第2話 お掃除の妖精さん
東京に上京してから、私は家事をまともにしていません。
何故なら、妖精さん達がやってくれるからです。
妖精さん達は、楽しい事が大好き。
でも年中遊んで暮らしている訳では無く、とても勤勉なのです。
妖精さん達にはそれぞれ持っている役割の様な物が有り、日々頑張ってこなしています。
そして、それぞれ持って居る役割を果たしている時が、妖精さん達にとって一番の至福の時間の様です。
中でも特に勤勉なのは、お掃除の妖精さん。
私の暮らしているワンルームのアパートには、お掃除の妖精さんが三人暮らしています。
お掃除の妖精さんは、昼夜を問わずお部屋をピカピカにしてくれるのです。
正直助かります。
だって、私が寝ている間に部屋はピカピカに、ゴミを出し忘れても妖精さんが捨ててくれる。
シャワーを浴びて浴室を出た瞬間に掃除が始まり、湯垢が綺麗に無くなっている。
私は、一人暮らしを始めて棚に埃が積もったのを見た事が有りません。
掃除機は、両親が買ってくれましたが使ってません。
楽です。助かります。一家に一台、いや一家に一人、お掃除の妖精さんが居れば、どんなずぼらな家庭でも、お家がピカピカになると思います。
でも私は、このまま妖精さんに任せて、家事の出来ない女になって良いのでしょうか?
いや、良くない!
ある休日の朝、私は決心してお掃除の妖精さんに言いました。
「私が掃除するよ。妖精さん達はたまには休んでて」
お掃除の妖精さん達は、つぶらな瞳に涙をいっぱいに浮かべて、私を見つめます。
うわっ。泣きそうになってる。何故だろう、この凄い罪悪感。
取らないよ。あなた達の役割を取ったりしないからね。
「あのね、私が将来掃除が出来ない女になったら困るでしょ? だから私も掃除するよ」
お掃除の妖精さん達は、首を傾げます。
そして、三人が円陣を組み、何やら話を始めました。
やがて、話し合いが終わった様で、代表の一人が前に出ると、とても良い笑顔でサムズアップし、掃除を始めました。
うん? 何やら、伝わってない気がする!
私はもう一度、問い返します。
「たまには私も掃除するけど、良いよね?」
妖精さん達は、可愛い手を胸の前で交差しバツを作ります。
「いや、何でよ。あなた達の役割を取ったりしないよ」
妖精さんは首を傾げてから、ジェスチャーを交え口をパクパク動かしました。
はい。伝わりました。何故だかはっきり理解しました。
この子達は、私がお嫁に行っても着いて行くから、掃除は自分達に任せろと言ってたのです。
あぁなんて安心感。これで一生掃除から解放されるのかしら。
もういっその事、妖精さん達にお任せして、いやいや、それでは家事出来ない女まっしぐらです。
彼氏が出来た時には、部屋を掃除してあげたりなんて、ウフフ。
そう、挫けてはいけない。私は、心の中で呟きました。目指せ出来る女!
下心? 良いじゃない! どうせ恋って漢字には下に心が入っているんだから。
「あなた達の言い分はわかった。なら、掃除の仕方を教えて下さい」
私は、掃除の妖精さん達に土下座を敢行しました。
妖精さん達は、私の頭をポンポンと叩きます。
「わかってくれたの?」
私が頭を上げ妖精さん達を見ると、妖精さん達は三人で仲良くサムズアップをしました。
私は思わずガッツポーズをしました。これで出来る女に一歩近づく!
しかしこれが後で後悔になるとは、この時は思いませんでした。
妖精さん達のお掃除は、決して謎パワーで行っているのでは有りません。
出るは出るは、良くわからない豆知識。
流石妖精さんだけあって、掃除方法はエコ満載でした。
そりゃあ私だって、埃は棚の上から落として、最後に床を掃除する位は知ってますよ。
でも妖精さん達は、徹底してました。
窓や桟の吹き方、埃の落とし方、床の吹き方、浴槽の洗い方、便器の掃除、何から何まで手を抜く事は有りません。
食器棚やら何やらを色々動かして、端から私は汗だくになりました。
そしてはたきを使い、粗方埃を落とした後は、吹き上げです。
以前お掃除の妖精さん達にせがまれて買わされた、重曹を使って洗浄液を作ります。
先ずは届かない天井を台を使って磨きます。妖精さん達は飛べるけど、私は飛べないからね。
棚を退かして壁、棚の上から棚の中、窓や桟、勿論エアコンも、部屋中隅々まで丁寧に磨きあげて行きます。
換気扇は小麦粉を振りかけてから暫く放置し、お湯で流します。
お風呂場の湯垢は、これまたせがまれて買わされたクエン酸で洗浄液を作り、磨き上げます。とにかく、石鹸カス等が一切残らない様に、徹底的に磨き上げるのです。
勿論トイレも便器もピカピカに磨き上げました。
大掃除か! と言いたくなる程の徹底ぶりに、私はへとへとになりながら思わず呟きました。
「これだけの事を小さい体で良く毎日やってたわね」
掃除はこれだけでは、終わりません。床のワックス掛けが待っています。
「こんなの何時作ってるの?」
私が妖精さん達に聞いたのは、妖精さん特製ワックスでした。
何でも、柑橘類を煮詰めた液だそうで、これを使い徹底的に床を磨き上げます。
床のワックス掛けが終わり、棚やらを元に戻しもう一度床の埃を取って終了。
確かにね。私はまだ二十歳だし、体力は有るつもりです。
「したって、朝から始めてもう真っ暗じゃないしょや~!」
お掃除の妖精さん達に取って、掃除は楽しい事なのです。生きがいみたいな物です。
私が手を抜こうとすれば、涙目で訴えてきますし、疲れて休もうとすれば、もっと遊ぼうと言わんばかりに、私の周りを飛び回ります。
今日は私と一緒に掃除が出来た事が凄く嬉しかった様で、何時もより元気に私の周りをクルクルと飛び回っていました。
ごめんね、お掃除の妖精さん達。あなた達と一緒に掃除をするのは、年末に一度で充分だわ。
私は心の中でそう呟き、日々の掃除を妖精さん達に任せる事に決めました。
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