第17話 サバイバルの妖精さん

 サバイバルって、やった事あります?

 お魚が、威張ってるんじゃ無いですよ。

 サバゲーとも違いますよ。エアガンを、バンバン撃ったりしないんです。


 最近、裕子ちゃんから紹介された女の子と、友達になりました。

 名前は美夏ちゃんと言います。

 可愛い子なんです。

 やや赤めのフレンチショートに、焼けた肌は、夏を彷彿とさせます。


 ただ、ちょっと問題なのが、美夏ちゃんは、ほぼ野生児です。

 お腹が空いたら、平気でそこら辺の草を食べたりします。

 体力が有り余っているのか、いつも走り回っている気がします。

 冬でも薄着で、ハーフパンツにスニーカーを履いてます。

 男の子みたいな美夏ちゃんですが、笑顔はとっても可愛いです。まるで太陽みたいです。


 そんな美夏ちゃんは最近まで、農家で住み込みのバイトをしていたらしいです。

 今まで美夏ちゃんのアルバイトしたのは、体を動かす仕事ばかりです。

 高校を卒業してから、地元の真駒内で酪農のアルバイトを始めて、伝手を辿ってしばらくマグロ漁船に乗った後に、お金を溜めつつ内地に渡って、林業やら、農業やらのアルバイトをしながら、少しずつ南へ移動して来たようです。

 何と言ったらいいか、とってもたくましい子です。


「せっかく知り合ったんだから、キャンプでもして遊ぼうよ!」 


 聞きました? 遊びもアウトドアですよ。


「ぼく、温泉が近くに有るキャンプ場、知ってるんだよ。ねぇ行こうよ!」


 聞きました? この子、ボクっ娘ですよ。

 しかも、温泉ですって。


 うっかり頷いてしまった私が悪いのか、ボクっ娘の美夏ちゃんが悪いのか。

 大変な目に遭いました。

 おまけに、美夏ちゃんてば、脳筋さんでした。

 どんだけ、属性つければ気が済むんだ、この子は。


「美夏ちゃんさぁ。キャンプの道具は、どうするの? わたしは持って無いよ」

「だいじょぶだよ。キャンプ場で、借りれば良いんだもん」

「キャンプ場までは、どうやって行くの?」

「あはは、車で行くよ。ぼく、免許持ってるもん」

「美夏ちゃんって、車も持ってるの?」

「やだな~、持ってないよ。レンタカーに決まってるっしょ」


 そんなこんなで、当日がやって来ました。

 不安しか有りませんよ。

 残念な事に、不安は的中してしまうのです。


 ナビが付いてるのに、道に迷うなんて考えられます?

 散々注意したのに、ガス欠になるとか。

 地図にも載っていない山の中で、迷子になる事を、遭難って言うんですよ。


 車は動かせないし、スマホの電波が届かないから、連絡出来ないし。

 寒いし、お腹は空いたし。

 大変な事態なのに、美夏ちゃんは元気はつらつだし。

 そんな時に、現れるもんなんですよ、救いの神ならぬ、救いの妖精さんが。


 飲み物なんて、余分に持って来てないしどうしよう。なんて思っていると、妖精さんが水源を探して、教えてくれます。

 山の中だから、薪は拾いたい放題なんですけど、火のつけ方がわかんない。なんて思っていると、薪の付け方を教えてくれます。


 妖精さんの案内で、少し開けた場所に行って、焚火をしながら、その夜は過ごしました。

 日が昇ってから、更に妖精さんの本領は発揮されました。

 所々にマーキングをしながら、山道を進んで行きます。

 お腹は減ってますけど、我慢します。


 妖精さんの案内に従って、数時間くらい歩いた所に、微かにスマホの電波が届く場所を発見したので、JAFを呼びました。


「どうやって、こんな所に迷い込んだの?」


 JAFの人に言われましたが、むしろ私が知りたいです、そんな事。

 ただね、ちょっと嫌な予感がしてるんですよ。

 妖精さんが、やたらと美夏ちゃんに懐いているんです。

 それでもって、美夏ちゃんは妖精さんを、目で追っているみたいなんです。


「ねぇ。さっきから、ぼくの周りを飛んでるのって、新種の生物?」


 うわ~。やっぱり見えてるよ、この子ってば。


「でも、この生物のおかげで、ぼく達は遭難しなくて済んだんだよね」


 美夏ちゃんは、妖精さんをおっかなびっくり撫でてます。


「あのね、信じないと思うけど、その子は妖精さんだよ」

「嘘だぁ! 妖精なんて、居る訳ないしょ!」

「現に見えてるじゃない! それが妖精さんなんだってば!」

「またまたぁ! 面白い事を言うんだね」


 まぁ、信じませんよね。

 でもね。帰れば信じさせる方法は、有りますよ。

 だって、他の人が見えてなければ、信じるしか無いんですもん。


 帰りはJAFの車にくっついて、迷うこと無く帰宅出来ました。

 面倒ですけど、妖精さんを信じない美夏ちゃんに、裕子ちゃんを引き合わせました。

 結局、なんやかんやで美夏ちゃんは、妖精さんを信じてくれました。


 そうじゃ無いと、せっかく助けてくれた妖精さんが、可愛そうです。

 泣いちゃいますよ、きっと。


 その後、妖精さんはどうしたって?

 わんぱくな美夏ちゃんに、張り付いてます。

 すごく楽しそうです。


 遅ればせながら、この妖精さんに名前を付けました。

 サバイバルの妖精さんです。


 美夏ちゃん曰く、どんな山の中に入っても、この子が居るから、帰って来られるそうです。

 もしかしたら、実験でもしたんでしょうか?

 流石、脳筋さんですね、美夏ちゃんって。

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