第37話 妖精さんにも王様って居るんですか?

 最近になって気が付いたんですが、裕子ちゃんと美夏ちゃんって何者なんでしょう。

 特にこの間やったサバイバルゲームでは、まるでゲームの中みたいに飛んだり跳ねたりしてました。

 

「いやぁ、あれは人間業じゃないね」

「そんな事ないわよ。あんたが、運動音痴なだけでしょ?」

「うん、そうだね。普通だよ普通」

「裕子ちゃんと美夏ちゃんの常識は、世間一般の常識じゃないの。裕子ちゃんは食欲魔王だし、美夏ちゃんは天然で変な子だし」

「はぁ? だれが食欲魔王よ!」

「ぼくって天然? そんな事ないよね?」


 あぁ、うるさいです。

 夜なのに騒がないで欲しいです。

 

 私達が何をしているのかって?

 そんなの答えは簡単です。

 女子会と言う名の、飲んだくれ大会です。

 そして私は、いつも通りに巻き込まれています。

 

 最近、おかしいんですよ。

 裕子ちゃんの入り浸り方が尋常じゃないです。

 外出している時以外は、ほとんど私の部屋に居ます。

 引っ越して来たばっかりの時は、寝るとき位は自分の部屋で寝ていたんですけど。

 最近は毎晩、私のベッドを占領してます。

 私は仕方なく、裕子ちゃんの部屋のベッドに行くんです。

 それで翌朝になると、怒るんです。

 あんた、また私のベッド勝手に使ったでしょって。

 それは、私のセリフですよ。

 

 布団さえあれば、床で寝ても良いんですけど。

 床では美夏ちゃんがごろ寝してますから。

 美夏ちゃんと言えば、現代社会の便利な生活を覚えて、野生に戻れなくなったんでしょうか。

 なぜか、ず~っと私の部屋にいます。

 たまに外出すると、迷子になって何日か戻らない事は有りますけど。

 コンビニって所に行ってくると言いながら、帰って来たのが三日後とかね。

 私の部屋ってそんなに楽しい事ある? って思いたくなる位に、引き籠ってます。

 

 そもそも私は、ほとんどこの二人の事を知らないんだな。

 そんな事を、サバイバルゲームの一件で思わされました。

 色んな人に、二人の事を聞かれましたけど、知ってるのは名前と出身地位ですし。

 後は食事の好みは、良く知ってます。

 でも、その位なんですよ。

 

 美夏ちゃんは裕子ちゃんに紹介されましたし、聞いたのは私と同じ道内出身で、お金を稼ぎながら少しずつ上京してきたって事くらいでしょうか。

 裕子ちゃんは、神奈川に実家が有るって聞いてました。

 私とは別の大学に通っている、同じ歳の女の子ですよ。

 友達って言っても、四六時中一緒にいる訳じゃないんですから、知ってる事はその程度でも仕方ないと思いませんか?


 裕子ちゃんとは、何がきっかけで出会ったのかって?

 さぁ? 覚えてないです。

 いつの間にか、居たって感じです。

 なにそのホラー! って、変な事を言わないで下さい!

 そう考えると、裕子ちゃんも謎多き美女って感じですね。

  

 わーきゃー騒ぐ声が、段々と遠くなっていく様です。

 あぁ、落ちる。

 後片付けはよろしくね、お掃除の妖精さん。

 二人がうるさいだろうけど、モグ達の事はよろしくね、飼育の妖精さん。


 ウトウトと眠りに落ちる私です。

 そして私はフワフワした雲みたいな所に居ます。

 って、ここ何処ですか?

 あぁそっか夢か、夢だね。

 それか噂の異世界召喚か。

 まさかね。

 夢の方が現実的って、なんか矛盾した日本語な気がしますけど。

 

「夢ではない。ここは人間が立ち入る事が出来ない、我らの領域だが其方は特別だ。こっちに来るがよい」


 なんか、変な声が聞こえる気がしますけど、どうせ夢なんです、無視しましょう。


「早く来いと言っているのが聞こえないのか?」


 うるさいですね。

 私の夢なんだから、勝手にさせて欲しいです。

 いつも裕子ちゃんと美夏ちゃんに振り回されてるんですから。


「いつまでも、来ないと怒られるよ。ぼく知らないよ」


 なんだか、聞き覚えのある声がしますね。

 でも、気のせい、気のせい。


「早く来なさい! お仕置きするわよ!」


 この聞きなれた声って、なんだかもうって感じです。

 なんでこんなにリアルなんでしょう。

 夢なのに、私の夢なのに、なんであの二人に侵食されなきゃならないでしょう。

 

