いつまで経っても変わらないんだから

自分のきもちなんて、そんなもの

あいつのことなんて、それくらいにしか思って無かったんだ、きっと。



「……で?なんでボロ泣きしてんのさ、君は」


ひっく、ひっく、と嗚咽を繰り返して俯くあたしに、幼なじみのコイツは無神経に顔を覗き込んでくる。


「しらないわよう…!」


しかも、わざわざ人気のない社会科準備室を選んだっていうのに、当たり前みたいにやってきてあたしの隣に座り込む。

くそう、これじゃせっかくひとりになろうと思ったのに


「だから言ったじゃん、後悔する前に告っちゃえってさあ。それなのに?ぐずぐずしてるから」

「う、うるさいな!後悔とかしてるわけ……!」


…うそ、少ししてる。

けれど、それは恋とかそういうやつじゃないって、あまり気にしてなかった。気にしてなかったはずなのに、後から落ち込んで来ちゃって……なんだか泣きたくなったんだ。

泣いたら落ち着くかも、なんて思ってたのに。


「今頃、新しい場所で君より可愛い女子と仲良くやってるかもね」


うっ、と言葉を詰まらせる。

けど今さら、あたしに何を言わせたいのよ。ついムカついて、幼なじみを見据える。


「どーせあたしは綺麗でも可愛くもないっての、ほっといてよ」

「もー、かわいくないんだから。ちょっとくらい驚いてくれないと、からかいがいがないんだけどなぁー」


幼なじみは、つーんと頬を膨らませると、「みいとは大違いだ…」なんて言いやがる。自分の彼女と一緒にすな、つーかかわいくない幼なじみよりも彼女を構ってやれよ。ほんとにもう!

ぽつりと、あたしは思わず口にする。


「……無理にきまってんでしょ…」

「どうして?」


ほんとに不思議そうに、あたしの顔を見た。

そんなに情けない顔してんのかな、今のあたし。きっといま、涙でくしゃくしゃで、最高に酷い顔。


「…だって、あたしみたいなのが告白、したって」


思ったよりも弱々しい声が出てしまったあたしに、「ってことは、好きだったんだ」と相づちを返される。

あたしはぶんぶんと首を横に振った。


「そーいうんじゃないの」

「じゃあ、なんなのさ」


意味わかんない、と言いたそうな彼に、あたし自身も首をひねった。


「自分でも、よくわかんないのよ」

「は?」


素っ頓狂な声が隣から帰ってきた。

コイツ、ナニイッテンノって思うだろう、そうでしょうね。あたしもわかんないよ。

だって、仕方ないじゃん。


「だからさ、あたしだってわからないの!あいつと一緒に居ると楽しいよ、別れるのは、スゴい寂しいと思った。けど、」

「それが、すきなのか、わかんない?」

「……」

「…わかんないけど、泣いてんの?」

「……悪い?」


あー、もう言うんじゃなかった。

さっきから、冷たい視線なんですけど。

あたしのこと、絶対馬鹿にしてる、絶対。


「…君、バカだねえ」

「うるさい馬鹿あんたに言ったあたしがバカだった」

「はー、此処までいくと笑えるよね、あはは!」


盛大に笑いやがった。割と真剣な悩み事だったのに!

ちょっとあたしだって怒りたいぞ


「居なくなって、さみしいんだ、へー……えーと、咲が寂しがってます、とあいつにlineしよーっと」

「はあ!?絶対やめて!それに、なんで連絡先しってんのよ!」


隣の幼なじみの腕を勢いよく掴んで叫ぶと、だって友達だし、と幼なじみがにこやかに笑った。


「咲に、いーこと教えたげる」

「え?」


何か嫌な予感しかしないんだけど。

すると幼なじみは、にんやりと笑って見せた。


「あいつ、今日この街に戻ってきてんだよ」

「え?」


なんで、どうして?

いやそれよりも、胸の奥が動いた。幼なじみはふふんと、口角を上げたまま。


「きっとまだ間に合うし、駅に行けばあえるかもよ?」

「……会う理由ないし」

「確かめてみればいいじゃん。泣くほど寂しがってるのに、尻込みしちゃうの?」


そこまで寂しがってないから!

だって、まだ自分でもよくわかんないんだよ。もしかしたら、その時の勢いかも知れないし。向こうだって、そんなやつが会いに行っても……

言葉が上手く出てこなくて、またうつむきかげんに手のひらを見つめる。


「……だけど、」

「だいじょぶ、モーマンタイ、all right」

「なんで?」

「…そうしたくもなるっていいますか」


苦笑いを浮かべた幼なじみは、続けて呟いた。


「当たって砕けろっていうじゃん。ほら行ってこい!」


何故だろ。今なら会いにいける気がする。

何が、って言われたってよくわからないけれど、急に不安が吹き飛んだ気がした。

幼なじみの手を借りて立ち上がって、涙を拭う。うん、そうと決まれば。


「あのさ千晴」


「ん?」という幼なじみに、「自転車なら間に合うかな」と尋ねると、ふわっと笑った、気がした。


「行くの?」

「……とりあえず、ありがとっていっとくね」


『何それ』って笑い声が聞こえた後に、あたしのバックとスポーツタオルを寄越された


「…何これ」

「や、とりあえず顔洗っていけよ」


色々台無しだし!まったく!




なんだか、コイツを応援したくなった。

何となくね。

だってさ、こんなくしゃくしゃになるまで泣いてるのみちゃったら、ね?


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