第15話 バレンタインデー記念、チョコ作り対決

「バレンタインか~。何が楽しいんだろう~」


 おぅ。思わず口に出てしまった。しかも、チョコ売り場の前で。

 わいわい楽しそうに、チョコを物色する女の子達の白い目。

 やばいです。怖いです。


 多分ね、バレンタインデーって、ドキドキ感が良いんですよ。

 チョコを貰えるかどうかっていう、フワフワしてる男の子達。

 渡すの渡さないのって、一喜一憂する女の子達。

 ほのかな恋心ってやつですよ、お客さん!


 私?

 そりゃあ、私もれっきとした女ですよ。

 そうじゃ無くて、チョコを渡さないの? って、聞くな!


「年齢イコール彼氏いない歴の私が、不思議っ子として地元で扱われて来た私が、チョコを渡す相手なんているもんかぁ~!」


 最近では勉強やバイト三昧で、手段が目的に変わりつつある毎日ですよ。

 出会い? 

 私だって頑張ってますよ。

 大学では、男の子と積極的に話をしますし。

 清楚系女子をたっぷりとアピールしますし。


 でもね、妄想するとちらつくんですよ。

 彼氏と遊びに行く時に、予防医療の妖精さんがちらり。

 彼氏の家に遊びに行くと、お掃除の妖精さんがちらり。

 手料理をって頑張ると、お料理の妖精さんがちらり。


 きっと、あの子達はどこでもついて来る。

 そして、サイコな状況に彼氏がドン引き。


 駄目駄目。ネガティブになってはいけない。

 妖精さんも、私も悪くない。悪くないったら悪くない。

 箒がフワフワ動いてたり、フライパンが浮かんでたりする、ホラーな環境でも受け入れてくれる男性が、きっと何処かに居るはず!

 若しくは、私と同じく妖精さんが見える特殊体質の男性。

 目指せお嫁さん!

 そんでもって、女子力アップ!


 ☆ ☆ ☆


「と言う訳で、チョコを作ります!」


 私は自宅で、妖精さん達を集めて言いました。

 お掃除や他の妖精さん達は、首を傾げています。

 しかし、お料理の妖精さんは、やる気満々どころか、クルクルと踊り出しました。


「いや、別にあなた等にお願いするんじゃ無いよ」


 その言葉に、お料理の妖精さんは泣き出しました。

 四つん這いで、床を思いっきり叩きながら、号泣してます。

 いやいや、話しは最後まで聞こうよ。


「チョコ作り対決だよ!」


 私はビシっと、お料理の妖精さんを指さします。

 すると、お料理の妖精さんは、ちょこんっと顔を上げて私を見上げます。


「私とあなた達、どっちがよりプレゼントに相応しいチョコを作るか、勝負するの!」


 お料理の妖精さんは両腕を上げ、雄叫びを上げています。

 映画のボクサーみたいです。

 グゴゴゴって効果音が聞こえて来るようです。

 某映画のテーマ曲を、音楽の妖精さんが奏でて盛り上げてます。


 そんなお料理の妖精さんを、モグとペチがちっちゃい前足で、ちょいちょいと突いています。

 君達、そんなに派手なリアクションが面白いか?


「まだ話しは終ってないよ、諸君! 勝負の判定は、何とこの人!」

「私だ~!」


 ガチャリとドアを開けて、入って来る裕子ちゃん。

 大量の荷物を抱えています。

 そう。勝負の判定人は、食欲魔王こと裕子ちゃんです。


 突然の乱入と大声に驚いた、モグ、ペチ、ミィは、逃げ出しつつ、フ~って毛を逆立てています。

 驚かしちゃ駄目だよ、裕子ちゃん。

 しかし裕子ちゃんは、しょっちゅう私の自宅に出入りしているのに、まだモグ達に警戒されるとは不憫な子ですね。


 もう、気が付いてると思いますが、材料は裕子ちゃんが用意しました。

 今回は、私のお小遣いからの出費のはずです。

 だけど、裕子ちゃんが両手にいっぱいに抱えてる荷物を見ると、盛ったねきっと。

 私が渡した、たかだか三千円程度で、あんな量にならないし。


 そんなこんなで、チョコ作り対決の開始です。

 私が作るのは、トリュフチョコをアレンジした、妖精さん型チョコ。


 基本のガナッシュ作りは、刻んだ板チョコと生クリーム、それとラム酒を少々。

 滑らかになるまで混ぜ合わせてから、スプーンを使って小分けにします。

 冷やし固めてから、丸く成型。これがベースになります。


 成形したベースの塊を、溶かしたホワイトチョコに潜らせて、二層のチョコにします。

 もちろん冷やし固めてから、丸く成型。

 この時ついでに、手とか足等のパーツをホワイトチョコで作っちゃいます。一緒に冷やしちゃいましょう。


 ここまでの作業で注意するのは、チョコの大きさです。

 丸いチョコを小さいスプーンと大きいスプーンを使って、二種類の大きさを作るんです。

 わかります? 小さいのが頭で、大きいのが胴体になるんですよ。


 ここから登場するのは、必殺アイスピック!