 仕方なく私は、声がする方に歩いていきます。

 仕方なくですよ。

 少し歩くと途端に景色が変わります。

 さすが夢の中です。

 何もなかった真っ白い光景が、途端に宮殿みたいな風景に早変わりです。

 

 おぉ~っと、私は感心しながら歩きます。

 歩きます、歩きますって、どこまで歩けば良いのさ!

 遠すぎるんでないかい?


「つべこべ言わないで、早く来れば良いのよ。走りなさい!」


 夢の中でも、わがままなんですねあの子は。

 流石に疲れて私がトボトボと歩いていると、雪の妖精さんが姿を現しました。

 そして、ぎゅーって抱き着いてくれました。

 

「久しぶりね。元気だった?」


 雪の妖精さんは、笑顔で頷いてくれます。

 そう言えば、私が見た初めての妖精さんが、雪の妖精さんでしたね。

 この笑顔で、疲れが癒される気がします。

 

 少し元気になった私は、雪の妖精さんを肩に乗せて歩きます。

 しばらく歩くと、お掃除の妖精さん達とお料理の妖精さん達が、目の前に現れました。

 

「あなた達も来ちゃったの?」

 

 夢の中とはいえ、妖精さん達と会えるのは嬉しいです。

 お掃除とお料理の妖精さん達は、私の後に続いて小さい足をチョコチョコ動かして歩いています。


 この感じだと、妖精さんが大集合だったりして。

 そんな私の予感は、こんな時ばっかり大当たりするんです。

 まぁ私の夢ですし、きっと私の希望通りになったんですね。

 

 私の歩く先には、妖精さん達が待っていました。

 お勉強の妖精さんに四大元素の妖精さん、今まで出会った妖精さんが次々と現れては、私と一緒に歩いていきます。

 宮殿っぽい中を、妖精さん達とお散歩している気分で、とっても楽しいです。

 妖精さん達もすっごく楽しそうで、スキップしてます。

 そんな妖精さん達の姿を見ると、嬉しくなってしまいます。


 かなり長い道を歩いた気がします。

 ようやく開けた場所に辿り着きました。

 でも疲れた体を、休ませる暇はありませんでした。


 開けた空間の中央には、玉座の様に偉そうな椅子が鎮座してます。

 その椅子にどかっと座る人物は、いつもの調子で私に話しかけてきました。


「遅いわよ! 何してんのよ!」

「裕子ちゃんこそ、私の夢で何してんの? 馬鹿なの?」

「馬鹿なのはあんたよ! 見なさい!」


 裕子ちゃんが指を差した先では、妖精さん達が一列に揃って、頭を下げてました。

 うん、可愛い。

 ってそうじゃなくて、何してんの?

 

「ついに、明かす時が来たのよ!」


 ドヤ顔の裕子ちゃんのほっぺを、引っ張ってやりたいです。

 ついでに、素知らぬふりして隣に立っている、美夏ちゃんのほっぺも。

  

「いや、夢の中で何を明かすの? 馬鹿なの?」

「馬鹿はあんただって言ってんの! あんたの周りの子達を見てわからない? この状況を見てわからない?」

「何が? 私も、はは~って頭を下げた方が良い?」


 裕子ちゃんは、何か溜息をついている様です。

 夢の中なのに、生意気ですね。

 

 そして裕子ちゃんは、徐に立ち上がると、クルっと回ってポーズを決めました。

 裕子ちゃんってば、たまにやらかすよね。

 そんな変なポーズを決めちゃって、だから残念美女なんだよ。

 

