自称ライバルと再開したら別人でした


僕の人生はいつだって恵まれていた。

家は資産家と呼ばれるくらいには裕福で、父は先生と呼ばれる仕事をしており、母も企業の社長をしていた。その為その息子の僕も幼い頃から周りにちやほやされてきた。

両親は僕にできる限りの教育を受けさせた。幼い頃から勉強や習い事を掛け持ち、どれもそつなくこなせる程度には出来た。気付けば天才なんて呼ばれるようになっていた。

ああ、分かってるさ。子供の頃の僕は生意気で可愛くないガキだったってことは。

人生は楽だ、イージーモード。自分に出来ないものはない!…と、この時は人生をなめていた。


「絶対、お前に勝ってやる!」


中学生になって突然、同級生からそんなことを言われた。

名前を聞いてから、よく二位の所にある名前の生徒かとぼんやり思った。僕は入学してからずっと学年一位だった。それすら当たり前だと思ってた。

成績トップが当然になっていた僕は、見ず知らずの人にライバル宣言をされても特になんも思わなかった。

それから、その自称僕のライバルは、テストの度になんやかんやと話かけてきては、ぎゃーぎゃーと言いたいことを言ってきた。


「またお前が一位かよ!」

「うるさい」

「うるさいってなんだよ、ライバルなんだぞ!」

「ライバルのわりに、僕に一度も勝ったことないだろ」

「うっせ、ぜってぇお前に勝つ!」


両親の意向で公立の中学校に通っていた。私立の方が同じレベルの人達と競えると思うのだが、親が「お前はもう少し普通の感覚を養ってこい」と言うのなら仕方ないと思ってた。

この時の僕は、放課後も習い事と塾三昧で外で遊ぶ時間はなかったし、そもそも友達と呼べる人はいなかった。

この自称ライバルがこうして話してくるだけ。煩わしいとしか思ってなかったが、何故だろうか、少しだけ学校が楽しいと思えるようになっていたのも事実だった。


だが高校に上がった時、自称ライバルとは別の高校に通うことになった。

そこは両親から言われていた名門の私立高校だった。父も母もそこの出身で、どうしても通わせたいらしい。

勉強が出来る環境で、偏差値の良いところであれば学校など何処でもいいと思って勉強に打ち込んだ。

一位をとっても、ぎゃーぎゃー言われることも、ライバルを公言する奴もいない。当然だ、学年の皆がライバルのようなものだ。それでも、煩わしさがなくなった事に少し寂しさを感じた。

そうして、親の望む大学に受かり無事大学生になったある日のこと。


「あ!お前は!」


聞き覚えのある声がして、懐かしいような気がして振り向くと、


「久しぶり!全然変わってないね!」


綺麗な長い髪と、ぱっちりした目の美人がにこやかに声をかけてきた。

……え、誰だ?


「私だよ、中学校の時テストで二位ばっかり取ってた……」

「……お前、女だったっけ?」


うん、そういえばわたし、あの時の髪型ショートだったもんねー。

などとのたまう。

……???、なんだと?


「いや、でも制服着てたし、スカート穿いてたけど」


僕の中でお前は、煩わしい男だったが!?

それにスカートを履いていたか?……覚えてないな、そういえば何時も上半身しか見てなかった。


「……普通、お前の名前を見たら男だと思うだろ」

「いや、女子でもアキラって名前の子わりといるっしょ。勉強ばっかしてるから頭の中カチカチになるんだろ」


からから、と笑ってる。

こいつ、そういうところは中学の時と変わってない。あか抜けて綺麗になっても、自称ライバルその人だとじわじわと実感が込み上げてきて。


「いやあんた、どんだけ興味なかったんだよ…うわ、マジ悲しいわ」


思わず「すまない」と言う。すると、まじまじとこちらを見てから「聞いていい?」と訊ねられたので頷く。


「…わたし以外の友達出来たの?」

「いなくてもどうにか生きていける」


アキラはあっちゃー、と片手で頭を抱えだした。さっきからなんなんだ。

確かに、成長するにつれて周りからちやほやされることはなくなったし、同級生からは元々好かれていた訳ではない。元から一人行動をしているんだ。何とも思ってないし、寂しい奴と思われても構わない。

と思っていたら、何だかぶつぶつ言っている。


「……まずは格好だな。それからイメチェンして…」

「お前…もう十分イメチェンしてるだろ」

「わたしじゃねーよ。あんたのことだよ」


……は?


「どうして僕がイメチェンしなければいけないんだ」

「友達作るためだよ!ばか!」


つか、その格好じゃ友達が寄り付くわけないじゃん!と彼女に言われてしまう。僕はぽかーんとするしかなかった。ファッションに疎かったのだ。


「…しかも、無駄にいい生地だし…」

「シャツに触るな」


衣服はほぼシンプルなものしか来てないはずなんだが。

そう言ったら彼女から「シャツの上にシャツを着てるし、上下別々の柄物だしでありえない」とばっさりだった。


「別に構わないんだが」

「よくない!…ほらどうせ塾に行くか自宅に帰るだけだろ。買い物に行くよ!」


それから、なんやかんやあって彼女に強引にイメチェンさせられて、友達が出来て出かけることが増えていき、家の人たちに子供の頃に勉強が出来た時よりも喜んでくれた。

彼女とはそれから初めて出来た友人としてまた付き合いが始まった。




「……まあ、その彼女が母さんなんだけどな」

「よく結婚までに至ったね」

「そうなんだ。私も何故母さんが結婚してくれたのかよく分かってない」


アキラは美人でさっぱりした人で色んな人にモテていた。

私よりもかっこいい奴や性格がいい奴は沢山いたはずなのだが、彼女はなんやかんやと言いながら「ほっとけない」と一緒に人生を歩んでくれていた。


「お父さんは恵まれているね」

「そうかもな。父さんは運だけはいいから」

「うわ、何それ」

「あんたたち、ご飯できたよ」

「ああ、ありがとう」


妻に返事をして、ソファから立ち上がる。子供が、はーいと返事をしながらリビングへ歩いていった。

一足遅くリビングのテーブルにつく。ご飯を見た後に、今日のハンバーグのこだわりポイントを聞きながら、改めて妻の顔を見ていた。妻がこうして話すのを聞く自分…昔の話をしたせいだろうか、なんだか顔が綻んでしまった。


「ん?わたしの顔に何かついてる?」


不思議そうな彼女に、昔から変わらないなと思ってただけだ。と返した。

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