第26話 誕生日につき

 ひゃっほ~!

 いきなりなテンションで、ご挨拶です。

 いや、まあなんて言うかその。

 今日は私の誕生日なんですよ、へへへ。 


 誕生日と言えばケーキですよ。

 お祝いされるのかって?

 いやいや、こんな日に限って裕子ちゃんは、デートですって。

 美夏ちゃんは、先週からアルプス山脈に旅立ってます。


 ボッチ誕生日とか言っちゃ駄目です。

 ボッチでケーキとも言っちゃ駄目です。

 だ~か~ら、ボッチボッチうるさいですよ!


 良いんですよ。

 私には妖精さんがいるんですから。

 そして、この日の為に準備をしてきました。

 お料理の妖精さん特製のスペシャリテ、その数々が披露されるのです。

 

 君っていくつ? ってそれはナンパですか? 古いですね。

 まぁ良いです、なんと私は今年で二十一歳になったんです。

 あっと言う間に大学三年生です。

 早いですね、そして今年は就職を意識しないとって、まぁ今日の所は忘れましょう。

 なんと言っても、豪華料理にケーキですよ~!


 名店のシェフの腕を盗み見た、もとい再現した数々の料理を想像しただけで、お口の中で涎がドゥワってなりますね。

 そして私も頑張りました。

 お料理の妖精さんが厳選した、お取り寄せ食材を集めまくりました。

 久しぶりに市場にも行きました。

 ふぅ~。

 大変でしたよ。

 

 それでは、本日のメニューです。

 食前酒は、スーパーで買ったシャンパンです。

 お料理の妖精さんに土下座して、妥協してもらいました。

 そもそも、私がリクエストしたのは、スープとメインにケーキだけなんですよ。

 食前酒なんてリクエストしてないんです。

 だって、私はお酒ってあんまり飲まないですし。

 お料理の妖精さんが泣いて頼むから、仕方なく買ったんですよ。


 スープの材料に、一番お金がかかったかもしれません。

 それと時間もね。

 お料理の妖精さんは、特に気合を入れて作ってました。

 ブイヨン作りから始まって、コンソメ作り。

 そして、ダブルコンソメへと進化を遂げるのです。


 部屋中に立ちこめるいい匂いは、風の妖精さんがきっちりお外に出します。

 勿論、お隣に住んでいる裕子ちゃんにばれない様に、念入りに気を付けて。


 実は、もう少し奮発しました。

 生ウニを取り寄せたんです。

 コンソメ作りの過程で少し手を加えた、コンソメゼリーを使って、逸品が出来上がりました。

 オードブルは生ウニのコンソメゼリー寄せホワイトアスパラガスと共にです。


 ウニとホワイトアスパラガスは、母の知り合いという伝手を使って、比較的に安く手に入れて、送ってもらいました。

 だけどね、メイン料理はそうはいかないんですよ。

 

 ネットで、たまたま見てた有名店のメニューを見てて、お料理の妖精さんと意気投合しました。

 その名も鴨フィレ肉のロースト!

 やばそうでしょ!

 これしか無いよねって、お料理の妖精さんとハイタッチしました。

 うん、これも素材はそこそこ良いお値段がしました。

 妖精さんの手によって、素材は最高の逸品に仕上がります。

 あぅぅ、涎が・・・ 

  

 最後はケーキですよ、ケーキ。

 むしろこれが、今日のメインじゃないでしょうか。

 季節のフルーツ盛りだくさんのフルーツタルトです。

 イチゴやキウイに甘夏などが所狭しと積まれたタルトは、目にも鮮やかで食べるのが勿体ない位です。


 これでは裕子ちゃんの事を、食欲魔王と言えなくなっちゃいますね。

 いや、良いんです。

 だって、誕生日なんですから。

 

 音楽の妖精さんが奏でるメロディーに合わせて、みんなでハッピーバースデーの歌を合唱します。

 妖精さん全員が私の誕生日を祝ってくれます。

 ペチ達もニャ~って鳴きながら、参加してくれます。


 と~っても嬉しいです。

 誰ですか、ボッチとか言った人!

 こんなに沢山の妖精さんに囲まれた誕生日なんて、私以外にいないでしょ!

 最高の幸せですよ。


 いちおう言っておきますけど、ケーキにローソクとか、流石にやらないですよ。

 ふーって消したりしないですよ。

 勘違いしないでよね、フン。


 気を取り直してお料理の味ですが、もう言わずもがなですよ。

 筆舌に尽くしがたいとは、この事を言うんですね。

 オードブルは、コンソメが生ウニの味を上手く引き立てており、ホワイトアスパラガスがこれまた絶品でした。

 深い味わく香高い、美しい琥珀色のダブルコンソメスープは、目と鼻と舌の三つを喜ばせてくれます。

 ゼリー寄せにしたコンソメと違い、染み入る様な旨味が口一杯に広がります。

 メインの鴨ローストは、もうほっぺがムニョって落ちそうでした。

 ふっくらと柔らかく深い味わいの鴨肉が、赤ワインをベースに作ったマデラ風のソースとマッチして、更に旨味を引き立てています。

 ケーキも最高でした。

 瑞々しい旬のフルーツの芳醇な甘さと程よい酸味が、これでもかと押寄せてきます。

 

 もう満腹です。

 すっごく大満足です。


「妖精さん達、ありがと~! 最高の誕生日だよ~!」


 と喜んだのもつかの間でした。

 ガチャっとドアを開ける音と共に、魔王がうちにやってきます。

 言わずとしれた裕子ちゃんの襲来です。


「美味しそうな匂いさせてるじゃない。私のも有るんだよね」

「あのさ、裕子ちゃん。これ私の誕生日用だから。特別な日のごちそうだから」

「ふ~ん、おめでと。で、私の分は?」

「って裕子ちゃんデートは?」

「あんな男どうでも良いのよ。それより早くご飯出しなさいよ」

「いや、材料なんて」


 裕子ちゃんに脅されながら、お料理の妖精さんを見やると、コクコクと頷いています。


「あぁそう。出せるみたい。ヨカッタネ」

「何よ不満そうね。おめでとうって言ってあげたじゃない」


 そう言って色々食べ尽くし、裕子ちゃんはお腹を擦りながら帰っていきました。

 最後の最後で、色々台無しにされた気分です。

 一人でごちそうを食べようとした私が悪いのですか?

 あぁそうですか。

 誰か慰めて下さい。ぐすん。 

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