第30話 妖精さんの運動会 その2

 さて、休憩を挟んで、次は子猫達と飼育の妖精さんの出番です。

 パン食い競争ならぬ、カリカリ食い競争です。

 コースの途中に、モグ達の好きなカリカリを置いて、食べながらゴールに向かうって競技です。

 上手くゴールまで誘導が出来るか、飼育の妖精さんも腕の見せ所なんです。


 私がモグ、ペチ、ミィの順でスタートラインに立たせます。

 そして、コースの途中で飼育の妖精さんが、カリカリを持って待ち構えています。

 ミャって君達、ちゃんと理解してる?

 

「君達。カリカリ、食べたいよね?」

「ミャ~!」

「じゃあ、あっちにあるゴールまで走るんだよ!」

「ミャ~ァ~!」


 うんうん、良い子だね。

 モグ達はしっぽを立てて、ピョコピョコ左右に振ってます。

 おぉ~、やる気満々だね。


 私がモグ達を離したら、スタートです。

 って離した瞬間に、走りだしました。

 猫まっしぐらです。


 飼育の妖精さんも手慣れています。

 モグ達は、上手くコース中でカリカリをゲットしながら、約十メートルを走り抜けました。

 一位はモグ、二位はペチ、三位はミィです。

 まぁ、日頃のお散歩時間の差が出たんでしょうね。

 子猫達は満足気に喉を鳴らして、飼育の妖精さんはやり遂げた笑顔を見せてくれました。


「猫のレースも良いわね」


 ようやく、裕子ちゃんが興味を示しました。

 仕方ないですけどね。

 今までの競技は裕子ちゃんからすれば、サッカーボールがただ転がってる位にしか見えてないでしょうから。

 

「したっけ裕子は、よく食べるね。それによく飲むね」

「あんた達も、食べないと無くなるわよ」

「ぼくはもう、お腹いっぱいだよ」

「そうだよ。みんなは裕子ちゃんみたいに、胃が異次元に繋がって無いんだよ」

「はぁ? あんた馬鹿なの? 私の胃は異次元に繋がってないわよ!」

「その食べたのは、どこに行くのよ」

「あんたと違って、胸にいくのよ」


 ぐぬぬ、裕子ちゃんめ。

 言ってはいけない事を!

 

「ハハハ、言われちゃったね」


 笑顔でフォローしてるつもりなんでしょうけど、美夏ちゃんって私よりお胸が大きいんです。

 裕子ちゃんがボヨンだとしたら、美夏ちゃんがポヨン、そして私は言いたくありません、グスン。


 気を取り直して、運動会に戻りましょう。

 実はここまでで参加をしてない、妖精さんが居ます。

 はい、氷の妖精さんです。

 クーラーボックスの中で絶賛待機中です。

 開けると、クルクル踊っています。


 なんで競技に参加しないかって?

 仕方ないですよ。

 予想以上に火の妖精さんが、熱くなってるんです。

 おかげで気温が少し上昇してます。

 水の妖精さんがジュってしても、燃えるハートは止まらない、みたいな感じです。


 氷の妖精さんをクーラーボックスから出すと、たぶん溶けます。

 なので、たまにクーラーボックスを開いて、顔を見せてあげるんです。

 それでも、一緒に来れたのが嬉しいのか、笑顔で踊ってました。

 

 さて、次の競技はチームに分かれて大縄跳びです。

 火の妖精さん率いる赤チームは、お掃除にお勉強の妖精さん、後は土、予防医療、飼育、お花、危険予想、DIY、洋裁の妖精さんです。

 土と危険予想の妖精さんが、縄を回します。


 対して、水の妖精さん率いる白チームは、お料理、お仕事、風、音楽、サバイバル、運動の妖精さんです。

 こっちは、風と運動の妖精さんが、縄を回す係のようです。


「い~ち、に~い、さ~ん、しぃ~い」


 掛け声に合わせて、縄を回してぴょんぴょんと飛びます。

 あぁ、何だか可愛いとか癒されるとかの次元を超えましたね。

 これを映像に残せたら、どんなに幸せでしょう。

 

 それと、練習の成果が出ましたね。

 結構な回数を飛んでます。

 百回を超え、二百回を超え、三百回を超えたところで、赤チームが引っ掛かりました。

 もうすぐ四百回ってところで、白チームが引っ掛かりました。


 もう何て言うか、凄いですね。

 語彙力が無くなりますね。

 拍手喝采! と言っても拍手してるのは、私と美夏ちゃんですけど。

 赤白の両チームが、がっちりと握手しています。

 輝く青春の光景です。

 

 まだまだ、熱い競技は残ってますよ。

 後半の部は、チーム対抗の競技が目白押しですから。

 次は綱引きです。

  

 縄跳び用よりもすこし太めに作った縄っぽい物を、両チームで引っ張り合います。

 強度が充分な様に、DIYと洋裁の妖精さんにアドバイスを貰って、私が作った逸品です。

 綱引きは、土の妖精さんが活躍しました。

 思った以上に、力持ちだったみたいです。

 綱引きは、赤チームの勝利です!


 因みに氷の妖精さんは、クーラーボックスを少し開けて、応援してました。


 続々といきますよ、着いて来て下さいね。

 さぁ、目玉種目の一つ、棒倒しです。


「棒倒しは、赤チームが有利じゃないかな?」

 

 美夏ちゃんの言う通り、赤チームはディフェンスに土の妖精さん、オフェンスに火の妖精さんが居ます。

 でも白チームには、風と運動の妖精さんが居るんです。

 

「火の妖精を水の妖精がどう止めるかが、勝負の分かれ目かな」


 解説の美夏ちゃんの言葉通りに、勝負は火と水の妖精さん、チームリーダー対決となりました。

 ボウって燃えて、ジュって消す。

 そんなやり取りが、中央で繰り広げられます。


 その脇を、風と運動の妖精さんがすり抜けて攻めます。

 この子達の反射神経は、際立ってますね。

 他の妖精さん達は、動きに着いていけずに、ワタワタしてます。

 結局、棒倒しは火の妖精さんを押さえた事で、白チームの勝利になりました。


 今のところ、二種目を制した白チームが優勢です。

 氷の妖精さんは、少し溶けかけながら応援してました。

 もう、蓋を閉めなさい!


 さて、残り二種目です。

 騎馬戦は、急遽リーダーが不参加になりました。

 ちょっと火の妖精さんが燃えすぎて、水の妖精さんがクールダウンしてます。

 気温が超上がってます。

 私達のテント周辺だけ暑いです。


 汗の噴き出る競技場で、熱い戦いが繰り広げられます。

 赤チームは、お勉強と危険予測の妖精さんが軍師みたいに、指示をだして陣形を組んでいます。

 対して、白チームは各個撃破の様子です。 

 風と運動の妖精さんを活かす作戦なんでしょうか?


「集団と個の力、どっちが勝るか見ものだね」

 

 美夏ちゃんは、拳を握りしめてます。

 かなり興奮している様です。

 そして裕子ちゃんは、酔っぱらって寝てます。

 うん、寝かしときましょう。


 赤チームは、風と運動の妖精さんが乗る騎馬を、巧みに分断しました。

 少しずつ、崩れていく白チーム。

 大将自ら攻撃する白チームに対し、赤チームは大将をがっちりと守ります。

 頭脳の勝利なのか、白チームは攻めてを欠いて、赤チームに倒されていきました。


 騎馬戦の勝利は赤チーム。

 これで、チーム戦は五分五分になりました。

 私は得点ボードをペロっと捲ります。

 最後のリレーで勝敗が決まります。


 さて、リレー選手の発表です。

 赤チームは、DIY、お勉強、土、火の妖精さんの順番で走ります。

 白チームは、風、運動、サバイバル、水の妖精さんの順番です。

 

「これは、勝負あったかな。白はかなり有利だね」


 冷静に美夏ちゃんが語ってます。

 裕子ちゃんは、まだ寝てます。


「先行逃げ切りの白チームに対して、序盤にどれだけ粘れるか。勝負はそこだね!」


 美夏ちゃんは、完全に解説者モードです。

 スタートの合図は、ペチの鳴き声です。

 DIYと風の妖精さんは、クラウチングスタートの構えで、合図を待ってます。

 

 ニャァ~の鳴き声で、一斉にスタート!

 風の妖精さんが飛ばします。

 しかし、意外にDIYの妖精さんが粘ってます。

 最初のランナーでは、余り差はつきません。


 白チームは運動の妖精さんにバトンを繋ぎます。

 運動の妖精さんは、流石でした。

 どんどんと差を広げていきます。

 バトンを受け取ったお勉強の妖精さんも、かなり頑張りましたが、差は開く一方です。

 

 しかし、事件が起こります。

 練習の差がここで現れます。

 サバイバルの妖精さんとのバトンの受け渡しを失敗し、バトンが転がっていきます。

 追い上げるお勉強の妖精さん、そして土の妖精さんにバトンを受け渡しました。

 

 運動の妖精さんがバトンを拾って、サバイバルの妖精さんに渡したのは、ほぼ同時です。

 土とサバイバルの妖精さんは、スピードは余り変わりません。

 両者譲らずデッドヒートを繰り広げます。

 突然のアクシデントになりましたが、白チームの応援は白熱してます。

 赤チームの応援も負けてません。


 両者同時に、アンカーへとバトンを渡します。

 そこから再びリーダー対決です。

 激しい蒸気を上げながら、コースを走る火と水の妖精さん。

 超蒸し暑いです。

 走りも熱いです。

 そんな両者を、音楽の妖精さんがギターとバイオリンで速弾きして盛り上げます。

 

 そして決着は・・・


 はい、たぶん同着でした。

 まぁ、写真判定とか予想してなかったし、仕方ないよね。

 火と水の妖精さんは、ゴールの後でバタっと倒れて、ゼエゼエいってました。

 両者ともに互いの顔を見て、やるなお前みたいな表情を浮かべてました。


 ゴールと共に、わぁ~っと盛り上がる赤白のメンバー達。

 引き分けと聞いて、がっちりと握手をしてました。

 なんだか、かなり体育会系のノリ?

 青春ですね。

 そして、触発された脳筋が一人。


「ぼく、その辺を走って来るね」


 美夏ちゃんは、暗くなるまで帰って来ませんでした。

 

 熱い勝負が終わり、表彰式の後にお片付けです。

 お片付けはみんなでやります。

 モグ達は、おねむみたいです。

 裕子ちゃんは、爆睡してます。

 

 あのね、一応キャンプだからね。

 一泊して帰るんだからね。

 

 なんにしても盛り上がったし、企画して良かったかな。

 妖精さん達の興奮は、しばらく収まりそうにありませんけど。

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