第11話 痛覚
「なあ、セスくん」
「な、なに?」
「義手とか義眼とかって神経と繋いであるんだよな」
「そうだよ。確か、は、8年前に開発された技術で、これのおかげで義肢を完全な自分の体みたいに動かせるようになったんだ」
「じゃ、痛覚ってあるのか?」
「そりゃあるよ。…だって、無いと体の限界に気づけないもん」
*****
「ああ、かわいそーに」
ゆっくりとした動作でレティが男の前にしゃがみこむ。「痛いんだ?」
「ぐっ…この……悪魔…!」
男が空洞になった目を抑えて呻く。
周りの男たちもあっけにとられていたが、1人の斧を持った男が慌ててレティに襲いかかった。
「このっ…死ねえぇえ!!!」
「…っうおおおお!!」
それに続くようにして、男たちはそれぞれ武器を手に持ち、レティを殺そうとした。
ズドンッ。
木屑が花びらのように散った。
レティの左足が、男の斧の柄をまっぷたつに砕いたのだ。
「は?」
そのまま宙に舞った斧の上半分を右手で掴み、他の男たちの攻撃を受ける。
ガキン!ガンッガアン!!
受け流しつつ回し蹴りをし、顎を蹴り上げ、腹に肘鉄を入れ、敵同士を衝突させ、飛び上がり、しゃがみ、転がり、男たちを翻弄して、レティはあっという間に十数人の男たちを殲滅してしまった。
(ば…馬鹿な)
残されたのは、最初に右目を潰された男だけだった。
(強すぎるだろ!!)
ジャリ、と音を立ててレティが振り向いた。
「…さて、おっさん」
「ヒッ」
男が座ったまま後ずさりする。
「安心しなよ。誰も殺してないからさ」
そして、男の背中は遂に壁に到達した。
「っ…!!」
ガンッ!!
レティの左足が、男の顔の真横の壁に置かれた。パラパラと欠片がこぼれる。
「ああ、ごめんね、言ってなかった。わたしの靴は特別製でね。軽めだけど靴裏に鉄板が仕込んであるんだぁ」
ザリザリザリ、と足で壁を擦る。
「か、勘弁してくれ!!頼む!」
「おっと、勘違いしないで。わたしは、あんたに聞きたいことがあるだけだよ」
両手をポケットに突っ込んだまま、蛙を睨む蛇のようにレティは凄んだ。
「今回のデマはいつもと違った。だからノコノコ来たんだよ。…人間の胃液を加えると効果があるってのは、誰に吹き込まれた?」
「………知らん」
「……知らない?ほんとに?」
またザリザリと音を立てて、レティの靴が男の耳裏にひんやりとした感覚を与えた。このまま真横に蹴り抜けば、男は気絶するだけで済むかどうかも怪しいだろう。
「…ほ、本当だ!!何も知らない!ただ、治療薬の噂を流し始めて3日くらいの時に手紙が届いたんだ!」
「手紙?」
ガサガサ、と男が懐から封筒を取り出し、レティに渡した。そこには綺麗な字体でこう書かれていた。
『突然のお手紙、失礼致します。さて、長文の手紙はお互いに求めていないと思いますので、本題に入らせて頂きます。出過ぎた発言だということは重々承知しておりますが、噂ならばもっと信憑性のあるものを流すことをお勧めします。
例えば、人間の胃液を使っている、とかね。勿論、ただで教える訳ではないですよ。なに、簡単なことです。もし、生身の少女が来たらこの手紙を見せてあげて下さい。
宜しくお願い致します。
追伸 ついでに、その少女を拘束しておいて下さったらとても助かります。それなりの報酬を約束致しますので。』
「…なに、こいつ」
まるで、レティをおびき寄せたような。
(生身の娘が欲しいっていう趣味の悪い変態オヤジって線もないわけじゃない。けど、
「初めから、わたしが来ることを仕組んでいたってことかあ」
そう言ってレティは手紙を元通りに畳み、封筒に入れた。
「宣戦布告、ってとこかな?…なんにせよ、もう帰らせてもらうね。これに懲りたら詐欺からは足を洗うことだよ」
そしてあっさり男から背を向け、スタスタと歩いて行ってしまった。
角を曲がる時、ふいに振り向いて、「右眼、ごめんね、おじさん。やり過ぎた」と少し反省したかのように呟いた。
数日後、男たちの詐欺用の住所に大金が送られてきたらしい。もっとも、すっかり震え上がっていた男たちはその金に一切手をつけることなく、全て孤児たちのために寄付したとか。
*****
「…やはりダメですね、あんな小者では」
つまらなそうに指で机を叩きながら男は溜息をついた。
「
不吉な事を呟いて、男は椅子から立ち上がった。
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