世界が壊れても、彼はきっと関係ない
金髪にピアス。派手な素行が目立つが顔は整った美形で、そのくせ成績はいつも優秀で、運動神経も抜群で、家は有数の資産家の一人息子。
まるで人生は俺を中心に回ってるとでも思ってそうな僕の幼なじみの一人は、夏のくそ暑い下校時間にも関わらず後ろから腕をかけてきた
「ちっ…あちぃ」
「そう思うならやめろよ」
鬱陶しいのでかけてきた腕を払うと、
そいつは、ちっ、と軽く舌打ちを一つして怠そうに頬を掻いた。
こいつは僕の幼なじみのバンリ。直情的だがめちゃくちゃ頭の回転がいい天才。そのくせ素行が悪いが、何時ものことだから気にしない。成績優秀だからか、先生達は表立って強く言えないみたいだ。
「お前、チャリだろ。コンビニまで運んでくんねぇ?」
「はあ、無理。んなくそ暑い日に、人を乗せてチャリ漕ぐとかありえないから」
てか、たしか交通法だっけ?お巡りさんに見つかったら違反になるからやだ。
そう続けると、バンリは面倒くさそうに頭をかいた。
「ちっ、なら俺が乗るから、お前は降りて自転車押して歩けばいいだろ」
「うわ。女子に自転車引かせるのかよ」
「や、お前の腕力女じゃねぇから」
「いやいや、喧嘩っ早いあんたには負けるから」
なんて言い合いを繰り広げてるところで、もう一人の幼なじみが通りかかった。
「おーい、トウヤ」
「……ん?二人揃ってどうしたの」
「どうしたもこうしたもねぇよ」とぼやくと、バンリはトウヤに帰るぞと呟く。
トウヤも同じ高校に通うバンリの友達、勿論僕ともだ。
茶色の髪を適度なお洒落加減で遊ばせてるけど、けして派手ではない。
見た目はとても人畜無害そうな奴だけど、さらっと酷いことをするのはこいつだったりする。
二人に付いていく形で、下駄箱で靴を履き替えてから自転車を取りにいって、そのまま下校することになった。
いいのか悪いのか、家の方向が同じだ。
「あれ?この前付き合いはじめた彼女はいいの?」
「そっこーで別れた」
「うっわ、サイテー……」
こっちが引いてると「一週間付き合ってもやらせてくれなかったから別れた」と言いやがった。
思わず「少し前の女子大生ともすぐ別れてたでしょ」とバンリに返すと、あからさまに顔を背けた。一応女子と遊びで付き合ってる罪悪感あるんだな、てっきりないのかと思ってたわ…。
地味に感心していたら、あーそれな…と呟いた奴は、僕を見て鼻で笑った。
「あいつ、胸にパッド積めて大きさごまかしてたんだよ」
「は?」
いま、なんつった?こいつ、いまなんつったのねえ!!
思わず僕はいらっとして、半ば反射的にバンリの腹にパンチをお見舞いした。
「ああいうの、 マジ萎えるから…って!いてえ、なにしやがる!」
「パッドを積めて何が悪いって?」
「あ?メグルのことじゃねえよ」
「今のはバンリが悪いよ…」
やっぱりこいつ、顔は綺麗でも女の敵だ。
今頃あの子もこれを聞いて、ため息ついてるかもしれないな。
「あ、なら花でも買って行こうよ」
「花?こんなクソ暑い日に…」
「たまには行かないと、かわいそうでしょ」
そんなことを言ってたトウヤが僕達を引っ張って来た先は、
「……ここって」
古めかしい墓石が並ぶ中で、周りよりも少し大きめなお墓の前にやって来た。石に彫られた人の名前の羅列の隅には見慣れた人の名前……『ウタガワ ミレイ』の文字があった。
ここは、約一年半前に亡くなったバンリの両親と、妹のミレイの眠るお墓だ。
ここに来る途中で買った花をトウヤからパスされてぽかんと立ち尽くしているうちに、トウヤは桶と柄杓を借りてきてお水を掛けている。
「手際いいね」
「幼い頃、母さんが親戚のお墓に行くときに付き合わされて、よくやってたんだ」
まじか。
僕に誉められたのがトウヤは少し恥ずかしかったのか、困ったように頬を掻いている。
いやーよかったわー。お墓参りのマナーとか分からなかったんだよね。