 頭の部分に表情を作っていきます。

 口を掘って、目を作って、眉を作って、掘った屑で鼻を作る。

 口と目は深めに掘ると、ベースチョコの黒い部分が見えるので、それっぽくなります。


 それから、頭用の小さいのと、胴体用の大きいのをホワイトチョコで接着する様に重ねて、手足のパーツもくっつけてから冷やし固めます。

 じゃないと、崩れちゃいますから。

 固まったら微調整で多少削り、デコペンでほっぺを少し赤くして完成!


「へぇ~、あんた器用ね。雪だるま? 可愛いじゃない」

「雪だるまじゃ無くて、妖精さんだよ!」

「妖精って雪だるまなの?」

「違うよ、デフォルメしてるの! 私の腕では、これ以上の再現が出来ないんだよ」

「あっそ」


 あっそですって、聞きました奥さん。

 私の小一時間かけた努力の結晶を、あっそで終わらせたんですよ。

 酷い人です、裕子ちゃん。


 そして、私の足に纏わりつく、食欲旺盛なモグ。

 あげないよ。チョコ食べたらお腹壊すよ。

 ミャーって可愛い声出しても、あげないよ。

 飼育の妖精さんが、腕でバツを作ってるもん。

 そしてミィとペチは、風の妖精さんを枕に窓際で寝てます。

 君もあっちで寝てらっしゃい、モグ。


 さて、これで終わりじゃ無いのです。

 私は、よりプレゼントに相応しいチョコと告げたはず。

 ラッピングが超大切。


 ビニールの袋に詰めてから、リボンで口を縛る。

 そして箱にペーパークッションを敷き詰めて、妖精さんチョコを入れる。

 可愛い柄の包装紙で包んだ後、リボンで飾り付け。


 じゃ~ん!

 私だってやれば出来るんです。

 どうです? 私の女子力!

 フフフ。


 でもね、やっぱり私は甘すぎた様です。ミルクチョコの様に。

 そして現実は、何時も私に厳しいんです。ビターチョコの様に。

 某ボクシング映画のテーマをバックに、本気を出すお料理の妖精さん。


 圧巻のガトーショコラ。

 魅惑のフォンダンショコラ。

 誘惑のザッハトルテ。

 屋台名物チョコバナナ。


「って、バナナなんて何で買って来たの?」

「それは、私が食べたかったからじゃない」


 裕子ちゃんのせいで、若干お祭りっぽくなりましたが、結果は言わずもがな。

 そりゃあ、お料理の妖精さんが作ったチョコづくしに、私のちんまい手作りチョコが勝てるはず無いです。きっと裕子ちゃんは、可愛さとは無縁の世界に居るんだ。シクシク。


 でも、私の手作りチョコは、全ての妖精さんに人気が出ました。

 雪だるまと言われた妖精さん型チョコに、みんなが群がりだすと輪になって踊り始めます。

 そんなに気に入ってくれるなら、作ったかいが有るね。

 でもそのチョコを裕子ちゃんは、頭からボリボリ齧って一言。


「まあまあね」


 絶句した様に、口を開けて裕子ちゃんを見つめる妖精さん達。

 その後、シクシクと泣き始めました。

 う~ん、罪悪感。

 食べ物だしね、仕方ないんだよ。

 妖精さん達は暫くの間、私にしがみ付いて泣いてました。


 その間、裕子ちゃんはチョコづくしを食べ尽くし、満足気な顔をしてました。

 そう言えば、これって友チョコ?

 まぁ良いか。

 誰にも渡さないよりはね。


 実はその後に余った材料で、妖精さん型チョコを作り直しました。

 尚、お料理の妖精さんが手伝ってくれたおかげで、抜群の再現度。

 芸術品の域に達したチョコを作り上げました。展示してお金を取れるレベルです。

 暫くの間、妖精さん達と愛でてましたが、バレンタインデー当日、美味しく頂かれました、裕子ちゃんに。


 でも、寂しく無いバレンタインになった事には、感謝しなきゃいけませんね。

 裕子ちゃんと妖精さん達に。

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