第20話 不思議な出会い

 妖精さんは、普通の人には見えない様です。

 私には大抵妖精さんがくっついていますけど、不思議がる人は居ませんでしたし。

 知り合いの中では、美夏ちゃん位でしょうか。

 あの子はある意味純粋な子ですから。

 脳筋さんとも言いますけど。


 そう言えば私が上京して間もなく。二人だけ、妖精さんが見えた人が居ました。

 それは、すっごく可愛い女の子と、生意気そうな男の子のカップルでした。

 あの子達は兄妹って言ってたけど、本当かな?

 全く似てない兄妹だったよね。


 女の子の方は金髪の美少女でした。

 外人さんなんだと思います。

 話しかけられた時は、ドキドキしちゃいました。


「おね~さん。不思議な子達を連れてるね~。かわいいね~」


 たまたま、多摩の辺りに出かけた時のことでした。

 ダジャレじゃないですよ。

 立川駅近くの公園だったと思います。


 声をかけられて振り向いたら、そこに美少女が居るじゃないですか。

 つい、キョロキョロしちゃいました。

 だって、私に話しかけて来るのは、裕子ちゃんみたいな大食い少女位だと思ってたので。


「ねぇ、おね~さんってば。聞こえてる~?」

「よせって、ペスカ。困ってるだろ! すみません。この馬鹿が」


 あら、生意気そうな感じの癖に、案外親切なのかな、この男の子。


「だって、お兄ちゃん。このおね~さんに、不思議な子がくっついてるんだよ」

「どうせ人形だろ。訳わかんねぇ事、言ってんじゃねぇよ」

「そうじゃ無いよ。なんだろこの子?」


 女の子は、私の肩に乗っている妖精さんを、触ろうとしました。

 ああ、もう確定ですね。

 これ見えてる反応ですよ。

 妖精さんは、女の子の手に乗って、踊り出しました。


「ふ~ん。君は妖精さんなんだね。ふふ、このおね~さんに、お勉強を教えてるんだ。凄いね~」


 この子は、凄い子かもしれません。

 妖精さんとお話してます。

 見えてるだけじゃないみたいです。

 すっごい感動です。

 初めて私以外に、妖精さんが見える人がいました。


 私を不思議っ子みたいに扱ってきた地元の子達に、見せてあげたいです。

 ですが私の感動を、男の子が簡単に壊してくれました。


「何言ってんだペスカ。ぬいぐるみで遊んでんじゃねぇよ。おままごとって歳じゃねぇだろ」


 いやいや、君も妖精さんが見えてるよね。

 でも、ぬいぐるみって何でよ。


「返してやれよ、ペスカ。このおね~さん困ってるだろ」


 そうじゃ無くて、私が困ってるのは、君の反応だよ。

 妖精さんが見えてるのに、実際に女の子と楽しくおしゃべりしてるのに、ぬいぐるみって。

 あぁ、わかりましたよ。

 この男の子は、俗に言う脳筋さんってやつですね。


「ねぇおね~さん。せっかくだから、一緒にお散歩しようよ。妖精さんもそうしたいって」


 私が妖精さんを見ると、確かに女の子と一緒に、お散歩したそうに手をジタバタさせてます。


「わかったよ。じゃあ一緒に散歩しよっか。ところで君達のお名前は?」

「私は、東郷ペスカ。ペスカでいいよ」

「俺は、東郷冬也。好きに呼べばいいよ」

「同じ苗字って事は、二人は兄妹なの?」

「そ~だよ、おね~さん」


 おぅ、美少女が可愛く笑ってます。

 美少女と妖精さんのコンビは、絶大な破壊力を持ってます。

 あのスベスベそうなほっぺに、頬ずりしたい。

 鼻血でそう・・・

 でも、頑張りましたよ私。

 欲望に打ち勝って、無難な質問をすることが出来ました。


「ペスカちゃんと冬也君は、何年生なの?」

「私は中一だよ、おね~さん」

「俺は中二だ。それがどうかしたか? それより、おねぇさんは高校生か?」

「私は、今年から大学生だよ。高校生じゃないよ」

「見えねぇな。背が低いからか?」


 失礼な子ですね、冬也君って。

 ズバッと、私が気にしてる事を言うんですよ。

 デリカシーをデリバリーして欲しいです。

 確かにね、中一のペスカちゃんと私の身長は、そう大差ありませんよ。

 それがどうしたってんですか、けっ。


「お兄ちゃん。このおね~さんは、可愛い系なんだよ」

「何言ってやがる、ペスカ。かなり美人ってやつだぞ、このおねぇさん。背はちっちゃいけど」


 冬也君って、往来で何を口走ってんですか!

 でも、しっかり身長の事で止めを刺しましたね、くっそう!

