第28話 洋裁の妖精さん

 ど~も、一週間ぶりのご無沙汰です。

 いきなりですが、皆さんは洋裁ってやった事は有りますか?


 いやいや、変なボケをかまさないで下さい。

 砦とか作って攻めたり守ったりする、ソーシャルゲームじゃないです。

 それは多分、要塞ですから!


 ちょっと! だれが、ガードの固い要塞女ですか!

 失礼ですね!

 これでも、男の子とはフレンドリーに接してますよ。

 彼氏が出来ないのは、今は関係ないっしょ。

 

 まあ出だしの振りで、皆さん何と無く察してると思うので、ちゃっちゃと進めましょう。

 はい、洋裁の妖精さんが登場しました、ポンってね。

 

 自宅で雑誌を見ていた時の事です。

 お手製の服を紹介しているページを眺めて、私はびっくりしました。

 すっごく完成度が高いのです!

 これって素人が作ったの? 嘘でしょ?

 そんな風に思う位です。

 世の中には居るんですね、器用な人が。

 興味深く記事を読んでいたそんな時です、雑誌を一緒に覗き込む妖精さんが現れました。


 私だって、慣れましたよ。

 妖精さんが現れたくらいで、叫びません!

 そして熱心に雑誌の記事を眺める妖精さんに、呼びかけました。


「ねぇ、あなたもしかしたら、服とか作るの得意?」


 妖精さんはコクリと小さい頭を縦に動かします。


「もしかしたら、私に作ってくれるとか?」


 妖精さんは、首を横に傾けて複雑な表情をしました。

 なんでしょうこの反応、そこはかとなく嫌な予感がします。

 ですが、私も負けません!


「私のお洋服を」


 妖精さんは、コクコクと頭を縦に動かします。


「作ってくれるの?」


 妖精さんは、首を横にブンブン振ります。

 あぁ、わかりました。

 この子ってば、ガチ系の妖精さんかもしれません。

 また、スパルタがやって来る気がします。


「洋服は作るけど、私にも手伝えと?」


 妖精さんは、頭を縦に動かしました。

 一緒にやらないの? みたいな顔をしてます。

 決定です。

 私は妖精さんが満足するまで、針と糸でチクチクするんです。

 それで目とか肩とか痛くなるんです。


 少し私は肩を落とします。

 だって私は、不器用なんですよ。

 でも、妖精さんは可愛い瞳を輝かせてます。

 期待でいっぱいの表情です。


「花嫁修業じゃあるまいし、裁縫なんて」

 

 言ってて気が付きましたけど、もしかするとこれって花嫁修業にピッタリ?

 そう思うと俄然やる気が沸いてきます。


「今日からあなたは、洋裁の妖精さんね!」


 私はそう言って、洋裁の妖精さんとがっちり握手をしました。

 お互いの目が輝いています。

 そう、キラッキラです。

 

 服の裾をチョイチョイと、危険予測の妖精さんが引っ張ります。

 油断するなって?

 まぁなんとかなるじゃないかい!


 したら、先ずは材料の調達よね。

 ってな訳でやって来ました手芸屋さん、イエイ!

 

 服を作ると言っても、糸やハサミに針なんて基本道具から用意しなくては、いけないんです。

 だって、裁縫する事なんて無いと思ってましたから。

 ただ、この時点で気が付いた人は、知ってる人ですね。


 型紙はどうすんの?

 うんうん、そうでしょうよ。

 型紙自体、お店に売ってますし、ネットでダウンロード出来たりします。

 ですが今回は、妖精さんオリジナルのデザインで勝負です。

 洋裁の妖精さんが、鼻を膨らませてます。

 そう、自信作らしいのです。

 

 そして私は、妖精さんの指示で生地を選ぶのです。

 んで、妖精さんの注文は、やっぱり細かいです。

 手芸屋さんっていっても、そんなに沢山有る訳では無いのに、何軒か巡った上に結構な荷物になりました。


 生地だけじゃなくて、色々買わなきゃいけない物もあるんですよ。

 ボタン的なやつとかね。

 アイロンは持ってるのかって?

 いやいや、持ってませんし必要有りませんよ。

 自宅に帰れば、アイロン代わりになってくれる子が居るじゃないですか。

 火と水と風の妖精さん、この子達が居れば、アイロンなんて要りませんよ。


 ようやく買い物が終わり、やっと帰宅です。

 やたらとおっきな買物袋を、両肩に下げて電車に乗る姿って、意外とシュールだと思いませんか?

