20XX年から始まるコスモ貴族主義社会

最近、自動運転というモノが実用化されつつあるらしい。

東京オリンピック・パラリンピックの選手村からの移動手段としても自動運転車が使われていて進化を感じる。

そういった映像を見て、


「便利な世の中になったね」


みたいな話を聞くけど、これによって社会で起こることは『便利』を通り過ぎて『ドライバー・運転手という職の消滅』だと思う。

この日本にドライバーが何人いるのかは知らないが、最終的には百万人単位で失業者が増えることは想像出来てしまう。

ドライバーを支える仕事も含めるならもっとかもしれない。


では、そうなった時に失業したドライバーが転職する職業はなんなのか?

それはもしかすると『存在しない』可能性がある。

自動運転技術の本質はAI技術であり、AIは自動運転だけのための技術ではない。

最近では無人レジとか無人レストランとか、患者の診断をAIがやるとか弁護士がやる判例のチェックをAIがやるとか、そういった活用法が実用化されているが、それが近い将来あらゆる分野でAIによる自動化が進み、多くの仕事がAIに置き換わる。

恐らくそこにロボティクス、つまりロボット技術が合わさって物理的に人間と近いモノが出来てくると本格的に人間の仕事はなくなっていくだろう。


それがどういう社会かというと、

企業は機械化によって生産性が向上し、人件費を大幅に削減出来て業績が上がる。が、多くの人々が職を失う。

そもそも人を雇用する必要がなくなっているので既存の様々な経済対策や失業対策などが通用しなくなる可能性がある。

要するにこれは、有史以来続いてきたはずの『人が労働によって得た成果を使い生きる』という当たり前が崩壊する、ということが起こる可能性があるのではないかと。


この出来事がもたらす事象がどんなモノなのか。

一言で言うと、『全ての常識が根本からひっくり返る』かもしれない、ということだと思う。


◆◆◆


恐らくここまで書いてきた未来は近い内に実現してしまう。

最低でも恐らく一時的には実現しそう。


一気に変わるのではなく、少しずつ機械化によって生産性が向上し、逆に人の労働が必要なくなっていき、人の労働の価値が落ち、賃金が下がっていく。

もしかすると、ここまでに関しては低賃金労働者より士業のような高賃金労働者の方がコストが高い分だけ影響が大きいかもしれない。

そして賃金がこれ以上は下げられないラインに到達し、AIの方が安くなった段階で労働者のクビを切って完全に機械化する流れになるだろう。

そうなると、どんどん失業率が上がっていくことになる。

しかし企業業績は上がっていく。経営者や株主は大きな利益を得ていく。

これは日本だけでなく世界中の先進国で起こっていく。

というか既に起こり始めていると思う。

例えば某大手ネットショッピングサイトの倉庫から人が消えてパッキング作業が自動化されてる的な話も既に聞く。


問題はその先。

各国政府、そして偉い学者達が何らかのまったく新しい解決策を見出だせない場合、とんでもない状況になっていくのでは?という感じがしている。


単純に考えて、失業率が上がっていくとそれに対応した政策を国は打たなくてはならなくなる。

しかしこれまでの社会の仕組みを維持したままでは打てる政策がない可能性がある。

なんせ多くの人々の労働自体が必要なくなっている社会なのだから、そもそも経済とか金融の常識が書き換わるわけで、根本的な社会制度や、もしかすると国家観や民主主義や資本主義の形から見直す必要があるかもしれない。


向かっていく先は大分すると2つ。

ここはあえてフィクションとしてSFを使って語ってみたいと思うのだけど。個人的には『デモリションマン』的な世界観に進むか『ソイレント・グリーン』的な世界観に進むかだと予想している。

デモリションマンとは、シルベスター・スタローン主演のSF映画。

事件解決のためには手段を選ばない刑事がやりすぎて大被害を出してしまい、捕まえた凶悪犯罪者と一緒に冷凍刑にされてしまう。そして未来に解凍されるのだけど、その未来はAIに人の全てを管理され、暴力や犯罪がなくなったクリーンな世界になっていたという話。

全てが管理され、人も必要な数だけ試験管の中で作られるような完全管理社会。

握手もなければ性交渉もない。人と触れ合うことが汚いと思われるようになった世界観の話。

ソイレント・グリーンとは、こちらも近未来を描いたディストピア作品。

世界は人口爆発で資源がなくなり超格差社会になっていて、ほとんどの人々は職がなくなり、ソイレント社がプランクトンから作るという人工食品の配給で生きているだけだった。

