第6話 氷の妖精さん
今年も私は正月に帰省しました。
千歳空港を出て、一番最初にお迎えしてくれたのは、雪の妖精さんでした。
東京では滅多に会う事が出来ない、雪の妖精さんとの再会に、私の口元は思わず綻びます。
「久しぶりね。元気にしてた」
声をかけると、雪の妖精さんは嬉しそうに、私の周りをクルクルと飛び回ります。
優しく撫でると、雪の妖精さんは嬉しそうに破顔します。
「その笑顔、プライスレス!」
まあ、叫びたくもなりますよ。
この可愛い笑顔を見せてあげたい位です。
私の実家が有る街は太平洋岸に面し、日本海や内陸部と比べ積雪量は少なめです。
その代わりに氷都と呼ばれ、スケートが盛んです。
二月初旬に行われる祭りで提供される、しばれ焼きは絶品です。
絶対お勧めします。是非一度食べてみて下さい。
しばれ焼きとは、冬の寒い屋外でドラム缶を利用して作る、ジンギスカン料理です。
痛い程に肌を突き刺す寒さの屋外で食べるジンギスカンは、身も心も温めてくれます。
羊の肉が嫌いって人でも、その美味しさに頬を緩めるでしょう。
冬期限定なので、知られざる故郷のB級グルメ。
どのB級グルメにも引けを取らない、名物料理です。
さて、今回の帰省で新たにお友達が増えました。
雪の妖精さんと、とっても仲良しの妖精さん。
氷の妖精さんです。
なんて事も無い妖精さんだとお思いでしょう。
まぁ凍らせる事が生きがいの妖精さんですし、その通りかもしれませんけど。
氷の妖精さんの特筆すべき所は、なんと言ってもその体です。
クリスタルの様な体はとても美しく、光が当たるとキラキラと輝きます。
芸術品の様な妖精さんです。
氷の妖精さんを始めて見た時は、寒さも忘れて暫く見入ってしまいました。
じっと見てる私の顔を、氷の妖精さんが覗き込んだ時に、我に返りました。
私が撫でると、氷の妖精さんは嬉しそうにゆらゆらと揺れます。
氷の妖精さんは、とても冷たいけれどスベスベでした。
当然二人の妖精さんと遊びました。
内地と違い実家の辺りでは、極太のつららが出来ます。
子供の腕より太いつららは、自重に耐えきれず偶に降ってきます。
なので軒下に居ると意外と危険なのです。
落ちているつららを使って、氷の妖精さんがミニサイズの氷像を作ってくれました。
氷の妖精さんは、芸術的感性が高い様です。
色々な動物の氷像が次々と並べられて行きます。
負けじと、雪の妖精さんが雪像を量産して行きます。
実家近くの公園は、ミニ雪まつり会場になりました。
私もちゃんと作りました。
私ではせいぜい雪ウサギが精一杯で、しょげていると氷の妖精さんが慰めてくれました。
可愛いですねこの子。連れて帰りたい!
妖精さん達と遊びまくった翌朝、もう一度公園に行くと人だかりが出来ていました。
そりゃそうだ。いきなり近所の公園がミニ雪まつり会場になっていればね。
近所の人達が、驚きと歓声を上げます。
子供達はホッケーもせずに、キャーキャーと奇声を上げてました。
案外私の雪ウサギも子供達に人気があったみたいです。
私が作った物が、可愛い~って言われれば、嬉しくなりますね。
ちゃんとスマホで写真を撮ったので、裕子ちゃん達に見せびらかせてあげよう。
「あなた達が作ったのが、大人気みたいだよ」
私が声をかけると、妖精さん達がはしゃぎ始めます。
大雪になっても困るので、少し宥めて別の広場に行きます。
私は妖精さん達と、氷像や雪像を作って遊びます。
実は帰省中に三か所の公園を、ミニ雪まつり会場にしました。
「相変わらずせわしない子だべ。正月くらい家でゆっくりすれば良いっしょ」
母に小言を言われましたけど、仕方ないです。
妖精さん達と遊んでいるのは、とっても楽しいんですから。
お子様だって? 余計なお世話ですよ!
東京に戻った後で知ったんですが、私と妖精さん達がやらかした出来事が、地元ニュースに取り上げられたみたいです。
「あんたっしょ!」
「幸子ちゃん、なした?」
「はんかくさ、ニュースっしょ。したっけあんなん作んのは、あんたしか居ないしょ」
高校の友人から電話がかかって来た時は、驚きました。
ミニ雪まつり会場にした三か所の公園は連日大賑わいで、屋台も出たとか。
幸子ちゃん、TV局に私の事をリークしないでね。お願いだよ!
そんなこんなで忙しなく過ぎた私の帰省。
自宅のドアを開けると、沢山の妖精さん達がお出迎えしてくれました。
わぁ~と一斉に私に群がって来る妖精さん達を見ると、家に帰って来たという安心感が溢れて来ます。
「ただいま」
その一言だけで、喜んでくれる妖精さん達。
私は幸せ者です。
ただ、一つ予想外だったのが着いて来てしまった事です。
何がって、氷の妖精さんがですよ。
びっくりしましたよ。実際事件が起こりました。
うっかり火の妖精さんが近寄って、氷の妖精さんが溶けかけたんです。
私は氷の妖精さんを慌てて冷凍庫に放り込みました。
現在氷の妖精さんは、自宅の冷凍庫で暮らしています。
こっそり冷凍庫を開けると、氷の妖精さんはダンスをしています。
相変わらず、クリスタルの様な美しい体をキラキラさせています。
その様子を眺める事が、私の楽しみの一つになりました。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます