第36話 サバイバルゲームをやってみよう

 え~っと、何と言えば良いのか。

 きっと何かの陰謀に巻き込まれたんです。

 そうに違いありません。

 

 私は今、どこかわからない山の中に居ます。

 なぜこんな所に居るのかは、裕子ちゃんか美夏ちゃんに聞いてください。

 それか、サバイバルの妖精さんに聞いてくれても良いです。

 お話が通じれば! ですけどね!


 それは、一昨日の事でした。

 私の部屋で高そうなゲーム機で、FPSって言うんですか?

 そのシューティングゲームで、裕子ちゃんと美夏ちゃんが遊んでいました。


 何で私の部屋でっていうのは、今更なので置いといて。

 何でそんな高そうなゲーム機を持ってるのなんて事も、裕子ちゃんの事なので置いときましょう。

 

 わーきゃーと騒ぐ、裕子ちゃんと美夏ちゃんを横目に、私はお勉強をしています。

 混ざって遊べば良いじゃないって?

 ちゃんと混ざりましたよ。

 そしてコテンパンにされて、役立たず扱いされて放置されたんです、グスン。

 

 だってゲームなんてやった事ないんだもん、仕方ないんでないかい。

 だから私はふて寝ならぬ、ふて勉強です。

 その悔しさをバネにしろみたいな感じで、お勉強の妖精さんも燃えてますし。

 

「こうやってゲームしてると、リアルでもやりたくなるよね」

「あ~、そうだね。その気持ちぼくもわかるな~」

  

 何か言ってますね、嫌な予感です。

 聞こえなかった事にしましょう。


「週末にやろうよ! ぼく良い場所を知ってるんだ」

「いいわね! 勿論あんたも行くのよ!」


 がしっと、肩を掴まれました。

 ゆっくりと後ろを向くと、満面の笑みを浮かべた裕子ちゃんが・・・

 お巡りさん、ここに大魔王がいますよ!


「いや、私はゲームとか下手だし」

「良いのよ、そんな事!」

「そうだよ。ゲームとリアルは別物だもん」


 やんわりと断ってるの!

 伝わんないかなぁ!


「わ、私は運動音痴だし。きっと足を引っ張っちゃうよ!」

「そんな事ないよ。毎日運動してるじゃない」

「美夏ちゃん。あれはエクセサイズであって」

「あ~もう! うっさい! あんたも行くの! 決定ね!」


 何という事でしょう、決定されちゃいました。

 世の中には、断れない付き合いっていうのが有るんですね。

 少し大人の事情を垣間見た気がします。

 まぁ裕子ちゃんですし、予想はしてましたよ。

 

 ですが、予想外だったのは、その話に反応する妖精さんが居た事です。

 サバイバルの妖精さんが、ゴールを決めたサッカー選手の様なガッツポーズしてます。

 どれだけ嬉しいんでしょうか。


 そして火の妖精さんが、いつもよりメラメラしています。

 うん、わかるよ。

 水の妖精さんが、最近あんまり構ってくれないもんね。

 でもね、ちょっと暑いよ。

 お部屋の気温が上がってるよ。


 そして運動の妖精さんは、既にやる気まんまんです。

 タタタっと走ってから止まると、腹ばいになって銃を撃つ格好を繰り返してます。

 たぶん連れていかないと、泣きますねこの子。


 まぁ連れていきましょう。

 でも私は、サバイバルゲームなんて、なんにも知らないんだよね。

 てな事を考えていたら、お勉強の妖精さんが色々と教えてくれました。

 妖精さん達がみんな集まって、熱心に聞いてました。

 いやいや、私もちゃんとお話しを聞きましたよ。

 

 そして、影の立役者が誕生するのです。

 予想がつきますか?

 答えは、洋裁の妖精さんです。


 サバイバルゲームをするなら、それなりの恰好をしないと。

 そんな理由で、端切れでちゃちゃっと迷彩服を作ってくれました。

 この子って、凄いを通り越してるよね。

 ただ、裕子ちゃんの一言で、すべて台無しになりましたが。

 

「何? 迷彩服作ったの? そんなのレンタル出来るはずよ! そもそも、モデルガンなんて高いじゃない。私は食べ物以外に、余計な金は使わない主義なのよ!」


 良く言いますね、あんな高そうなゲーム機を持ってる癖に。

 ぐすっと泣きそうな洋裁の妖精さんを、私は必死に宥めました。

 大丈夫、私は必ず着るからね。


 さて当日がやって来て、またまた早起きです。

 連れてって~と言わんばかりに、まとわりつくモグをひっぺがして、レンタカーに乗り込みます。

 朝食はドライブスルーで済ませて、高速道路に乗る裕子ちゃん。

 裕子ちゃんが運転するなら、迷子になる事もないでしょうね。

 これから行くのは、専用のフィールドが有る施設だそうです。

 流石は裕子ちゃん、出来る女です。


 途中、助手席でウトウトして、裕子ちゃんに頭を叩かれつつ、無事に目的の施設に辿り着きました。

 受付を終えて、色々とレンタルして着替えて準備します。

 心配なのは、私達三人が自由参加形式のゲームに参加する事です。

 妖精さんを連れてるのに大丈夫かなと・・・

 火の妖精さん以外は、現実に干渉できない妖精さんなので、そこまで心配してないんですがね。


 参加するメンバー達に挨拶して、チーム分けをしてゲーム開始です。

 私達は女の子で、しかもサバイバルゲーム初参加って事で、色々と丁寧に教えてくれました。

 ゲーム自体もすっごく楽しかったですよ。

 

 サバイバルの妖精さんは、野山を駆けまわるだけで楽しいみたいです。

 運動の妖精さんは、上級者の人たちの動きを真似してました。

 なんだか可愛いって、見とれてたら撃たれましたけど。   

 火の妖精さんは、予想外に大人しかったです。

 野山を飛び回った事で、ストレスの発散になったのでしょうか?