「何を隠そう! 私は妖精の王様よ!」


 うん、さすが夢です。

 訳がわからないです。


「あんた、信じてないでしょ!」

「だって、裕子ちゃんは人間でしょ? そもそも、王様なら男でしょ? 裕子ちゃんは女の子じゃない」

「この姿は、あんた用に実体化した仮の姿よ。妖精に性別なんて無いし」

「実体化? 嘘だぁ~! だって、裕子ちゃんはお父さんもお母さんも神奈川に居るでしょ?」

「あんなの作り話に決まってるじゃない!」

「それじゃあ、美夏ちゃんは?」

「ぼくは、王様のサポート的な何かだよ。これでも普通の妖精より偉いんだよ!」

「うわぁ~、何その適当な感じ。むしろ美夏ちゃんに、サポートが必要な気がするんだけど」

「酷いよ! これでもぼくは、立派に仕事をしてるんだよ」


 とてもそうは思えませんけど。

 まぁどうせ夢なんです、乗ってあげましょう。

 その内、ぼろを出すはずですし。


「それで王様は、何のために私を呼んだの?」

「私の正体を教えてあげようと思って、わざわざ呼んであげたのよ」

「へぇ~。それで王様はいつもそんな口調なの?」

「あんたに合わせてあげたのよ! 感謝しなさいよね! いつもはもっと畏まった口調なんだから!」


 言い訳くさいですね。

 もう、ぼろを出し始めましたよ。


「最初に裕子ちゃんを部屋に呼んだのは、お料理の妖精さんの料理を披露した時だよね。あの時、別の人を招いてたら、裕子ちゃんとそれほど仲良くなって無かったかもしれないよ。そんな偶然ってあると思う?」

「コミュ障のあんたが、自宅に呼べる友達は私くらいのもんよ」


 うぐっ、追い詰めたつもりで、痛い所を突かれました。

 誤解しちゃ駄目です、私は友達が居ない訳じゃないです。

 そもそも裕子ちゃんが妖精さんって、可愛くないです。

 だけど、これで止めです!


「裕子ちゃんが、妖精さんの王様なら、何で妖精さんは裕子ちゃんを嫌がるの?」

「馬鹿ね、それは敬意の証じゃない。だって、私は王様なのよ。偉いのよ! 普通の妖精が、私に軽々と話しかけられるはず無いじゃない! あんたは、国王的な人と会って仕えろって言われたら、どうするのよ?」

「すっごく緊張するから、嫌だね」

「それと一緒よ」


 私は妖精さん達を見回しました。

 妖精さん達は、頷いてました。

 嘘じゃないみたいです。

 何だか悔しいです。

 やり込めるつもりだったのに。


「あんたがもたもたしてるから、時間が来ちゃったじゃない。じゃあね」


 光が溢れていきます。

 とても眩しくて、私は目を瞑りました。

 気が付くと、私は自宅の床で寝ていました。

 ミィが私の顔をぺろぺろと舐めています。

 心配してくれてるの? 優しいねミィ。


 相変わらず、裕子ちゃんは私のベッドを占領してますし、美夏ちゃんはイビキをかいてます。

 狭いワンルームの部屋では、お掃除の妖精さんがせわしなく動き回り、お料理の妖精さんが朝食の用意をしています。

 音楽の妖精さん達が、爽やかな感じの音楽を奏でて、心地よい朝を演出してくれます。

 私は少し伸びをして、呟きました。


「変な夢だったな~」

「夢じゃないわよ」


 振り向いたら、裕子ちゃんが起きて私を見てました。


「もしかして、本当に王様?」

「当たり前でしょ! 妖精だって見えてるわよ」

「それでぼくは、大臣的な何かだね」

「いや、美夏ちゃん。さっきは大臣とは言って無かったでしょ?」

「細かい事は、気にしない! だってぼくたちは、君と一緒に居たいだけなんだから!」


 裕子ちゃんが頷いています。

 妖精さん達がみんな頷いています。

 私は沢山の笑顔に囲まれています。

 まさか、この部屋に居るのが全員、妖精さんだとは思いませんでしたけど。

 

 なんで私なんでしょう。

 でも、それはどうでも良い事かもしれません。

 何だかんだで楽しい毎日をくれたのは、妖精さん達なんですから。

 私は、ありったけの笑顔でみんなに応えました。


「ありがとう。これからも、よろしくね」


 裕子ちゃんと美夏ちゃんには、これからも振り回される気がします。

 それでも、妖精さん達と暮らせる私は、世界一の幸せ者です。

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