第24話 DIYの妖精さん

 最近、DIYが流行ってるみたいですね。

 これは、Do it yourself、つまり自分で色々やる事を意味している様です。

 博識でしょ? なんて、そんな言葉の意味は、結構どうでもいいんです。


 最近、うちに住み着いた新しい妖精さんが、色々やらかしました。

 と~っても、便利な子ですよ。

 でもね私の自宅は、賃貸なんですよ。

 アメリカみたいに、改造オッケーな、賃貸では無いんです。

 勝手にカスタマイズしてはいけないんです。

 退去する時に、原状回復費とか、求められちゃうんです。


 ある日、自宅に帰ると変わり果てた内装に、私は腰を抜かしました。


 材料が無くても、妖精さんは色んな物が作れるかって?

 いやですね。

 そんなの、ファンタジーじゃないですか。

 なら材料はどうしたって?

 原因はあいつですよ、あいつ。

 裕子ちゃんです。

 ちょびっとわたしも・・・


「こんど棚とか色々作るから、あんた買物に付き合いなさいよ」

「そう言って、人頼みの癖に。忙しい私をこき使う癖に」

「当たり前でしょ。あんたの食費は、ほとんど私が出してるのよ。手伝い位しなさいよ」


 こんな事を本気で言うのは、裕子ちゃん位ですよ、多分。

 買ってきた食材を調理してるのは、お料理の妖精さんですし。

 裕子ちゃんのお部屋が、ばっちくならない様に、綺麗にしてるのは、お掃除の妖精さんですよ。

 裕子ちゃんには、感謝の気持ちを教えてあげたいです。


 そんなこんなで、車に放り込まれて、ホームセンターに連れて行かれました。

 まぁ、私もホームセンターは好きだから、良いんですけどね。

 何だかんだで、私はウキウキしながら、ホームセンターの中を物色しました。


 ハイ。この時点で、気が付いていれば良かったです。

 いえ、危険予測の妖精さんが、何か言ってた気がします。

 ちゃんと、話しを聞いておけば良かったんです。


 裕子ちゃんはネットで見たDIYの棚を作りたい様で、木材やら簀やらの材料を始め、釘やトンカチ等の工具も購入していきます。

 ところで、ペンキやニスは何に使うんだろう。

 しかもそんなに沢山の色を揃えちゃって。


 私達が乗って来た車は、軽自動車なので、購入した材料は後日配達して貰う事になりました。

 にしても、裕子ちゃん買い過ぎじゃないって位の、材料を購入しました。

 配達して貰うにしても、材料で部屋がパンパンになりますよ。

 どうせ、裕子ちゃんの部屋は、ただの寝室みたいなもんですから。

 私の部屋に押しかけて寝る事も、想定済みなんでしょうね。


 それにしても、ホームセンターには色んなものが有って、楽しいですね。

 裕子ちゃんから、棚の画像を見せられて、私も作りたくなっちゃいました。

 そして、工具のコーナーを物色していた時です、現れちゃいました、新しい妖精さん。

 自分の身体より大きなトンカチを、軽々と振り回しています。

 リアルなポルターガイストを阻むため、私は慌てて妖精さんを止めました。


「駄目よ。人が見たら、びっくりしちゃう」 


 妖精さんは、頭をコクコクと動かして頷きました。

 理解の良い妖精さんで、良かった。


「ところで、あなたは何の妖精さん?」


 妖精さんは、笑顔で工具を指さします。

 あ~、わかりましたよ。

 この子は、物作りが得意な妖精さんなんですね。

 それにしても、凄いタイミングですね。

 もしかして、裕子ちゃんって案外、妖精さんに愛されてるのかしら。

 な訳ないか・・・


 ホームセンターを出た後は、雑貨屋さんとか生地屋さん、手芸屋さんを巡りました。

 ファブリック柄の布やモノトーンの布などを、裕子ちゃんは色々買いました。

 

「ねぇ裕子ちゃん。お金足りるの?」

「引っ越しの祝儀的なやつよ。お父さんからふんだくったの」


 ちなみに、私も買っちゃいました。

 剥がせるタイプの壁紙とウォールステッカー、後はパステル柄の布です。

 清水の舞台で、えいってジャンプした気分です。

 いやまぁ、飛び降りたら怪我するでしょ!

 実際、私の代わりに、バイト代が飛んでいきましたけどね。

 

 私の膝の上では、新しい妖精さんが躍っています。

 何が嬉しいんでしょうか。

 この笑顔を見ていたら、ハプニングの予感は、あんまりしないんですね。

 まぁ、それが油断なんでしたよ。

 後から思えばって所ですけど。


 自宅に戻ると、新しい妖精さんは、部屋を物色しています。

 時折、ムムって考え込む様な仕草もしています。

 私は放置して、ペチ達と戯れました。

 私が帰るとじゃれついて来る子猫達、う~ん、至福の一時ですね。

 結局、その日は特に何も起きず、音楽の妖精さんのヒーリングミュージックで、私は眠りにつきました。

 

 実はこの時、事態は進行していた様です。

 私が眠った後に、妖精さん達の会議が始まったらしいです。

 後日、危険予測の妖精さんが、私にチクりました。

 

 何も知らない私は、朝食を食べた後、いつも通りに大学へ行きました。

 夕方からバイトが入っているので、帰りは少し遅くなると、お料理の妖精さんに伝えて。

 講義に出て、夕方からバイトで入力作業をして、かなり疲れた私は家路につきます。


 鍵を開け、部屋に入った瞬間でした。

 私は目を疑いました。

 確か壁紙は、白っぽい色だったはず。

 部屋の一部が薄いブルーに変わってます。

 ウォールステッカーが、とても良いアクセントになってます。


「あれっ、これ昨日買った、剥がせるタイプの壁紙だ」


 変化がクロスだけなら、それほど驚きはしないですよ。

 模様替えどころか、リフォームに近い事が行われていました。


 淡いブルーを基調にして、クッションやベッドがリメイクされてます。

 私が本棚に利用していた、安い木の棚が組み直されて、梯子型のオシャレな棚に改造されてます。

 そこまではいいんです。

 すご~い! で済むんです。

 所々にウォールラックが打ち付けられて、小物が並べられています。

 おまけに、大きなファブリックパネルが、で~んって。


「ね、ねぇここ賃貸なんだよ! 釘とか打ったら駄目なんだよ!」  


 妖精さんは、とっても良い笑顔でサムズアップしてます。

 やり切った顔をしています。

 私は、びっくりして暫く腰を抜かしてました。


「この部屋出る時は、どうするのさ」


 妖精さんは、力こぶを作って、私にアピールしていました。

 まぁ、原状回復までしてくれるなら、何も文句は無いんですけど。

 新しくなった部屋に、他の妖精さん達は、大喜びです。

 因みにその夜は、新しい妖精さんの歓迎会になりました。

 新しい妖精さんの名前は、DIYの妖精さん。

 命名は、いつも通り私です。


 裕子ちゃんはと言うと、途中で飽きちゃったみたいで、DIYの妖精さんが後を引き継ぎました。

 DIYの妖精さんは、残った材料で、私の部屋を更に魔改造しました。

 困った子です。

 結局、私の部屋は、北欧風の部屋にリフォームされちゃいました。

 因みに、DIYの妖精さん謹製のキャットタワーは、ペチ達に大人気です。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る