第21話 裕子ちゃんの襲来

 皆さんは三月と言えば、何を思い浮かべますか?

 やっぱり卒業式が、一番じゃないですか?


 私の自宅はご存知の通り、ワンルームなんですが、隣の住人さんが引っ越しました。

 なんでも、地元の九州で就職するそうです。

 いわゆるUターンってやつですね。


 優しいお姉さんだったんですよ。

 ペチ達が、ニャーニャーうるさくしても、ウフフって笑って、済ませてくれるんです。

 帰郷した時は、お土産の交換なんかもしたんですよ。

 いつも笑顔でおはようって、挨拶してたのに、なんだか寂しくなりますね。


 引っ越しする時に、荷物の整理を手伝ったんですが、ちょっと泣いちゃいました。

 まあ、そんなこんなで、お隣さんが居ない状況でした。

 ちょっとの間だけでしたけど。

 何て言うか、空き家って直ぐに埋まっちゃうんですね。


 気が付いたら、引っ越し屋さんが来てました。

 いつの間にって感じですけどね。

 どうか怖い人とか、来ませんように。

 あと、ウェ~イって感じの人も。

 だって苦手なんですよ、そういう男の人って。

 出来たらまた、優しい女の子が、お隣さんだったら良いな。


 そんな勝手な事を祈ってたら、もっとヤバイのがやって来ました。

 引っ越し屋さんの後につづいて現れた人影に、目を疑いたくなりました。

 筋肉むっきむきのおっちゃん達を引き連れて、あの子が隣の部屋に入って行くじゃないですか。

 テキパキと、指示してるじゃないですか。


 いやいや違うよ、私の見間違いだよ。

 そうだよ、だってさぁ、あの子の実家は神奈川県なんだよ。

 実家から大学に通えるんだよ。

 なんで、引っ越してくるの?


「お~い!」


 いや~、呼びかけないで!


「無視すんなし」


 どこのギャルですかあなたは!


「びっくりしたでしょ!」

「ド、ドナタデスカ? ハジママシテ」

「何言ってんの、馬鹿なの?」

「馬鹿は、裕子ちゃんでしょ! 何してんの?」

「何って、引っ越してきたのよ」


 よくわかりません。

 何で裕子ちゃんがここに引っ越してきたのでしょう。

 って、考えるまでも無かったですね。

 目的は、妖精さんか・・・

 そう言えば、何度かシェアハウスを借りようって、誘われた気が・・・

 断ったから、押しかけたという事なのね、ハァ。


 あの子が百合ってたら、私は逃げてましたね。

 でも、あの子の目的は私じゃ無くて、妖精さん。

 特に、お料理とお掃除の妖精さんを狙ってます、きっと。


「せっかく、あんたとシェアハウスで暮らして、楽しようと思ってたのにさ、断るんだもん。あんたと暮らせば、美味しい料理が毎日食べ放題なんだよ」


 聞きました?

 本音が出ましたよ。


「だから、隣の部屋が空くのを待ってたの。不動産屋にもお願いしてあったのよ」


 聞きました?

 いつからでしょう。

 ねらわれた隣の部屋ですね。


 引っ越し屋さんが、荷物を運び終わると、さっそく裕子ちゃんが、ほざきやがりました。


「じゃあ、掃除と片付けをよろしくね」


 ほんと何を言ってるんでしょう、裕子ちゃんってば。

 チラッとお掃除の妖精さんを見ると、何だかやる気満々な感じです。


 あなた達ねぇ、ここで甘い顔したら、ずっとお掃除させられるのよ。

 でも、お掃除の妖精さんは、首を縦にブンブン振ってます。

 おぅ、なんてこった。


「それで、これが引っ越し祝い用の食材ね!」


 食材を見た瞬間に、お料理の妖精さんが、踊り出しました。

 ヒャッホーって感じになってます。


 まぁ流石と言うかなんと言うか。

 お掃除の妖精さんは、あっという間に片付けを終わらせ、掃除を済ませちゃいました。

 裕子ちゃんってば、妖精さんを見えないはずなのに、どうやって指示したのかしら。

 どうせ、お任せコースくらいに、考えてるんでしょうね。

 どこの棚に何が入ってるかわからずに、後で困れば良いんですよ。


 私の部屋といえば、台所でお料理の妖精さんが、フィーバーしてます。

 すっごく楽しそうです。

 良いんですけどね、ハァ。


 わたしはペチとじゃれてますか。

 ペチ~、君は良い子だね~。

 う~ん、可愛いね~。

 お~、モグ~。

 君もかわいいぞ~。


「んで、あんたは何してんのよ」

「いや~、なしてこんな事になったかと思ってるのさ」

「あ~、したっけ、したっけ」


 確実に喧嘩売ってますね、裕子ちゃんめ。

 ほっぺを引っ張ってやろうかしら。

 ぐぬぬぬぬ。


「ほら、ぼけっとしてないで、飲むわよ! 料理は出来てるんでしょ?」


 お料理の妖精さんを見ると、お皿に料理を盛り付けてました。

 おぉ! こっちも仕事が早いですね。

 一仕事終えて、とっても満足気な顔してます。


 まぁ後はいつも通り、裕子ちゃんがひたすら飲んで食べて、おまけに私の部屋で寝ちゃいました。

 引っ越して来たんだから、自分の部屋に戻ればいいしょ。


 このうるさい日々が続くって考えると、ちょっと頭痛くなります。

 妖精さん達が楽しそうにしてるし、私も別に嫌って訳じゃ無いし。

 お祭り騒ぎに付き合ってあげますか。

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