第21話 好転

 ずいぶんと感触が良くなってきた。森田はホッと安堵をし、演説を続ける小池の姿を見守った。

 一時はどうなるかと思ったが、選管から、ポスターの悪戯の犯人が子供だったとの知らせを受けるや、すぐさま櫛山の主張は事実無根との反論を行い、有権者の信頼も取り戻せてきた。


 ――時間との勝負ね。残りは、今日の夜と金曜日、土曜日。最後の追い込みよ。想定外の事態で生じた遅れを、なんとしてでも取り戻さないと。


「森田さん」


 気合を入れ直していた森田に、若林が囁いてきた。


「どうやら櫛山は、ポスターについて突くのはもう無理だと判断したみたいです。従来の主張を繰り返すスタイルに戻したとの情報です」


「そう、わかったわ。これで、どうにか巻き返しを図れるわね」


 森田は、強張っていた頬が緩んできた。


「えぇ、想定以上に苦戦する結果にはなりましたが、まだなんとかなります」


 若林は頷いた。

 この数日間、かなり若林には走り回ってもらった。疲労の色が明瞭に濃く出ているのが、表情を窺うとよくわかった。本当に、よくやってくれている。選挙が終わったら、しっかりと労ってやらねば。

 先の全く読めない展開に、森田の神経もぐったり疲弊はしてきたが、当面の課題は乗り越えた安堵感もあり、気分は高揚していた。


 ――気を抜いては、駄目よね。


 丹田に力を込め、グッと大きく息を吐き出すと、高揚しすぎた心も適度に落ち着き、明日への力が体の奥底から湧き上がってきた。ただ、前へ進むのみ、と。

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