 冬也君って多分、思った事をそのまま口に出す、お馬鹿さんなんですね。

 それに比べてペスカちゃんは、良く出来た子です。

 撫でてあげたい、ギューってして、頬をスリスリしたい。

 おぅ、ちょっと興奮し過ぎた。


 それにしても、妖精さんと一緒に公園を歩く美少女って、絵になりますね。

 スキップしてる姿も可愛いですね、美少女好きな人の気持ちが、少しわかった気がします。

 可愛いは正義ですよ。

 妖精さんも凄く嬉しそうです。

 美少女と一緒に、笑顔でスキップしてます。

 そして優しい眼差しで、少女を見守る兄。

 ふと私の視線が、冬也君に向いた時の事でした。


「あのおもちゃ、すげぇな。どこで売ってんだ?」

「違うよ、妖精さんだよ。売ってないよ」

「そっか、ペスカに買ってやろうと思ったのにな。でもおねぇさんは大学生なら、おもちゃで遊ぶって歳じゃねえぇだろ。止めた方が良いんじゃねぇのか?」

「いや、そうじゃ無いって。妖精さんってわからない?」

「はぁ? 妖精さんって名前のおもちゃか? あれって自分で作ったのか? すげぇな」


 駄目でした。この子には、話が通じません。

 冬也君と話をしていると、頭が痛くなりそうです。

 それにしても、似てない兄妹ですよね。

 妹の方は、あんなに可愛いのに、兄はすっごく残念な感じです。


「君達って、異母兄弟なの?」

「馬鹿じゃねぇのか? 血なんか繋がってねぇよ。見てわかんねぇか」


 うわ~、生意気ですね。

 仮にも私は年上ですよ。

 質問が悪かったかもしれないけど、馬鹿って君にだけには言われたくないよ。

 でも私は大学生です、大人なんです。

 子供の挑発には乗りませんよ。

 

「ごめんね、変な質問して」

「別に気にしてねぇよ。それに、おもちゃで遊ぶ子供に言われても、腹が立たねぇよ」


 冬也君って、爽やかな笑顔で毒を吐くんですね。

 他意は無いんでしょうよ、でもグサッときますね、この馬鹿の言葉。

 

 やっぱり美少女と戯れてる方が楽しいって事で、その後はペスカちゃんとおしゃべりしました。

 ただね、この子も只者じゃ無かったです。

 だって、お勉強の妖精さんと白熱したトークをしているんですよ。

 あれはもう議論みたいなもんです。

 居る所には居るんですね、天才児って。

 私には着いて行けないです、グスン。


「ねぇ、おね~さんの所には、他にもいっぱい妖精さんが居るんでしょ?」

「そうよ。みんな助けてくれるのよ」

「妖精さんって、他人には見えて無いんだよね?」

「今までは居なかったね。ペスカちゃんが初めてだよ」

「目に見えない存在が見えるなんて、不思議な力を持ってるね。異能の力かな?」

「ごめん。何を言ってるか、わかんないよ」

「おね~さん、魔法は使えるんだよね」

「へっ? 魔法って?」

「あれ? おね~さんって、ロイスマリアの人じゃないの?」

「ペスカちゃん、それって何? どこかの国名なのかな?」

「わかんないか。前世の記憶を失くしてるとかかな?」

 

 困りました。ペスカちゃんって、不思議少女でした、こんな美少女なのに。

 兄も残念なら、妹も残念とくれば、ある意味仲の良い兄妹じゃないでしょうか。


 そんなこんなで、楽しい公園散歩が終わり、ペスカちゃんと連れ立って、駅に向かう途中の事でした。

 いかにもチャラそうな奴等が、私達に声を掛けて来たんです。


「なに二人共、可愛いね。どっか行こうよ」


 なんてテンプレ台詞なんでしょう。

 でも、私は怖くて声が出ません。

 その時でした。


「おい、てめぇら。俺の妹と連れに何か用かよ」


 颯爽とナンパ野郎と私達の間に、冬也君が入ってくれました。

 冬也君の鋭い視線にビビったのか、ナンパ野郎は去って行きました。


「大丈夫だったか? 変な事されなかったか?」

「もう。お兄ちゃんが居ないから、変な奴らに声かけられたじゃない」

「ごめんペスカ。おねぇさんも、ごめん」

「大丈夫だよ、ありがとう」


 何でしょう、吊り橋効果?

 冬也君にときめく私が居ます。

 自分でもわかります、顔が熱いです。


「カッコイイでしょ、お兄ちゃんって」


 ペスカちゃんが私の顔を覗き込んできます。

 私は自分の顔が、益々熱くなるのを感じました。


「でもね、お兄ちゃんは私のだからね。好きになっちゃ駄目だよ」


 何て事でしょう、聞きました?

 この子は残念な上に、ブラコンさんでした。

 

 その後は、駅前で二人と別れました。

 今更ですが、連絡先くらい、交換しておけば良かったですね。 

 それ以来、二人とは会う事はありませんでした。

 たまに思い出します、印象的な子達でしたから。

 今頃、何をしてるんでしょうか?

 何はともあれ、元気にしてると良いですね。

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