんな沙羽もお弁当を机の上に置いた。金欠学生なので、節約のために昨日の残り物を詰めただけだが。
ちらりと友達のお弁当を見てみると…意外に美味しそうで綺麗。栄養バランスも良さそうだ。
沙羽は椅子に座ると「いただきます」と呟き、お弁当の蓋を開いてお箸を手にする。うちのお弁当は緑部分がブロッコリーの森しかないわ…と、若干呆れつつ、お弁当を食べつつ友達に訊ねてみた。
「凄い綺麗じゃん、新菜が作ったの?」
「まさか。私じゃ作れないし……」
少しぶすっとしたまま、炒め物を口に運んでもぐもぐと食べている。
すると、新菜のママが作ってくれたのかもしれない。と沙羽は考えながら、ついつい友達のお弁当を見つめてしまっていた。つい好奇心が沸いてしまったのだ。
「……ねえ、おかず交換しない?」
「…ええ!だ、駄目!」
「いいじゃん、お肉もらいっ!」
「あ……!」
ひょいとお弁当の中の肉巻きを取って、口の中にぱくり。
これは、ほっとするような味……
「うまっ!」
「楽しみにしてたのに…」
「ごめんね許して~!代わりにうちのから揚げあげるから」
「もー、仕方ないな」
はいどうぞ、と一番大きめのから揚げをあげた。少し機嫌をむっとさせていたけど、から揚げで少し直ったみたい。
最初から新菜におかずを交換しようよ、って聞けばよかったかも。うちもいきなりつまむのは悪かったな、と思った沙羽はあとでちゃんと謝った。
それから二人でお昼を食べていると、別で固まっていた知り合いの男子達がやって来た。
「河村~、聞いてくれよ!」
「食べてる最中に絡むな笹野!」
沙羽の事を名字呼びで声を掛けてきた三枚目男子は笹野。彼らは中等部からの腐れ縁で気安い間柄だ。
いつもテンションが高い笹野だが、今日はいつもよりも高めでちょっとウザいなと思い、沙羽はげんなりした。
「見ろよ、松本の妙に理想的な弁当!しかもこいつ、自分で作ってきたんだぜ!」
「阿呆!言うな!」
笹野の後ろから、猫背気味の同級生の松本が、真っ赤になりながらキレ気味になっている。
でも松本の作ったお弁当は気になるわ。
沙羽は椅子から立ち上がると、笹野達のいる所へ近付いていく。
……笹野達と一緒に座ってた園崎は、半分呆れたような顔で沙羽をじーっと見ながら「え、河村…見に来たんだ?」と言いたそうだった。
「弁当男子じゃん、どれどれ……うん?」
若干焦り始めた松本を他所に、お弁当の中身を見てみる。
気のせいか、見たことあるな……?
というか、さっきまでうち…
「…ちょっと松本さん、こっち来いや」
「河村、何……怖いんだけど」
沙羽は松本の腕を勢いよく掴んで新菜と座っていた所に連れていく。
「きゃっ!ええっ、松本くんも!?」
「これ、作ったん?」
「……いや、あの…」
明らかに動揺をし出した松本を見た沙羽は、心の中でこっそり
(あーやっぱり図星かぁ)
なんて考えて苦笑を浮かべた。
そこに、こちらにやって来た笹野が、新菜の食べ掛けのお弁当を見た。
あっ、嫌な予感がする。と思った沙羽は慌てて笹野を顔面を両手で覆う。
「……!芹澤ちゃんのと…もがもがっ」
「黙れ笹野」
それに続けて、松本が低い声を出して呟いた。ついでに少し顔付きが怖い。
暗に「その先を言うな、黙ってろ」の意味を汲んだ笹野は、こくこくと頷いた。
沙羽は静かに顔から手を離すと、笹野はちぇー、リア充はいいよなあ…とぼやいていた。
「…ほーん。でも松本は器用だね」
「別にこれくらい、練習すれば」
「あとね、沙羽。松本くんはお菓子作りも上手だよ」
「マジ?」
意外な事実を聞いた。
「この前貰ったマカロンも美味しかった」とほわほわな空気感で話している友達の様子を見た沙羽は、茶化すように松本の肩を軽く叩いた。
「すぐにお婿に行けるじゃん」
「河村…痛いんですけど」
「……ごちそうさまでした」
これまでマイペースに食べていた新菜は、空になったお弁当箱の蓋を閉めて、ペットボトルの飲み物を一口。
「えっ、もう食べ終わったの」
「沙羽が食べてる途中で喋ってたからだよ」
……そうだった。凄い行儀悪いことしていたわ、と思った沙羽は、慌ててお昼ご飯を食べるのを再開することにした。
松本も、笹野達の方に戻っていった。
「というか、いつの間にカレカノになったの?」
「つ、付き合ってない!」
「…お弁当作ってくるって、それなりに気があるんじゃないかな」
「……えっ、そうなの?」
(えっ、じゃなくてさ!)
松本さーん。あなたの気持ち、多分あまり伝わってませんよー、と大声で言いたくなった沙羽だったが、ぐっと堪えた。
この天然な友達と松本の二人、もう付き合ってるようなものだと思うけど。
あとでこっそり、保健室の喜多センセに聞きに行ってみようか。と考えながら沙羽はペットボトルのミルクティーを飲んだ。
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