 でも、こんな事くらいではめげないんです。

 ただまぁ、お金と時間を考えると、既製品を買った方が良いのかもとは、思ったりしますけどね。

 おっと、そんな楽な方に逃げてはいけないんです。

 ここから私は、茨の道を歩むのです。

 そう、永遠のチクチク地獄を!

 

「やってやるさ!」


 私の鼻息は少し荒くなり、妖精さんの気合も充分です。

 到着次第、荷物を広げました。

 モグとペチが興味津々な感じで寄ってきます。

 お料理の妖精さんは、荷物が食材じゃないとわかり、がっかりしてます。

 君達、裕子ちゃんに毒され過ぎてないかい?


 さて、作業開始です。

 妖精さんの指示に従って、レッツ裁断です!

 生地を広げると、モグ達が上に乗っかり戯れ始めます。

 

「ちょっとどいててねモグ。これから大事な作業をするからね」


 私の言葉を察した飼育の妖精さんが、モグ達をすみっこに連れて行きます。

 グッジョブよ。

 さて、気を取り直して、裁断開始です。

 案外、この作業は楽しいですね。

 型紙を生地に写し、チョキチョキと切る。

 例えるならパズル?

 この切り取った生地がどんな形になるんでしょう。

 ちょっとウキウキしてきます。


 ここまではすんなり? といきました。

 えぇ、ちょっと失敗して、洋裁の妖精さんを泣かせました。

 ごめんね、妖精さん。


 問題は、ここからです。

 チクチクタイムです。

 ちょっと憂鬱ですが、挑戦あるのみ!

 

 先ずは洋裁の妖精さんのお手本を見ます。

 そして、真似します。

 上手く出来ずに、妖精さんを泣かせます。

 チクチク、ぐすっ、チクチク、ぐすっ、チクチク、ぽろり、チクチク、うぇ~ん。

 はい、この繰り返しです。

 どれだけ泣かせたか、数えられない位です。

 本当にごめんなさい、妖精さん。


 ある意味、スパルタよりも泣かれる方が厄介です。

 罪悪感でいっぱいになります。

 悪気は無いよ、ほんとだよ。

 頑張れ私、ファイトだ私、妖精さんの笑顔を取り戻すのだ!


 回数を重ねるごとに上達するって?

 そんなのファンタジーですよ。

 不器用がそんな簡単に直って溜まりますかっての。

 最初よりは、多少ましになりましたけどね。

   

 何日もかけてようやく完成!

 私が失敗した所を洋裁の妖精さんが直し、完成まで漕ぎつけました。

 流石の妖精さんも、泣き疲れて腫れぼったい顔をしてます。

 

 ただね、言いたくは無いんですけど。

 このデザインは、奇抜すぎやしませんか?

 やたらとボディラインが強調されてるし、所々透けてるし、どこのファッションショーに出て来る作品ですか?

 きっとニューヨーカーでも、普段着としては着ませよ。

 ましてや、私みたいな田舎者には、ハードルが高いです。

 試着しといてなんですけどでね。

 これを着て、大学に行く自信は無いです。


「あんた、エロイわね」


 恐る恐る振り返ると、そこには裕子ちゃんの姿が。


「ギャー!」

「うっさいわね!」

「裕子ちゃん、覗きは禁止!」

「良いじゃない、女同士なんだし。しっかし、あんたもそんな服を着る様になったのね。いやいや、良いじゃない。胸の無いあんたでも、似合ってるわよ。エロイし」

「同性からエロイって、エロイって言われた・・・」

 

 私はヘナヘナと崩れ落ちました。

 そして、洋裁の妖精さんに土下座しました。


「どうか、普通の服を作って下さい」


 で結局、普通のシャツとパンツを作ってくれました。

 もちろん、妖精さんがですよ。

 洋裁の妖精さんは、道具には触らないで、みたいな顔をするので。

 私が関わらなければ、数時間で終わりました。

 そんなもんです、世の中なんて。

 

「それで、あなたは居着くつもりなのね」


 洋裁の妖精さんは、あれだけ泣いてたのに、私の自宅から離れるつもりは無いみたいです。

 出かける前には、妖精さんのファッションチェックが入ります。

 これで、私のファッションセンスが磨かれると良いんですが。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る