第2話 雲の上です
「女っ!?」
目の前のレティくん改め、レティちゃんは軽々と梯子を登って飛行機に飛び乗った。
「ほら乗って乗って!」
言われるがままに俺も登る。
飛行機は前後の2人乗りだった。頑張れば3人。
「ちなみに、歳は…?」
「ん?18かな?たぶん」
「年上っ…!?」
訂正。レティさんで。
「あ、これ付けた方がいいよ」
そう言ってレティさんはゴーグルっぽい物を投げてきた。
「で、おにーさんは?」
「え?ああ…16だよ」
「まじか!年上だと思ったよー」
俺もだよ。
レティさんが梯子を引き上げる。
「けど、まあ、ほぼほぼ同い歳だし、呼び捨てでいいよ、っと」
だそうなので、レティと呼ぶことにした。
「おいコラてめぇ!何勝手に連れてってんだ!」
大声のした方を見ると、さっきのおっさんたちがいた。
「うわ、まじか…」
思わず俺は呟いた。
カチッ。ドゥルルッ…!
何の音かと思えば、レティがエンジンをかけた音だった。
「あ、逃げんな、このガキ!」
ペレガグロ2号機がゆっくりと滑走を始める。
「うるさいよ、おっさんども!次こんなことしたら、鳩尾じゃあすまさないよ!!」
ペレガグロ2号機はおっさんたちの方に向かって徐々に加速していく。
「う、うわあ!」
「逃げろ!!轢かれちまう!」
グワッとおっさんたちの頭上を通って、俺たちは飛んだ。
雲が近くなる。反対に、おっさんたちが小さくなる。
レティがニヤリと笑って振り向いた。
「ふぅ!…意外とゴーグル似合うね、アカリ」
「…どーも、レティ」
少しして、目の前に黒い雲が迫ってきた。
「なあ、コレ、入って大丈夫なのか?」
「ん?どゆこと?」
「ああ、何でもない…」
この公害の塊みたいな雲がこの世界では当たり前なんだ。
サァ、と雲の中に入る。めちゃくちゃ汚い。超臭い。ガソリンを錆びた鉄棒にかけてペンキで塗装したみたいな匂いだ。
「げぇっほ!!ごほっ!」
「あー確かに息は吸わない方がいいかもー」
「はやぐ言っでぐれよ」
俺の死因肺がんになっちまうよ、こんなの。
「すぐに出るよ、安心して。―ほら!」
空に出た。
たった1時間とか見てなかっただけなのに、青空がめちゃくちゃ懐かしい気がする。
「ね!ちゃーんと、きれいでしょ!」
レティが気持ちよさそうに叫ぶ。
「うん。…すっげえ綺麗」
眩しいくらいの青だった。
レティは、とりあえず自分が住んでいる街の空き家に泊まるようにと言ってくれた。
道中のレティの話によると、この世界は急激な科学の発展による公害が多発して、その影響で生まれつき欠損や障害のある子どもがたくさん生まれてしまったそうだ。
そして、それを補う為に義手や義足の技術が急激に発展したと言うから皮肉なことだ。
「レティは、えーと…こんな言い方良くないかもしれないけど、五体満足なのか?」
「…そうだね。五体満足だよー」
変な間があったのは気のせいだろうか。
「ホラ、そろそろ着くよ!」
雲の先端が少し白くなってきた。
今度の雲は綺麗だった。
霧が晴れ、地上の景色が見えてくる。
山の上に平たい何かが見えた。
「街?」
「そう!山の上に杭をたっくさん打って、それを支えにして木と土で地面を作って、どんどんどんどん拡張してたら街レベルになっちゃったらしいよ」
そんなので安全性は大丈夫なのか?
その街(?)の端に滑走路の様な物があって、ペレガグロ2号機はそこに着陸した。
窓とかは無い座席が剥き出しの飛行機だから、着陸の時には鳩尾がひゅっとした。
「うおぁ…」
「どした!?」
「いや、なんかジェットコースターの急降下の時みたいな感じがした」
「じぇっと…なんだって?」
あ、無いのか、この世界には。あまりにもレティが普通の人みたいだから忘れてた。
「なんでもないよ」
微妙に、ホームシックだ。
滑走路の先にある、車庫の様な建物の中で俺たちは降りた。
機械油臭い。建物の中は小型機(?)ばかりで学校のグラウンド程度の広さだ。
「さて、ようこそ。『
レティはそう言って飛行機から飛び降り、俺の横に並んだ。
「ラル・カッタ?」
「そう、ラル・カッタ。古い言葉で、『鳥の巣』っていう意味」
「へえー…」
建物は南向きで、外に出ると西の夕日が見えた。それはそれは綺麗に。
「赤い、な」
西の山に沈みつつある夕日は燃えるように赤く、目の前にあるかのように大きく、優しく熱い光を放っていた。
「…夕日は、空気が汚い方が綺麗に見えるらしいから。変な話だよね」
全くだ。汚い方が、綺麗だなんて。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます