第5話 花のかんばせ
パチッ。ボボ、ボッ。
セスくんが壁のスイッチを入れると、部屋中のランタンに火が灯った。セスくんは部屋が明るくなったのを確認すると、サッとレティの元に帰った。
「えーと、初めまして…?」
160cmくらいだろうか。明らかにレティより背丈は高いのに、真っ赤にした顔をレティの背中に隠すようにしてやっと返事をした。
「……ど、どうも…」
やりづらいな…。
明るくなって初めて気がついたが、セスくんの体には多量の機械が取り付けられていた。
左足の見えている範囲、たぶん3/4くらい(左だけズボンが短く切られているので見えた)のが1番目立つ。他にも右手、左手の細かい指先、そして極めつけは左目の義眼だ。今は拡大鏡の
それに、首や頬、指先に包帯もちらほら見える。
若干厨二心をくすぐられる感じだが、こんなにおどおどしていては逆に脆そうな印象しか持てない。
「ごめんねー。シャイなんだよこの子は~」
そう言ってレティはセスの頭を撫で回した。ちょっと甘やかしすぎじゃないか。
「や、やめてよ、レティー…」
恥ずかしそうに俯く。これで女の子ならなあ。内気な超絶美少女とかモテるだろうに。
セスくんが大きな作業机の上を無理やり開けて(何個か落ちた)、紅茶を出してくれた。
…ちょっと渋い。
「はい、じゃあ自己紹介ターイム!」
レティに言われて俺とセスくんは顔を見合わせた。すぐに視線は逸らされたけど。
「…レティが言うなら……ぼ、ぼくはセス。セス・ランツルッソ。機械技師。16歳。…えーと、えーと、あ、あと何言えばいいの?」
セスくんは落ち着かなさそうに、紅茶をスプーンでかき回しながら言った。
「いや、もう十分だよ~。はい、アカリ!」
「はいはい…。えーと、山下燈。いや、アカリ・ヤマシタ。学生、16歳。…同い年ッスね」
俺もこういうのは苦手なんだ。けど無理やり話題を作って笑いかけた。
だから無視すんな、おい。そろそろ紅茶をかき回す手を止めろ。
「ちょっと~ナンパは禁止だよ~」
「いやだから男だろ!!」
するとセスくんが何か言いたげにもぞもぞ動き、レティの耳元に口を寄せた。
「…ぃ、…の、ぁ…」
「ふんふん……自分で言いなさい。自立への一歩!」
「えぇー…」
全然聞こえない。
「はい、アカリくん!質問があるそうです!」
「はい?」
セスくんが初めて俺の方をまっすぐ見た。
「……か」
「なんスか」
極力優しい声音を作ってみる。
………………。
「っそ、その身体!完全体ですか!?」
「うぉ!ビビった。…そうっスよ」
「ちょっと見させて下さい…!」
セスくんは俺の身体に興味が湧いたらしい。
そのまま立ち上がって俺の横にしゃがみこみ、目を輝かせて眺めだした。
「うわあ、うわあ…!そっか、左腕とここのバランスはこうなるのかあ!あ、爪…やっぱり爪の機能も大事だよね、代用品を考えた方がいいのかな。でもでも…」
「あ、あの…」
いきなり行動的にならないでくれ。対応に困るから。
「あ、ご、ごめんなさい。けど、どーしてもバランスがわからない所があって…。レティも一応完全体だけど、女の子の身体を観察しまくるのもな、って思ってて…」
「私は別にいいって言ってるんだけどねー」
レティが口を挟む。
「だ、ダメだよ!女の子なんだから!」
女子よりも女子らしい。
「そ、それで、お願いなんだけど…」
セスくんがしゃがんだまま俺を見上げてくる。笑顔がかわいい。けど認めたくねえ~…。
「ちょっと脱いで見せてくれませんか、全部」
「は!?」
いや、待て待て待て。
俺の返事を待たずにセスくんはスケッチブックと鉛筆を取り出し、俺の左腕を模写し始めた。
俺が動かないのを見ると、目を潤ませながら俺の顔を見上げて、
「やっぱり、だめですか?」
とか言ってくる。勘弁して欲しい。
俺は上を向いて手で顔を覆い、さっきからニヤニヤしてこっちを見ているやつに助けを求めた。
「レティー…助けてー…」
「こんなかわい子ちゃんのお願いが聞けないって言うんですかー」
「いや助けろ!!!」
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