第38話 妖精さん達と暮らそう

 裕子ちゃんの盛大なネタバレから、早くも一週間が経とうとしています。

 相変わらず、裕子ちゃんは私の部屋に入り浸ってます。

 美夏ちゃんも同じです。


 結局、この二人って何がしたいんでしょうね。

 人間と変わらない癖に妖精さんって言われてもねって感じでしょ?

 なので三日くらい前、一緒に銭湯に行って、こっそりと身体検査と言う名の観察をしました。

 どこが違うんでしょう?

 まじまじと裕子ちゃんの身体を眺めていたら、変態扱いされました、グスン。

 

 まぁね、そんな観察をしなくても、裕子ちゃんが実は妖精さんが見えていた事は、理解できましたよ。

 だって、普通に話しをしてますもん。

 今までが何だったのって思いたくなるくらいですよ。


 お料理の妖精さんに、細かくリクエストする姿は、返って不思議な感じがしますね。

 でも、私との反応の差は、はっきりとしてます。

 私とお話しする時、妖精さんは笑顔なんですが、裕子ちゃんと話をする時は、すこし畏まった感じで強張ってます。

 そんな時ですね、あぁこの人は本当に王様なんだって思うのは。


「ところで、裕子ちゃんが王様ってのは、そろそろ納得してあげても良いけど、美夏ちゃんは何なの?」

「何なのって何よ?」

「王様の補佐にしては、補佐っぽくないよ」

「あ~。最初はね、美夏があんたと接触するはずだったのよ。それが迷子であんたとは会えなくて、仕方なく私があんたと接触したって訳、わかる?」

「いや、わかんないよ。そもそも、何で私と接触しなきゃいけないの?」

「ほんと馬鹿ね、あんたって。雪の子が、楽しかったって言ってたからに決まってるじゃない」

「雪の子って、雪の妖精さん?」

「それ以外に何が居るって言うのよ!」

「でも、それがどうして理由になるの?」

「はぁ、あんたそれでも妖精マイスター? 私達は、楽し事が大好きなの。でも、楽しい事は誰かと分かち合うと、もっと楽しいでしょ? 妖精それぞれに、楽しいって思うポイントは違うの。だから、分かち合ってくれる人を、ずっと探してのよ。たまたま、見つけたのがあんたって訳!」


 確かに妖精さんの性格上なら、わからくは無いですね。

 って今、妖精マイスターって言ってました?

 何だか知らない内に、変な役職についてたりしませんよね!


 それはともかく、ビールを飲みながら料理を待っている裕子ちゃんを見ると、突っ込みたくなりませんか?


「妖精さんって、食事が必要なの? 何で裕子ちゃんと美夏ちゃんは、他の妖精さんと違って、ご飯食べてるの? 特に裕子ちゃんは、魔王だし」

「だれが魔王よ! 失礼ね! この体は、人間の身体を実体化したって教えたでしょ! 人間の体は、栄養が必要なの! 常識じゃない!」

「いや。それが大食いの理由には、ならないと思うよ」


 なんか怒られましたけど、納得いきません。

 助けを求める様に、美夏ちゃんを見ると、そっぽを向きました。

 あぁ、王様には逆らえない的なやつね、ハイハイ。

  

「そもそも、私が稼いだお金で買った食材なのよ! 私が食べて何が悪いのよ! それであんたの食費が浮くんなら、ウィンウィンじゃない!」

「そうかな。部屋に入り浸られてる、私の身にもなろうよ。裕子ちゃんは、何で自分の部屋に戻らないで、私のベッドで寝ちゃうの?」

「私のベッドを使わせてあげる」

「いや、そうじゃなくて、ちゃんと自分のお部屋に帰ろうね。王様なら、みんなの見本にならなきゃでしょ?」

「美夏はこの部屋で寝てるのに、他の子達もあんたと一緒に居るのに、私だけ追い出すの? いつから、あんたはそんなに薄情になったのよ!」


 あぁ、口げんかで裕子ちゃんに勝てる気がしません。

 仕方ないです、多少のわがままは許してあげますか。

 だって、甘えっ子のセリフですもん。

 ツンデレ大爆発ですね。


 その後も色々と聞きましたけど、何だか良くわからない答えしか、返ってきませんでした。

 妖精の王様って何と聞いても、妖精さんの定義自体、良くわからないそうです。

 王様なのに、何で知らないんでしょうね。


 日本で生活する為には、手続きが必要でしょ?

