それは少女の鮮やかな死から始まった



ーーこの世に神様がいるのなら、きっと彼らは 人間に優しくないと思う。


そんなことを考えながら、街中をぷらぷらと歩く女子高生ってのも、何となくつまんないのかもしれない。

仕方ないじゃないか、別に僕は好きで女の子ではないし。


そりゃ、人並みに女の子らしくしたり、恋してみたいって思う。けれど、スカートよりパンツを穿く方が好きだし、しおらしくたおやかになんて、絶対に無理。ストレスが溜まってしまう。

不意に、長い黒髪の似合う親友の姿が頭をよぎる。


『…いいよね、ミレイは。黙ってれば深窓の令嬢みたいだもの』


『貴女だって、黙ってれば今流行りのカッコイイ少年にみえますよ?』


『ミレイさん、わざと言ってます?』


僕はこれでも女の子ってやつなんだけどな。そりゃ彼女は清楚なワンピースが似合うような美人だけれどさ、なんてむくれていたら、彼女はふうっと息を吐き出した。


『私は貴女のような容姿の方が羨ましいです』


『なんでよ』


『この前、家でTシャツにショートパンツの格好で、リビングでパンを食べていたら、ケイが文句を言ってきたんですよ』


『へー、アイツが?』


『妹相手に、中身を見た目に合わせろなんて、言い出しましたよ。

家の中なんですから、関係ないじゃないですか』


ふわっと脳裏に浮かんできた、妹分との思い出についつい、ふふふと笑ってしまう。


ミレイの事を考えてしまうのは仕方ないかな、あいつ達の身近にいた娘だったから、僕も自然に仲良くなっていたんだよな、なんて思う。


「……あっという間だったよ」


ホントに色んな事が、あった。

深窓の令嬢のように秀麗な美少女だった彼女が殺された日からーー


「まったく、ねえ…」


僕らを取り巻いていた環境は、呆気なく変わってしまったんだよ。

君は今の僕たちを見て、何を思ってるだろうね。


(ま、あの娘の事だし、……かも知れないけれどさ)


少女の歩くコンクリートの先に、道を阻むものがあった。

巨大な蛇のようにうねうねと横たわっているのは巨大な、樹の幹だ。

何が引き金だか分からない、けれど突拍子もなく自然が人間に牙を向いたのだ。

世界規模の、植物の巨大化のニュースが飛び交ったのは、いつだったのか。

それから程なく、動物の凶暴化、新種動物の異常発生等が起こり、世界が混迷していったのを覚えてる。

誰かが言った、地球を汚した人間への報復なのだと。

次々と街は壊滅状態になった。ここだって、いつ閉鎖されるかわからないのだ。


あーあ、何が起こるか分からないって本当だよね。

「『魔法使い』なんて、絶対胡散臭いと思ってたのに、さ」


あんなものを目の当たりにしなければ、きっと信じなかったけど。


ひらり、と季節外れの蝶が一羽、空を舞う。



「ねえ、これも望んだ未来なわけ?」



永遠の眠りについた彼女への問いを、誰にも聞こえないように呟いて、少女は樹の、巨大な幹の一部を飛び越えた。

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