 山火事を起こす事もなく、ホッとしました。


 午前中でいったんゲームが終わり、昼食を取る事になった時です。

 本部に戻る最中で、私達は重大な事に気が付きました。


「案外、楽しいわね」

「そうだね。でも私は直ぐにやられちゃったよ」

「あんたは、ぼーっとしてるからよ」

「裕子ちゃんは流石だね。何人か倒してたじゃない」

「あんたと違って、こういうのは得意なのよ。ね、美夏!」


 同意を求める様に裕子ちゃんが声を掛けましたが、美夏ちゃんからの返答は有りません。

 周囲を見渡しても、美夏ちゃんの姿が有りません。

 なんで気がつかなかったんでしょう。

 基本的に私達は、一緒に行動していたんです。

 それなのに、いつどこで美夏ちゃんとはぐれたんでしょう。


 焦った私達は、同じチームの仲間達に聞きました。

 確かにゲーム中に、美夏ちゃんを見たと言う人は多かったです。

 そうです、さっきまで私の隣に居たんです。

 焦った参加メンバーの内、特にベテランさんが本部に連絡してくれました。

 そして、美夏ちゃん大捜索が始まったのです。

 

「万が一、怪我して動けないなら不味いな」

「あの、ただの迷子だと思いますし、その内帰って来ると思いますよ」

「そんな訳ないだろ! せっかく参加してくれたのに、事故で楽しくなくなったらかわいそうだろ」


 なんて良い人なんでしょうね。

 私はサバイバルの妖精さんにお願いして、美夏ちゃんを探してもらいました。

 サバイバルの妖精さんは、ぴゅーって飛んでいきます。

 私達が下手に動き回るより、妖精さんにお任せした方が安全なんです。

 二次災害にもなりませんし。


 結局、小一時間程で美夏ちゃんは見つかりました。

 昼食を一時間押しで食べました。

 勿論、参加者全員に頭を下げて回りました。

 楽しかったけど、まさか身内が迷惑をかけるとは。

 妖精さんは、とても大人しかったのにね。


 気を取り直して、午後の部です。

 チームを変えます。

 どうせなら、バラバラになって戦ってみようって事で、私達もチームを分けてもらいました。

 裕子ちゃんvs私と美夏ちゃんです。

 

 弱っちい私と迷子星人美夏ちゃんのコンビで、裕子ちゃんに対応できるのでしょうか?

 私はこっそりと、サバイバルの妖精さんにお願いしました。

 

「美夏ちゃんがこれ以上、迷子にならない様に見ていてね」


 サバイバルの妖精さんは、コクコクと頷きます。

 しかし、サバイバルの妖精さんを味方につけた、野生児美夏ちゃんの本領発揮はこれからでした。

 森に潜む事、忍者のごとし。

 と言うかアサシンですかあなたは。

 物音を立てずに近づき、後ろからパンって撃つのは、見ていてちょっと怖いです。

 

 隠れてる敵チームのメンバーを、片っ端から消していく、アサシン美夏ちゃん。

 ついに、対決の時が訪れます。

 相手はスナイパー裕子ちゃん。

 何故か、運動の妖精さんが裕子ちゃんの隣で、射撃ポーズを取っています。

 うん、可愛い。


 で、私は何をしてるかって?

 早々に撃たれちゃったので、陣地に戻ってスコープを使って覗き見してます。

 見てる分には、楽しいです。

 

 隠れて狙撃する裕子ちゃん、避ける美夏ちゃん。

 うん? 何で避けてんの?

 

「なんかあの子、凄いな」

「午前中、行方不明になった子だろ? あのスナイパーの子だって、結構な数を倒してたぜ」

「なんかの達人か? あの動き只者じゃねぇぜ」


 あぁ、噂になってますよ。

 だって、弾は避けちゃ駄目だよ美夏ちゃん。

 周りのメンバー達も、驚いてますよ。

 

 スナイパー裕子ちゃんも、負けてません。

 並み居る敵をバッタバッタと、ってそんなに倒しちゃ駄目だよ~!

 私達は、初心者なんだよ。

 最初に優しく教えてくれた人を、何で撃っちゃうの!


 ベテランさんも真っ青な二人の活躍で、残ったのは裕子ちゃんと美夏ちゃんだけです。

 全員倒したら勝ちってルールだそうで、勝負は裕子ちゃんと美夏ちゃんに託されちゃいました。

 物陰に隠れて、狙いをすませて撃つ裕子ちゃん。

 某スパイ映画も真っ青な、美夏ちゃんの卓越した動き。

 なんでしょうね、異次元ですかここ。


 結局勝負はつかずに、引き分けです。

 裕子ちゃんと美夏ちゃんの二人は、参加メンバー全員から声をかけれれてました。

 だって、ちょっとした騒ぎになってましたし。

 私も根掘り葉掘り聞かれて、いい迷惑ですよ。


 なんです、あのスペックは?

 なんなのあの二人って聞かれても、私だって知りませんよ。

 もう二度とこの二人とは、サバイバルゲームをしたくないです。

 まぁね、見てる分には楽しかったですし、妖精さん達も発散出来た様で良いですけどね。

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