 戸籍とか色々とね。

 そういうは、謎パワーで解決したそうです。

 何ですかねその謎パワーって、あんまり関わりたくないので、詳しく聞きませんでしたけど。

 

 裕子ちゃんの実家が神奈川とか、美夏ちゃんの出身が真駒内っていうのは、作り話らしいですけど、裕子ちゃんがちゃんと働いて、お金を稼いでるのは事実らしいです。

 王様と知ったら、不思議な感じはしますけど、人間の世界に溶け込もうと、一番努力しているのは、裕子ちゃんかもしれませんね。

 

 妖精さんが、必要に応じて現れるのにも、理由がちゃんと有ったみたいです。

 私が必要と感じると、妖精さんがウキウキして姿を現すそうです。

 そういう取り決めにしておかないと、私の所に妖精さんが集まり過ぎて、迷惑をかけるかもしれないからって事らしいです。

 一応、配慮してくれてたんですね。

 根は良い子です、裕子ちゃんって。


 それと、私は試されてもいたみたいです。

 いくら妖精さんが一緒に居たいと思っても、実は私が迷惑をしていたなら、姿を消しても良いと思ってたみたいです。

 私の気持ちが知りたくて起こしたのが、キャンプ後に起きた妖精さん達の集団外出事件らしいです。

 あの時は、不安で泣きそうになってる私を見て、妖精さん達がウルウルしていたらしいです。

 まぁ、そういう理由なら許してあげなくもないですけど。

 素知らぬふりしていた、美夏ちゃんにはお仕置きしたいです。


 ここまで来ると、役立たず感が半端ない美夏ちゃんですが、実は凄い子らしいです。

 運動神経は確かに凄かったですし、人間離れしていますが、それだけではないそうです。

 会社で言うと、統括本部長的な役割らしいです。

 全くピンと来ませんけど。

 

 妖精さん曰く、裕子ちゃんと話すのは何だか緊張するけど、美夏ちゃんとは話しやすいらしいです。

 それなら、統括本部長じゃなくて、アドバイザーじゃないのかな?

 美夏ちゃんがあっちこっちで、出稼ぎしてるのも、各地の妖精さんの様子を見るって目的も有ったみたいです。

 お馬鹿ですけど、良い子ですよ。

 向こう見ずな行動をするから、迷惑する事もありますけど。


 こうやって、見渡すと妖精さん達が居る毎日が、私の日常なんですよね。

 お料理の妖精さんが、料理をしていて、お掃除の妖精さんが忙しなく掃除しています。

 飼育の妖精さんが、ペチやモグ達の面倒を見てくれてます。

 音楽の妖精さんが、素敵なメロディーを奏でてくれて、お花の妖精さんが、花壇の花の前で踊ってます。

 火と水の妖精さんは、相変わらず追いかけっこして、風と土の妖精さんは気ままに過ごしています。

 予防医療の妖精さんは、私から離れずに口をモグモグしてますし、危険予測の妖精さんは、私の肩に乗って色々と呟いてくれます。

 冷凍庫を開けると、氷の妖精さんが踊ってます。

 運動、お勉強の妖精さんは、相変わらずスパルタですし、お仕事の妖精さんは、バイト中に困ると助言してくれます。

 DIYの妖精さんは、日々お部屋の魔改造を企んでいるみたいですし、洋裁の妖精さんは、生地を買ってくるだけで、洋服を作ってくれます。

 

 私はいつも、妖精さん達に癒されて、助けられて、励まされているんです。

 後はモグにミィにペチが居て、裕子ちゃんが居て、美夏ちゃんが居て。

 私の日常は、世界で一つの宝みたいですね。

 

 感謝をしつつ、笑顔で妖精さん達を見回していると、裕子ちゃんから声がかかります。


「ご飯できたわよ。ニヤニヤしてないで、早く来なさい! ぜんぶ食べちゃうわよ!」

「待ってよ、裕子ちゃん」

「裕子、私の分は残しておいてね」


 ありがたい事に、私の日常は続くようです。

 いつまで続くかわかりませんけど、大切にしたい宝です。

 さぁ、妖精さん達と暮らそう。

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