第14話 肉の日記念、肉パーティー

 二月九日は、何の日ですか?

 福の日、服の日、風の日。

 他にも漫画の日、ふくの日。

 因みにふくとは、下関で言われるふぐの事みたいです。


 ふぐと言ったら裕子ちゃんが、乗り込んできそう?

 確かに去年は、高級ふぐセットのお取り寄せが自宅に届き、裕子ちゃんと一緒に、お料理の妖精さん謹製のふぐ鍋を頂きました。

 頬っぺたが落ちる美味しさ。

 美味しい物を食べると、人は静かになります。

 黙々と二人でふぐ鍋を食べました。

 思いだしても、涎が出そう。


 今年はふぐじゃ無くて、お肉が届きました。

 松坂牛のすき焼き用極上リブロース。

 裕子ちゃんは、なんて物を送り付けて来るんでしょう。


 それだけでは有りませんでした。

 A5飛騨牛のステーキ用ミスジ。

 後はホルモンやら、牛タンやらが続々と。

 裕子ちゃんは、どれだけ食べる気なんだろう。

 私もご相伴に預かるけど、私が食べる量なんてたかが知れてます。


 お肉が届くとお料理の妖精さんは、大喜びで跳ね回ります。

 とっても嬉しそうです。

 この間築地で買った昆布片手に、やったるぜ~みたいな顔つきで、鼻息を荒くしています。


 お料理の妖精さんは、割下作りやホルモンの下ごしらえを要領よく行います。

 料理の準備が着々と進む中、すき焼きをするなら、野菜が無いと駄目じゃ無い? そんな事を考えてたら、裕子ちゃんが野菜と豆腐を持って現れました。


「さぁ、食べるわよ~!」

「もう、食べる気? 準備は?」


 私がお料理の妖精さんを見やると、良い笑顔でサムズアップしてました。

 もう準備出来たの? それにこの子達もやる気満々か・・・

 肉だらけ、実に重そうです。


 最初はステーキ。

 フライパンで何故出来たのか、最高の焼き加減。とろけます。

 塩と胡椒が、肉の味を引き立てます。

 余計な味付けは要らない、肉本来の味を堪能せよとばかりに、肉汁が口一杯に広がります。

 牛肉ってこんなに美味しかったっけ?

 そう思わせる逸品です。


「流石A5は違うわね!」

「くぉ~! 美味しすぎる!」

「シンプルな味付けが、肉の味を引き立てているわね。流石私の見込んだシェフだわ」


 一品目から意味のわからない、裕子ちゃんのコメント。

 気持ちはわかります。それ位美味しいステーキでした。


 まだまだ、肉のアタックは続きます。

 続くのは、ホルモン。

 ネギと一緒に焼かれて、甘辛く醤油で味付けされたホルモンは、コリコリと歯ごたえが良く、濃厚な味つけが舌を喜ばせます。


「ヤバいわね、ホルモン。やるわね、ホルモン。ホルモン狂になりそうだわ」

「意味がわからないけど、美味しいのは確かだね」


 裕子ちゃんのコメントは、最早意味不明です。

 美味し過ぎる肉達のせいで、ハイになってます。 


 更に続く牛肉の攻撃。

 もう既に私は、ノックアウト寸前です。

 裕子ちゃんは、まだまだ戦う気ですね。流石食欲魔人。

 お料理の妖精さんは、代わる代わる次々と料理を作り上げていきます。


「もっと、もっと、かかっておいで」

「うゎ~! もう充分じゃない?」

「馬鹿じゃないの! 肉パーティーはこれからよ!」


 満を持して、牛タンの登場です。

 シンプルに焼かれた牛タン。やはり食感が最高ですね。

 だけど、今回はそれに留まりません。

 牛テールスープと茹でタンのコラボアタック。

 箸でほぐれるトロトロの食感は、焼いた牛タンとはまた別の味わい深さが有ります。

 牛テールのホロホロ感もたまりません。

 スープはくどさが無く、ガツンと濃厚な味わいが舌を刺激します。


「おいすぅい~! ヒャッハー!」

「いや、もう駄目な感じがするよ、裕子ちゃん!」


 もう、私のHPは残り僅か。

 牛肉の攻撃に耐えられそうも有りません。

 裕子ちゃんもそろそろヤバそう。顔がとろけてます。


 最後はすき焼きです。

 すき焼き鍋に牛脂を馴染ませると、お料理の妖精さんは徐に牛肉を焼き始めました。

 味付けは特製割下。

 最初に肉を食べた後、鍋に残った肉のエキスを吸わせる様に、豆腐や野菜を投入し出汁で煮込む。

 豆腐と野菜を食べ終わると、再び肉を鍋で焼く。

 肉と野菜達の波状攻撃に私のHPは尽きました。


旨死うまし・・・」

「同じく・・・」


 私は既にギブアップ!

 しかし、裕子ちゃんはシメのおじやも軽く平らげ、満足気な笑みを浮かべています。

 あれは、戦い終えた戦士の表情です。

 恐るべし、裕子ちゃん!

 恐るべし、肉の軍団!

 恐るべし、お料理の妖精さん!


 最高の食材と最高の料理人。いやまぁ、作ったのは妖精さんですが。

 このコンビで、人は沈んでいきます。食の水底へ。

 私は暫く浮き上がれません。


 意識を取り戻すのに数時間を要した私が見た物は、壮絶な戦いの後でした。

 裕子ちゃんは、尚も食べ続けたそうです。

 確かに裕子ちゃんが送って来たのは、牛肉だけでは無かった。

 地鶏や黒豚、馬刺し等。

 妖精さん謹製の肉料理を余す事無く堪能し、裕子ちゃんは去って行きました。


 裕子ちゃんは、食欲魔人じゃ足りない、食欲魔王と名付けよう。

 私は強く感じました。本気を出して食べまくる裕子ちゃんは、何物をも凌駕する。


 美味しい物を食べられて幸せなんですが、食事は戦いではありません。

 もう少しじっくりと味わいたいものです。

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