第27話 妖精さんと怖い話

 ある熱い夏の夜でした。

 とても寝苦しく、日が暮れてもじっとりと汗をかくほどでした。

 真夜中に私は目を覚ましました。

 物音ひとつしないワンルームに、ヒタリ、ヒタリと足音が聞こえます。

 少し怖くなった私は、肌掛け布団を頭から被りました。

 段々と音は近づいてきます。

 ヒタリ、ヒタリ。

 音はすぐそこまで、来ていました。

 私の背にはスーっと凍るような寒さを感じます。

 私は全身が粟立ってました。

 恐怖で震える私に、足音は迫ります。

 ヒタリ、ヒタリ、ヒタリ。

 枕元まで足音が近づいた時に、ぴたりと音は止みました。

 まるで何事もなかったかの様に、静まり返る部屋。

 私は、布団から顔を出します。

 するとそこには・・・


「お前が居たのだ~!」


 私のがなり声と共に、妖精さん達がはしゃぎだしました。

 はい。

 とりあえず状況から説明しましょう。


 たまには、妖精さん達とレクレーションをしようって事になったんです。

 なんやかんや、すったもんだした挙句に、怪談をしようって事になったんですよ。

 いや、わかってますって。

 私には、ホラー話をする才能なんて無いんですよ。

 その証拠に、妖精さんがはしゃいでます。

 キャーキャー言って、走り回ってます。

 せっかく電気を消して雰囲気を出したのに、グスン。


 ちなみに、さっき話したのは、最近起きた実話だったりします。

 ほんとに怖かったんですよ。

 最近、急に気温が上がったのも、あったんでしょうね。

 たまたま私は、真夜中に目が覚めたんです。

 珍しくお掃除の妖精さんも眠っていました。

 ビックリするくらい凄く静かな部屋で、ピチョン、ピチョンという水の滴る音と、ヒタリという足音が聞こえてきました。

 

 私は急に怖くなったんです。

 いつもなら、夜中でも妖精さんが動き回っているので、不安に感じる事は無いんです。

 でもその日だけは、妖精さんがみんな寝静まってました。

 怖くて布団を被った私ですが、足音は少しずつ近づいてきます。

 急に足音が止まったので、不思議に思った私が布団から顔を出すと、デロンって溶けた何かが目の前に現れました。

 

「ぎゃあ~!」 

 

 びっくりして私は大声を上げます。

 その正体は、半分溶けた氷の妖精さんでした。

 私の叫び声に驚いた氷の妖精さんは、布団の上で気を失います。


 私の叫び声で、次々に妖精さん達が目を覚まします。

 ペチやモグにミィも、目を覚ましてニャーニャー泣いて、走り回り出しました。

 あっと言う間に、私の部屋は騒がしくなります。

 私は、直ぐにベッドから降りて、電気を点けました。

 かなり溶けている氷の妖精さんを、慌てて冷凍庫に放り込みました。


「ふぅ~」


 氷の妖精さんが溶けきらずに済んで良かった。

 ってよりも、何で氷の妖精さんは、冷凍庫から出てきてしまったんでしょう。

 そんな事を考えるよりまず先に、ペチ達を静かにさせないと。

 私は飼育の妖精さんに子猫達の事をお願いした後に、音楽の妖精さんに子守唄をお願いしました。

 流石はプロフェッショナルですね。

 あっと言う間に、ペチ達を静かに寝かしつけました。

 もともと猫は夜行性なんですよ。

 それが、プロフェッショナル達のおかげで、すやすや寝息を立て始めました。

 

 目を覚ましたお掃除の妖精さんが、濡れた床を拭いています。

 結局のところ何が原因だったのか、いまいちわかりませんけど、取り敢えずは静かになったので、私は少しほっとしました。

 だけどね、本当のホラーはここから始まったんですよ。


 突然ガタンガタンと、玄関のドアが激しく揺れます。

 ドアノブがガチャガチャと音を立てて、動いています。

 誰がドアを開けようとしてるの?

 夜中に誰かが来ることなんて無いです。

 そんな予定があるはずも無いです。

 私はサーっと血の気が引いていくのがわかりました。

 

 ガタンガタンと、玄関のドアとノブは激しい音を立ててます。

 思わず私は妖精さん達を見渡しました。

 うん、全員いるね。

 妖精さん達の仕業って事じゃなさそう。

 

 怖がる私は、すがるような目で、妖精さん達を見ました。

 そして妖精さん達は、そろって首を傾げて、つぶらな瞳を輝かせていました。

 何だか怖がっているのが私だけみたいで、少し不満です。

 いや、面白がってないで助けようよ、私をさぁ。

 

 ドアスコープを覗く気にすらなりませんよ。

 なんか居たら怖いじゃないですか!

 玄関にすら近寄りたくないです。


 少しすると、静かになります。

 収まったのかと、ほっとするのも束の間、ガチャリと玄関の鍵が開く音が聞こえます。

 ゆっくりと静かに開いていく玄関のドア。

 怖いです、チョー怖いです。

 心臓がバクバクしてます。

 助けを求める様に、妖精さん達を見ても、助けてくれる気配がありません。

 

 私は少し腰が抜けて、床に座り込んでしまいました。

 ドアが開いていくのと同時に、私は両手を使ってジタバタと後ずさりします。

 やがて、ドアが全開になります。


「うるさいのよ! 何時だと思ってんの!」


 玄関には、鬼の形相をした裕子ちゃんが立ってました。


「びっくりさせないでよ、裕子ちゃん!」

「びっくりしたのは私よ。あんたこんな夜中に何て声だしてんのよ!」

「だってぇ」

「だってじゃないわよ、この馬鹿!」


 そこからは、朝まで裕子ちゃんのお説教が続きました。

 碌に睡眠も取れないまま、翌朝から大学に行って、バイトに行きました。

 講義の最中に何度も睡魔が私を襲いました。


 ある意味、本当にホラーでしたね。

 幽霊の正体見たり裕子ちゃん、でしたけどね。

 それよりも、妖精さん達ですよ。

 私が裕子ちゃんにお説教されている間中、ず~っと爆笑していたんですから。

 ドッキリにひっかかったタレントを見ている、視聴者の様です。

 

 実はそれが悔しかったので、怪談話しで妖精さん達を驚かそうと思ったんですが、駄目だったようですね。

 仕方ないです。

 次の手を考えるとしましょう。

 私の復讐はまだ始まったばかりなのだよ、はっはっは~!

 妖精さん達よ、油断していると良いさ。

 いつかビックリさせてあげるんだから~!

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