星に願いを


一人の少年が、ぼんやりと空を見上げていました。

日が暮れて数時間、墨色の空に大小様々な星が散りばめられています。

その空をくたびれたベンチに座った状態で見ていました。少年はフードを被っているので、明かりのない外では顔色がよくわかりませんが。


「今日は綺麗な星空ねぇ」


そんな少年のそばに、半透明な体の猫がふわりと浮かんだ状態で現れて喋りかけました。


「眩しいよカラ、邪魔するなよ」


真っ白の体毛の周りが淡く光っています。少年が眩しそうにしていると、猫はまんまるの緑色の目でしてやったりの顔をしました。

猫の名前は「カラ」。少年の相棒のような存在です。


「何よあんたねぇ。夜も遅いのに一人じゃ危ないでしょう」

「うるさいなあ…」


せっかく一人で星空を見にきたのに、と少年がぼそりと呟きます。

少しばつが悪そうな少年に、カラが少年の名前を呼びました。


「ミズイロ」

「…気をつけるよ」


それならよし、と白い猫は先程とは売って変わって明るいトーンで少年へ話かけます


「ミズイロは昔から星空を眺めるのが好きよねぇ」


少年、ミズイロはうん、と頷いてから


「流れ星が来たらすぐお願い出来るじゃん」


と言いました。


「…流れ星が流れる間に三回お願い事を呟くってやつよね」

「昔ね、旅人のおじさんが教えてくれたんだ」


どこか楽しそうに「にひひ」と少年が笑います。

白猫はしっぽをゆらゆらとさせています。


「人間は神頼みってやつが好きよねぇ…」

「そうかな?」


ミズイロは言います。

それに、流れ星を待ちながら空を眺めてる時間が楽しいんだ、と。


「バカね、流れ星なんて早々お目にかかるもんじゃないわよ」

「だからだよ。いつになるかわからないけど、待っていたいんだよ」

「あ、そ。それじゃ願いが叶うのがいつになるんだかわからないじゃない」

「……それでもいいの」


少年の言葉に、白猫はふうと息を吐きます。


「ところで、あんたの願いって何?」

「言ったらつまんないよ」

「それもそうね」


ふん、と空気を出した白い猫は、それから少年の背中のフードをめくってその中に収まります。


「あれ、カラ?」

「知らないの?猫は気紛れなのよ、もう眠くなってきたわ」

「カラは猫じゃなくて精霊でしょ…」

「しらんにゃ」


分かりました、宿に帰りますよ。と少年はゆっくりとベンチから立ち上がりました。


「見つかるかな、僕達の探し物」

「さあね、星に願うだけでは見つからないわよ」


彼らは「歌声」を探す旅人。

一人と一匹の旅路に何が待っているのか、それはまた別の機会に。

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