第1章 君との遭遇

第1話 カラダ目当て

「おいこら待てテメェー!!!!」


「いやいや、知らない!何なんすか!」


 なんで俺はいきなり見知らぬ世界に来て、見知らぬおっさんたちに追っかけられているのか。

 よく分からんが、その、こんなこと言うと語弊があるんだが、うん。


 俺のカラダ目当てらしい。


 違う、違うぞ。男色とか言うそういうアレでは無い。おっさんたちの名誉にかけて言わせてもらう。多分。

 さっき腕を掴まれかけたんだが、その時に

「すっげえ…!全身生身だぞ、コレ」とか何とか言ってたから、ここでは生身が貴重なのかもしれない。で、なんか攫われそうだったから、今は逃走中なわけだ。


 ガツッ!


「いった!!!何だよおばさん!」

 今度は両腕が丸ごと機械になっているおばさんに捕まえられた。ものすごい力だ。


「…ぃ」

「は?」


「ハァ、ハァ、完璧よ、アナタ…。…私に頂戴!その!腕!」

 そう言っておばさんはバカでかい包丁を取り出した。

 あ、肉屋のおばさんだった。


「いや、ちょ、待って、死ぬ!死ぬから!そんなの!」

 

何なんだ。何が悲しくて、見知らぬ場所で見知らぬおっさんに追いかけられて、見知らぬおばさんに殺されないといけないんだ。


 ああ、さよなら。父さん、母さん。クラスのやつら…。


 走馬灯がよぎりかけたその時、頭上で耳が千切れそうな金属音がした。

 ガラガラガラン!と音を立てておばさんの壊れた腕(と思われる)と肉切り包丁が2mくらい後方に落ちた。


「まあまあ、ロウラおばさん。冷静に」


 目の前に、綺麗な顔の少年が立っていた。

 どうやっておばさんを止めてくれたのか、パッと見た感じ、その子の体には機械も金属も見当たらなかった。


「あ、…レティ。そうね、ごめんなさい、アナタ。どうかしてたわ、私」


 おばさんにレティと呼ばれたその子は、情けない事に腰が抜けていた俺に手を差し出した。


「大丈夫?おにーさん」

「だ…」

「ん?」


 パシッと音を立てて、俺はレティくんのやや小さな手を振り払った。


「大丈夫なわけねえだろ!!なんなんだよここは!!!意味わかんねえ!日本に帰せ!」


 本当に情けないことに、俺は見知らぬ土地で、命の恩人に八つ当たりしてしまった。

 だが、レティくんは狼狽えることなく、首を傾げた。


「ニホン?どこ、それ。そんなことより―」


 するとレティくんは俺のブレザーの襟元を掴んで、グイッと俺を引き上げて立たせた。うわまじか。


「そのおじさんたちから逃げなくていいの?」


 ニコッと笑って俺の後ろを指さす。


 ひえ、忘れてた。

「す、すまん!八つ当たりして悪かった!ごめんなさい!助けてくれ!!」

 何度も言うが、つくづく情けないことに、俺は命の恩人に八つ当たりしたあげく今度は助けを求めた。


「…」

 レティくんは俺とおっさんたちの顔を交互に見て、黙り込んだ。

「ええい、関係ねえ!捕まえて売り飛ばすぞ!」

 おっさんがなんかすんげえ物騒な事言ってんだけど。


「いいよ、助けてあげる」


 そう言ってレティくんは俺に近づいてきたおっさんの鳩尾に1発入れて、そのまま後ろの男たちに向かってブン投げた。


「ぐふっ」

「うお!!つぶれる!」


 一際大柄なおっさんの体を受けて、男たちはバタバタ倒れた。


「よし、行こう!」

「え、マジすか」


 レティくんは俺の呟きには答えず、俺の手を取って走り出した。


 何か知らんが助かった。

 少年の手は俺より一回りくらい小さくて、身長は150cmちょいくらいに見える。

 男にしてはちょっと長い、肩につかないくらいのサラサラの金髪が風になびいて、綺麗だ。


 しばらく走って、俺の息が切れ始めたころ、レティくんは止まった。


「ごめんね、けっこう走らせちゃった」

「いや、助かった、よ」

 息が整ったところで顔を上げると、そこには小型の飛行機があった。

「飛行機?」

 レティくんはズボンのポケットから鍵を取り出し、指でクルクル回した。


「そう!申し遅れたね、おにーさん。わたしはレティ・スピシルト。配達員やってるんだ。こっちは愛機の1150年型ペレガグロ2号機!」


 そこまで言って、そっちは?とでも言うようにレティくんは首を傾げた。


「あ、俺は山下燈やましたあかり。学生で、えーっと、これ、映画の撮影とかじゃないよな?たぶん、違う世界から来ちゃった気がします…?」


 自分でも何言ってるか分からないけど、レティくんは頷きながら聞いてくれた。


「ふーん、そっか…。大変だったね、おにーさん。とにかく乗って!またあいつら来ちゃうかも」

 いい子だ…。きっといい男になるぞ、中身も見た目も。

「女が操縦すると落ちるとか言う古臭い人いるけど、気にしないよね?」

「ああ、気にしないよ。そんな…」


 ん?


 そう言えばさっきこの子、自分のことなんて言った?


「女っ!!?」

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