御伽の国の少年少女。

三島水都

第1話

むかしむかし、ある森の中に不思議な建物がありました。

洋風の大きな門。誰もが夢見る大きなお城。広い庭にたくさんの花。

子供たちの楽しそうな笑い声。

一見裕福な家庭で幸せな家族が暮らしている描写ですが、街の中ではある噂が広がっていました。

ーあそこには狼男がいるー

ー人魂を見たー

ー不気味な演奏が聞こえたー

ー森に入った瞬間カバンの中身が消えたー

人々は口を揃えてこう言います。

「あの森は呪われている。」と・・・。


人々の声が遠くに聞こえる街の路地裏。そこにぺタンと一人の少年が座り込んだ。

「はぁ。今日も街の人たちに気味が悪いって言われたよ。」

悲しくて肩を落としている俺の名前は桃山 隼人。人々が言う呪われた森に住んでいる。そして隣にいるのが、

「仕方ないよ。私たちは呪われた森に住んでいるんだもん。」

赤澤 那加。俺にいつもついてくる鬱陶しい女だ。

「てかさぁ、お前まじでなんでいつも着いてくんの?俺のこと好きなわけ?」

下から煽るように那加の顔をみる。

「は?自惚れんな。あんたが街に降りてヘマしないか監視してるだけだから。」

本当に誰かを眼力で殺したことあるだろと思うくらい睨まれた。焦った俺は那加から目を逸らすため背中を向けた。

「ヘマなんかしねえよ。他の奴らみたいに見られたことねえし。」

「他の子達が見られてることがまずい上に抑制するのが年上の仕事だから!」

耳元でキーキーうるさい声で騒ぐ那加。

返事もするのが面倒になった俺は片手をひらひらと揺らして森の方へ歩き出す。

そもそも俺らがなんで呪われている森に住んでいるのかの説明がまだだったな。

簡単にいえば俺たちは人間ではない。誰でも知っている童話の中に出てくる人物の呪いにかかっている。

そして必ず名前にその人物を表す文字が入っている。俺の名前は桃山 隼人。苗字に桃が入っているだろ?だから俺は日本の童話「桃太郎」の呪いにかかっているってわけ。そして、赤澤 那加。赤で想像できる童話は一つ。「赤ずきんちゃん」だ。マッチ売りの少女も赤いだろって思うよな。俺も思った。けどその子はまた別にいるんだな、これまた。

ちなみに桃太郎に出てくる鬼もいるぞ!俺と超絶仲悪いけど!本当に血は争えないわけで、あいつの顔を見るだけで殴りたくなる。


「隼人もうすぐで着くわよ。鍵出しておいてね。」

いつの間にか俺より前を歩いていた那加。

「あー鍵ね。はいはい。」

俺は首から下げている鍵を取り出した。この鍵は街の人たちが言う洋風の大きな門を開けるためのものだ。鍵は呪われた俺たちの中で保有していい人物が決まっている。

大きな城、すなわち俺たちが住んでいる寮の寮長のみが保有できる。寮も種類があって、「日本寮」「グリム寮」「アンデルセン寮」「イソップ寮」の4つだ。ちなみに俺は日本寮の寮長だ!那加はグリム寮の寮長である!

俺や那加の様に人間の姿をしている者もいれば、動物の姿をしている者、人間の姿ではあるがものすごく小さい者もいる。

街に降りたらどうなるかは想像できるだろ?

だから、俺たちはルールで門の鍵を保有できる者を決めた。


「日本昔話桃太郎の名において門番ヨリンデとヨリンゲルの魔女に命じる。門を開け。」

門の鍵穴に鍵を挿し呪文を唱える。鍵だけでは寮長以外の誰かに鍵を盗られた場合簡単に街に降りれてしまう。それを防ぐために寮長だけで呪文を考えた。

ちなみにこの門番の魔女はすこぶる性格が悪い。

気に食わないやつが門に近づくと体を麻痺させて食おうとする。それを阻止するのもまあ大変なのよ。寮長って本当に大変なんだからね?

そんな思いを馳せていると木々が揺れ大きな風が吹いた。

「・・・餓鬼の分際でこの私に命令をするな。」

門の前に現れた一人の魔女。ヨリンデとヨリンゲルの魔女だ。

全身黒いドレスで青白い顔にものすごくあっている真っ黒な口紅。

「まあまあ、そう言わずに開けてください。魔女様。」

乾いた笑みを浮かべながら那加が魔女に話しかける。だが、

「小娘は誰の許可を得て私に話しかけているのだ。」

ものすごく不愉快だ。と全身で表す魔女に俺はすでに心が折れそう。毎回毎回普通に通してくれないの本当になんでなの?新手のかまってちゃんなの?

隣にいる那加を横目で見れば、おでこに青筋を浮かべ拳をワナワナと振るわせていた。

赤ずきんちゃんってか弱くておばあちゃん思いの子だよね?目の前の魔女は確実に俺らよりおばあちゃんだよ?今にでも殴り出しそうな那加の拳を抑えながら

「通してください。寮長である桃太郎と赤ずきんの命令です。」

魔女の眼力に負けじと俺も睨みつける。しばらく睨み合った末に

「・・・ふん。いつか食ってやるからな。」

俺の睨み効果があって魔女は門を開けてくれた。

「ありがとうございます。魔女様。」

これでもかってくらい爽やかスマイルを魔女に送れば、次回から普通に通してくれるだろうと思った俺が甘かった。

「私を睨みつけたんだ。度胸は認めてやるが二度とお前の前に姿は現さぬ。」

勝ち誇った顔をした魔女はそのまま風を切って消えた。

「隼人、門番変えたほうがいいんじゃない?」

青筋を浮かべている那加の顔を見て俺は女性はみんな怖いと改めて思った。


「俺の寮長としての威厳はどこに・・・。」

「最初からないわよ。威厳なんて。」

俺、そろそろ本当に泣いていいですか?


門をくぐり寮に戻る俺たち。

寮に戻ればもっとたくさんの呪われた者たちがいる。

これはそんな俺たちの絵本にはなかった新しい物語だ。







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