そんな中、主人公の刑事が、死んだ人間がソイレント社の工場に運ばれていると突き止め、その工場に潜入すると……という話。

こちらは資本主義社会の末路みたいな社会かもしれない。


要するに、人々を管理して問題が起こらないよう監視する超管理社会にするか。資本主義社会が進行しすぎて超格差社会になり、一部の超富裕層と、死なない程度の配給だけ貰って生きる大多数の一般人が共存する超分断格差社会になるかだ。


まぁ、それ以外の一番無難なシナリオでは、

かつて工業化が進んだ時に「機械に職を奪われる!」と恐れた人がいたけど結局は新たな産業・仕事が作られて全体では雇用は増えたみたいな、そういう現象がAI化でも起こり、AI化で減った分を新しい仕事が生まれて埋める可能性もある。

例えば、メタバースの世界は可能性があると思う。

メタバースとはVR空間上に出来上がった第2の世界のこと。

仮想現実の世界に新しい生き方を模索する考え方。

つまり仮想空間の中に『仮想』の仕事を作るという仕組みだ。

1つの例だけど、SAOの世界のようなVRMMORPGの世界で全てのアイテムとゲーム内通貨がブロックチェーンによってゲーム外に持ち出せるようになって、売買、もしくは交換が出来るようになったら?

これまでのプロゲーマーという存在はそのゲームの中の超一流がその『ゲームという競技』を披露して人を集め、そこにスポンサーの広告を出すことでスポンサーからの収入を得ていくモノだったけど、上記のようなシステムが構築されると労働者的なプロゲーマーが誕生するはず。

例えば、MMORPGの中では定番アイテムになっているポーション類の製造販売を手掛けるゲーム内製造業が生まれたり、それらの原料を入手する採取業や素材モンスター討伐業(冒険者)とか、輸送する運送業が生まれたり。またはそれらを強奪する山賊(という仕事)も許容されるかもしれない。

盗賊が生まれるなら、それから人を守る護衛業が生まれるかもしれないし。それが大規模に組織的になってくると、それが『国』と呼ばれるようになるかもしれない。

古今東西、国という組織が生まれた理由は大体そんな流れではないかと思うので、そういった可能性も普通にありえる。

というか、VRではないけど、既にそれに近いモノを構築しているゲームとかはある。

例えばアクシーインフィニティとかはベトナムでそういったプロゲーマーではない職業ゲーマーを生み出しているという話を聞く。


◆◆◆


で、ここからようやく20XX年からのコスモ貴族主義の話になるのだけど。

少し前、某サイトで『閃光のハサウェイから10年で貴族が生まれるのはおかしい』という話が出たんですよ。

しかし個人的には、そういうこともあるんじゃないか? ……というか、現実世界でもありそうだな、と思ったわけです。


順を追って書いていこう。

閃光のハサウェイは最近公開された映画でファーストガンダムと同じ世界線の作品。

このガンダム世界の歴史を最初から説明すると、

ファーストガンダムの前段階(作品としてはガンダムORIGINの時代)で、地球連邦の圧政に苦しむ宇宙移民が蜂起しジオン公国を建国。地球連邦軍を相手に独立戦争を仕掛ける。

ファーストガンダムではジオン公国に押し込まれて敗退寸前の地球連邦軍が秘密兵器ガンダムと、偶然そのパイロットになった少年アムロ・レイを中心にジオン公国を倒す。

そして続編のZでは一年戦争で勝った地球連邦に敵がいなくなり、内部が腐敗し、宇宙移民を排泄、差別するグループが生まれ、差別するグループと差別しないグループでの戦争になり。

ZZではジオンの残党がまた戦争を仕掛けるも最終的には地球連邦が勝ち。

逆襲のシャアではアムロの宿敵シャア・アズナブルがネオ・ジオンを率いて地球連邦に最後の戦いを仕掛け、アムロと共に散り、地球連邦軍が勝利する。

その戦いの中でアムロの彼女、もしくは自身が好きだった女性(作品によって展開が違う)を殺してしまい精神を病んだのがハサウェイ・ノア。閃光のハサウェイの主人公だ。

閃光のハサウェイは、ファーストガンダムのシリーズの中で地球連邦は幾度もピンチを迎えながらも最終的には勝利し続け、勝利で敵がいなくなることで内部が腐敗し続け、最後にアムロやシャアが命を賭して願い、アムロが信じようとした人間や、シャアが作ろうとした新しい時代が訪れていない世界を見たハサウェイが『テロを使ってでも地球連邦を潰して変えるしかない』と考えた。そういう話だと理解している。

