第8話 予防医療の妖精さん

 私の知る妖精さんは、不可思議な力を使う子と、そうで無い子に分かれます。


 お料理やお掃除の妖精さんは、物理的な力でお料理やお掃除をします。

 お勉強やお仕事の妖精さんは、知識を教えてくれる存在です。

 妖精と言う存在自体がファンタジーな癖に、謎の力は使いません。

 ファンタジーなのは、その知識は何処からって所や、小さい体で大きな物を持ち上げる所です。


 逆に自然にまつわる、四大元素や雪、氷の妖精さんは、ファンタジー要素たっぷりです。

 まぁ自然なんて物を操る位ですから、謎パワーですよね。


 謎パワーを使う妖精さんは、自然にまつわる妖精さんだけでは有りません。

 私はその子を予防医療の妖精さんと呼んでいます。


 予防医療の妖精さんは、別段治療をしてくれる訳では有りません。

 では何をしてくれるのか?

 人の目に見えないウィルスや菌、特に人に有害な雑菌等を、好んで食べている様です。


 曖昧な言い方? 勘弁して下さい。

 謎パワーを使う妖精さんの実態が、私に解る筈無いんです。


「そう言えば最近、風邪ひかない様になったな」


 ふと、そう思った時の事でした。

 私の周りをフワフワ飛んでいる、見知らぬ妖精さんに気が付きました。

 その子は、口をモグモグとさせて飛んでいます。


「あなた、何してるの? 何か食べてるの?」


 私がその子に尋ねると、風邪のウィルスを食べていると教えてくれました。


「美味しいの?」


 もう一度尋ねると、とても良い笑顔で頷きました。

 どうやら、私が風邪を引きにくくなったのは、私の周囲に飛んでいる風邪ウィルスを、この子が食べつくしたかららしいです。


 この子曰く、風邪よりもインフルエンザウィルスの方が美味しいとか。

 私にとっては、どうでも良い情報ですけど。


 気になった私は伝手を頼り、細菌を研究している研究室で、少々実験をしました。

 おっと、今へんな事考えませんでした? 

 失礼ですね! 私の友達は裕子ちゃんだけじゃ無いですよ。


 ゴホン。話しが逸れました。

 行ったのは、単純な実験です。

 アオカビを培養させたシャーレをこの子に見せたら、興味を引くのか?

 そして実験には、立ち会いが付きました。

 実験に立ち会ったのは、研究室を紹介してくれた私の友人と、一人の教授。


 面倒事にならなきゃ良いけど。

 そう思う私とは裏腹に、この子は凄い勢いでシャーレ内のカビを、食べつくしました。


 みるみるとシャーレから消えていくカビを見て、見ていた友人と教授が唖然としてました。

 私も青くなりました。

 直ぐに逃げました、当然です。

 医療大革命が起きる可能性が有るんですよ。

 五分と立たず捕まりましたけどね。ぐすん。


「何が起きたのか説明したまえ!」


 教授は興奮しています。友人も目を爛々と輝かせてます。

 私は後悔しました。

 実験するなら、家でこっそりすれば良かった。

 時すでに遅く、私は後ろ手に拘束されてます。

 何もここ迄しなくても・・・


「絶対に秘密でお願いします。そもそも信じないと思いますよ」


 そして、私は妖精さんの事を説明しました。

 一笑に付されました。


「本当の事なんです!」


 私は強く主張しますが、今度は激しい怒りが待ってました。

 良く顔を真っ赤にとか、筋を浮かべて等と言いますが、あの怒りの形相は赤鬼も真っ青ですね。


 興奮が収まらない教授を宥める為、実験が続けられます。

 まぁ、数時間で教授の興味は覚めたようです。

 恐らく妖精さんという、見えない生命体の力に、利用価値は無いと考えたのでしょう。


 この子は人体に有害なカビ菌は食べますが、アオカビや酵母等の菌は食べませんでした。

 それと空中に浮遊しているウィルスは食べますが、一度体内に入ったウィルスは食べませんでした。


 なんと言うか、風邪等の病気を予防できるが、症状が発生したら取り除いてはくれない。


 教授の興味も無くなるのは、仕方ないですね。

 友人にも冷たい視線を浴びせられました。


「期待させやがって、けっ!」


 なんと言う酷い罵声! 私が悪いんじゃ無いのに・・・


 多分ですけど、この子の食べるか否かは、食べ易さでは無いかと思います。

 空中に浮遊しているウィルスは食べるけど、わざわざ人体の中に入ってまで食べたくない。

 食品表面についたアオカビはほじって食べるけど、発酵食品の中にいる発酵菌を食べるのは面倒。


「当たりでしょ?」


 私が尋ねると、この子はクルリと回って、良い笑顔で頷きました。

 それだけじゃ無くて、人体に無害な菌は美味しくないけど、有害な菌はこの子にとって美味だそうです。


 微妙に役立たず? 

 妖精さんは、常に自分が楽しいと思う事に、精一杯なんです。

 だから嫌な事や面倒な事は、極力避けます。


「そうだ! あなたの名前は、予防医療の妖精さんね!」


 せっかくだから、かっこいい名前をプレゼントしてあげます。

 私の周りを飛び回るので、喜んでくれたのだと思います。


 そして予防医療の妖精さんは、今日も私の周りをフワフワと飛んでいます。

 口をモグモグと動かしながら。

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