俺達いつもの追試グループ
今日はこの課題を解いて提出しなさい。年配の先生が、気だるそうな生徒達にプリントを配っていく。
その中の一人の俺は、そっと課題の問題を見る、……うん、見たらいけないやつだな。さっぱりわからない。
この先生の補習は強面の割にとても分かりやすい説明をしてくれる。俺達みたいなあほなやつにも丁寧に教えてくれるし、ちょっと頭良くなった気がしてくるからそこまで苦じゃないんだけどさ。
それを期待してたけれど、急に別の先生が先生を呼びに教室に走ってきた。
先生は強面に皺を寄せていたが、教科書とノートをよく読めよ。後で助っ人連れて見に来るからな、と言って教室を出ていってしまった。おい、わかんないから俺達補習に出てるんだろ!?
解説を期待してたのにマジどうするかな。先生に渡されたプリントとにらめっこしていても、とても解ける気がしてこない…仕方ない、教科書開くか……ダメだわかんねえ。
そんなわからないだらけの勉強が進むわけがなくて、いつの間にかプリントよりも他の補習してる奴らと話が盛り上がってきてしまった。
うん、よくある。よくあるよな?!
「見たか!俺のスマッシュ」
ははは、と何人かが笑っている。
高橋が卓球の試合のことを熱弁していた。
今日は期末試験が終わった後の球技大会があったのだ。勉強の出来ない俺達に与えられた女子にアピールするチャンス、とか思ってる奴もいれば、ただ純粋にスポーツを楽しむやつもいる。そんな俺はイベント自体がめんどくさいタイプなので、高橋みたいに楽しめる奴が少し羨ましかったりする。
「お前、やべえ顔してたぜ」
「ラケットすっ飛んだよな!それで佐藤がビビってさー!」
顔がやべえっていうよりは、あれは顔芸の域だった気がするんだけど。
佐藤は隣のクラスのやつで普段すげえ静かなやつだったが、まさかあんな卓球が上手いと思ってなかった。見かけによらないな。
うっせぇな、勝ったからいいじゃんかよ、と高橋がぶつくさ言ってたが、二人の試合はめちゃめちゃ白熱してた、とサッカーの試合の合間に見に行っていた黒田が話していた。
「それよか鳴上くんよぉ」
堀川がにやにやとしながら俺に話を振ってくる。うわ、気持ち悪いわー。
「ナツさんがさっきのサッカーの試合見てたぜ」
はあっ!?…俺知らねえし!
きっとナツに言うと、見に行ってあげる、って言われそうだし、正直めんどくさそうだったから、サッカーの試合に出ることも何も言ってなかったのに、何であいつ来てるの?!
「早く言えよ!」
周りが口々に「無理だろ」「だよなぁ」と言い合う。
ナツは俺の一つ上の幼なじみで、やたらお姉さんだから!と言って俺の世話を焼いてくれた。幼い頃は憧れのお姉さんだと思ってた時期もあったし、気になってた。
そんなアイツは俺を姉弟みたいにしか思ってなくて、こっそり涙を流したよ、俺。うっすら分かってたけどさ!
けれどナツの方は、たまに世話を焼きにくるので「もう高校生なんだし、ほっとけ」と言ったら「反抗期で冷たい」なんて言ってくるしな!どうしろって言うんだよ!
周りは何故かナツさんと呼んでるし、あいつの方もお姉さんぶってちゃっかり仲良くしてるみたいだ。
「どこで知ったんだ…見られたくないから言わなかったのに……」
「ごめーん、どうしてもってナツさんに言われてさあー」
「たーにーぐーちー!」
前の席で座っておどけている谷口の肩を掴むと、思わず揺すった。笑ってるんじゃねぇよ!
するとまあまあ、と望月が止めに入ってきて
「いいじゃんいいじゃん、俺なんてさ、黒田の引き立て役にもならないんだからな」
くっ…!黒田はいいよな!目立ってやがった
!と堀川と高橋の二人がきーっ、とタオルを噛んでくやしがっている。
あー、二人は特にもてたいんだったっけな。
かわいい子達に囲まれたいらしい。男のロマンみたいなところあるけど、俺はどっちでもいい気がする。
サッカー部だし、あいつそういうときは輝いてる(と女子の皆さんが言ってた)そうだが。
「…たかが球技大会だろ」
プリントを解きながら話に加わっていた佐藤が、やかましいとぼやく。
お前、いたのかよ。
「テストの後だからするんじゃねぇか」
「まぁ授業よりいいけどさ」
「……つーか、追試の勉強してんだよな俺達って」
そんなこと、今さらだと思うぞ。
それから数十分後、教室にやって来た先生と助っ人先生に、雷を落とされながらプリントの問題の内容を頭に詰め込まれるはめになった。
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