で、映画版閃光のハサウェイの続編はまだ公開されていないが(小説版では完結済み)その後の話は別の作品として出ている。

それがガンダムF91。閃光のハサウェイの10年後の世界。

(正確に言うとF91は閃ハサから18年後だけど、コスモ貴族の概念はそれぐらいからあったはず)

この作品は、これまで上で語ってきたように、絶対民主主義を掲げる地球連邦政府の腐敗が(逆シャアとか閃ハサの事件があっても)どうしても止まらず、それを見た一部のお金持ちが『高い能力と高貴な精神を持つエリートが貴族として人類を導いていくしかない』という『コスモ貴族主義』を唱え、コスモ・バビロニアという国を作り、能力によって人を分ける階級社会を作ろうとした。が、やっぱりガンダムに倒されて地球連邦が勝利、というお話になる。


で、長くなってしまったけど、このガンダム世界の話を長々と語ってなにが言いたいのかというと、『わりとこの流れが来てるかもしれない』という話なんですよね。

つまり、簡単に言うと、今の世界の社会制度とか政治とか国そのものなどが上手くいかない状態になってきた時、F91の世界のように、次は貴族制度が復活するのではないか、という話。

これは勿論、昔の時代の貴族の制度がそのまま復活すると言っているのではなく、エリート、富裕層、資本家が実質的に貴族化するのでは?という感じと思ってほしいところ。

と、書くとバカバカしい空想に感じるかもしれないけど、僕は『意外とあるかも』と最近は思うことが多くなった。

というか、現時点でも既にビッグテックはそこらの国より規模も予算も大きく、それらの企業家も中世貴族より確実にお金を持っている。最初に書いてきたように、これからAIによって生産性が上がり続け、もっと少人数で大企業を運営出来るようになったとしたら、それはもう貴族と同じなのではないか?と思うのだ。

彼らは世界中の富と情報を握ることになる。

つまりそれは、方向的にはソイレント・グリーン的な社会なのではないかと。

能力主義というか優生思想に近いのかもしれない。


◆◆◆


最近、一部のメディアとかでやんわりと現状の資本主義とか民主主義を批判(もしくは否定)するような有識者がちらほら出始めているのも、そう感じる理由。

一昔前ならそういった主張は共産主義や社会主義と共に語られていたから半分タブーみたいな扱いだったけど、今はそういったモノとは離れた場所からも出てくるようになっている。

例えばリバタリアンとか。

リバタリアンの思想リバタリアニズムとは、日本語にすると『完全自由主義』というらしい。

要するに『政府とか規制とか必要ないわ!全部自由にやらせろや!』という思想。

あのピーター・ティールなんかは南国に人工島を作って実質的に新しい完全自由主義的な国を作ろうとしているという話だ。


最近、いくつかのメディアなんかで語られる言論人の話を聞いていて思うのだけど、上記の『現状の資本主義とか民主主義をやんわり否定している言論人の言葉』の根底には『現代の複雑化した社会問題を大衆に決めさせるのは無理がある』というような考えが見える気がして。

(この辺り、怖いのでこれ以上は深堀りしませんが…)

だからこそ、コスモ貴族主義的な予感がしてるんですよね。


で、どうしてこういう話をしているのか?というところなのだけど。

これから人間の労働が必要なくなっていくと、行き着く先は恐らくこのコスモ貴族主義なりソイレント・グリーン的世界であろうと考えるのだけど。

そうであると仮定するなら、そうなるまでに大きな混乱があるだろうし、社会システムは崩壊しそうだし、洒落にならない数の死人が出るだろうな、と思うわけですよ。

特に日本はこういった時代の変化への対応が遅い国だから、他の国より対応が遅れてより大きな被害が出る気がすると。

そう思っているのになにも語らないのもどうなのかな?と、ちょっと思ったからこんな過激な話をしてみた感じなんですよね。

まぁ、完全な妄想なんで当たるかどうかは分からないですけど。なんらかの対策を偉い学者先生が思いつかなけりゃ、行き着く先はこれじゃないかと。

最近メディアでもたまに出てくるベーシックインカムの議論なんかはモロにこのソイレント・グリーンじゃないかと思うんですよね。方法としてはそれぐらいしか思いつかないからそうなるんだろうけど。


まぁ、ガンダム世界で言うなら、コスモ貴族主義のF91の世界の後はVの荒廃した世界で、その後は全てが崩壊した後の世界の∀。

色々とお察しください、ですよね。

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