「見よう見まねで覚えただけだよ」
「いや、じゅうぶんだって。じゃあ先生、花はどこに置くんですか?」
「え、先生…?ええと、こっち」
そこに、バンリがお寺の人からお線香と○ャッカマ○を借りてきて戻ってきた。
「ナイス!」
「はあ?…くそっ、住職に見つかって押し付けられたんだよ」
本人曰く住職さんの話が長かったそうで、表情があからさまにめんどくさかったと言っているようだ。
(いや、多分住職さんはバンリを心配してたんじゃないのかなあ)
住職さんは僕たちを含めてよく知ってる人だから、きっと家族が亡くなって気にかけてたんだと思うよ、まあ話が長いのがあれだけどね。
バンリが線香の束に○ャッ○マンで火を付ける。それから手で扇いで火を消して、煙が出てるのを確認してからお墓の前へ置く。
「よし、それじゃ」
墓の前に立ったトウヤは手を合わせた。僕も彼に倣った。
ミレイに話したいことたくさんあるけれども、あまり長いのもあれなので、近況報告をすることにした。
とりあえず、バンリもトウヤも僕も相変わらずバカやってるよ、と。
「お前ら、墓前を前によくやるよな」
墓前で手を合わせ終わって振り向くと、バンリは至極つまらなさそうに腕を組んでいた。
ここ、あんたんところの家族の眠る墓の前だった気がするんだけど。
「たまには手を合わせれば?」
「そうだよ、ミレイちゃんも悲しむよ?」
「トウヤ。あいつなら草葉の影で笑ってるかも…って痛い、いたいいたいヤメロ!!」
唐突に、僕の髪を引っ張ってきたので、叫んでやると、「急にムカついた」と鼻を鳴らした幼なじみ。
コイツ、今だけは殺意が湧いたわ。
「まあまあ、落ち着こうよ」
ブチギレそうな僕を止めたのはトウヤで。
ちぇっ、わかってるよ。トウヤに免じて、黙ってやるよーだ。
それからふと、ミレイが今の僕らのやり取りを聞いていたら呆れてそうだな、なんて思って、思わず笑みがこぼれた。
バンリには「なんだこいつきもちわりい」と言いたそうな目をされてしまったが、そんなの知らないもんね。
「もう気が済んだか?俺、これから用事あるんだけど」
ふんと鼻を鳴らしたバンリは、もう帰ろうと墓場の出口の方へ目を向けていた。
帰るまで俺は付いてきただけだムーブを通すのかよ、らしいけどさ。
まだ女子大生でも引っ掛けに行くの?程々にしなよ……なんて聞きかけた僕には、思ってもない言葉が返ってきた。
「魔女のところだよ」
「は?」
まじょ?
「不可視の魔女って言えば分かるか?」
たまに、理不尽だと言っていたバンリ。
コイツがミレイのことを悔やんでいるのは、端からみてもよくわかってた。何だかんだでも妹の事を大事にしていたのを身近で見ていたから。
こいつは相変わらず、むちゃくちゃなことを言うよ。
「『知りたいことを教えてくれる魔女』は、会いたいと願えば探せず、その存在を否定すれば姿を現すんだっけ。…でも」
都市伝説の存在を探そうって言うんだから。
じゃあ暫くいなくなるわ、といつものノリでお寺を後にしたバンリはそれから言った通り、暫く学校にも家にも帰ってきてなかった。僕達は半信半疑だったので、バンリを止めることもしなかった。
あの時、止めてれば……良かったな。
バンリがいなくなって半年後、世界中で異変が起きたのだ。植物や動物の異常増殖、巨大化等…僕の住む街でも巨大な木がビルを突き破り、コンクリートがひしゃげて交通網は混乱している、次々と閉鎖していく都市。
何処からか伸びてきた樹の幹はまるで、地球を絡めとるかように見えた。
そして極めつけは『魔法』だった。
「……おまえら、相変わらず間抜け面してるな」
友人は、『魔法』と共に現れた。
手にした力で地球を救う?
違う、ただ彼は。
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