第7話 お仕事の妖精さん

 私は週に一度位のペースで、アルバイトをしています。

 お金に困ってるとか、欲しい物が有るって訳では無いんです。

 私の目標は、目指せ出来る女! そして幸せな結婚ですから。

 今の内に、職場体験っぽい事をしても良いかな位に、考えたわけですよハハハ。


 因みにお勉強の妖精さんにスパルタされて合格した国家試験は、宅地建物取引主任者、行政書士、税理士の三つです。

 難易度高いのが混じって無いかって?

 そうですよ。苦労したんです。


 税理士試験は、会計学二科目と、法人税法、消費税法、所得税法の税法三科目に挑戦しました。

 それを全て一発合格って凄くないですか? 

 まぁ本当に凄いのは、出来の悪い私を指導してくれた、お勉強の妖精さんなんですけどね。


 せっかく超難関試験をクリアしたんだから、やってみよう職場体験!

 そして運良く応募していた、自宅近くの税理士事務所で面接、即採用。

 順風満帆じゃないですか。とうとう私の時代が来たか! 


 はい、調子に乗るのはここまでです。

 知ってます。人生そんな甘くないって。

 でも良いじゃないですか、夢くらい見たって。


 税理士ってなんかカッコイイねとか、収入良さげだねとか、私だってその位は考えますよ。

「御社はここを注意した方が良いですよ」なんて、さらっと言っちゃたりして。

 これぞ出来る女!

 でも、実際には地味でした。


 ファイリング等の雑用から始まり、先輩職員の補助。

 空いた時間にパソコンへ向かって伝票入力。


「先輩職員が合格出来て無い税理士試験を、五科目私は合格してるんだぞ! もっと内容の濃い仕事よカモーン!」


 愚痴を言っても仕方ありません。

 仕事未経験の人間、それに週一のアルバイトに任せる仕事なんて、たかが知れてます。

 なので黙々と言われた事をこなしつつ、先輩職員の仕事ぶりを拝見させてもらいます。


 税理士事務所のお仕事は、ざっくり言うと申告のお手伝いと税務相談です。

 申告するには申告書を作らなければいけません。

 その為に、企業が一年間どの様な経営を行ってきたかを、まとめる必要が有るんです。

 それが年度決算、四半期決算、月次決算と言われる物です。


 企業によっては、税理士事務所へ全て丸投げする所もあれば、全て自社で決算を行い、申告書のチェックだけお願いする企業も有り、依頼形態は様々です。

 ですが、申告のお手伝いという所に変わりは有りません。


 多分誰でも慣れれば、基礎的な簿記の知識で、決算に関連した作業は出来るでしょう。

 大切なのは、正確である事。

 その為に、税務のスペシャリストで有る、税理士が居るのです。


 当然ながら、税計算は法律に基づいて計算が行われます。

 会計処理も会計基準と呼ばれる物が存在します。

 税法を逸脱した処理を行えば、税務調査が入った時に追徴課税をされるでしょう。

 しかも、税理士事務所が確認した申告にミスが有ったら、目も当てられません。

 実にシビアな仕事です。


 アルバイトを始めて気が付いたのは、仕事って楽じゃないって事です。

 知識だけでは分からない。実際に体験して始めて気が付いたシビアな現実。

 内容の濃い仕事カモーンと調子に乗っていた私を、叱りつけたい気分になります。


 私は自分を要領が良いタイプと思った事は、一度も有りません。

 頭の回転も良くないです。

 そんな私が、国立大学に通い、税理士試験に合格したのは、偏にお勉強の妖精さんのおかげ。

 そしてここでも、登場しました。

 じゃん! お仕事の妖精さん。


「この資料、あのファイルに入れといて」


 先輩職員のぶっきら棒な指示に、えっ! どのファイル? とまごつく私に、お仕事の妖精さんは、ひらひらと飛んで、ファイルの所の場所を教えてくれます。

 パソコンに入力していると、この仕訳間違ってるよと、優しく教えてくれます。

 他にも仕事の段取りやら何やら、色々と教えてくれます。

 社会経験の無い私にとって、とても有難い存在です。


 お仕事の妖精さんって位だから、仕事を代わりにしてくれないのかって?

 甘々ですね。お砂糖盛り沢山です。


 この妖精さん、リアルに干渉する力は持ってません。

 試しにパソコン入力をして貰った事が有るんですが、記録には残りませんでした。

 正確には、お仕事の妖精さんってより、仕事を教えてくれる妖精さんって気がします。


 そんなお仕事の妖精さんは、アルバイトに向かう私に必ず着いて来てくれます。


「今日もよろしくね」


 お仕事の妖精さんを撫でると、笑顔でかっこよくポーズを決めてくれます。

 その笑顔だけで、やる気がムクムク湧いてきます。


 仕事に慣れ始めた頃、ある先輩職員に言われました。


「君、凄いね。仕事は早いし正確だし。流石その年で税理試験に合格しただけ有るね」

「いや、まだまだ勉強させて頂いてます、ハハハ」


 褒められたのは嬉しいけど、言えない。

 全部妖精さんアドバイスですとは。


 税理士の先生からは、勧誘されました。


「君、大学卒業したら、うち来ない?」

「け、検討させて頂きます」


 先生に答えた時の私は、引き攣った笑顔だったと思います。

 だって税理士になって開業しても、私が新規顧客開拓を出来る筈が無いでしょ。

 そんな事を裕子ちゃんに相談したら、あっさりと流されました。


「あんた、ノリだけで生きてるよね。もう少し深く将来の事を考えなよ」

「美味しい物を食べる為に生きている様な、裕子ちゃんに言われたくないよ」

「馬鹿ね。私は美味しい物食べる為に、お金を稼ぐのよ。目的がはっきりしてるでしょ。あんたは、お嫁さんとかフワフワした事考えて無いで、具体的にどうするのか考えた方が良いのよ」

「やってるじゃない。国家試験も受かったし、バイトもしてるし」

「でも、税理士になるつもりは無いんでしょ?」


 私は返す言葉が有りませんでした。

 くそぅと思っている私に、お仕事の妖精さんが頬擦りしてくれます。


 そう。私にはこの子が居るんだ。

 どんな仕事も、この子が居ればへっちゃらよ!


「これからも、相談に乗ってね」


 私がお仕事の妖精さんを撫でると、キラキラ笑顔でサムズアップしてくれました。


「仕事が出来ても、結婚は出来ないんだからね」


 裕子ちゃんに止めを刺されて、私は崩れ落ちます。

 何処かに恋愛の妖精さんは居ないでしょうか? 

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