コロナとファンタジーと通貨制度と経済政策
指輪物語から始まった多くの現代ファンタジーでは金本位制を採用している作品が主流だと思う。
つまり金(金貨)が通貨として使われている社会で、そんな絵を想像すると「あぁ、ファンタジーだ!」と思うところだけど、実のところこの地球で実質的な金本位制が終了したのは1971年のニクソンショックの時で、それまでドルは金の裏付けを元に発行されていたらしい。
ファンタジー的なイメージでは中世ヨーロッパ的な時代を想像しがちだけど意外と最近まで金本位制は生きていたわけで、そう考えるとちょっと面白かったりしますよね。
この金本位制の利点としては、金という世界共通(と言っていいはず)の価値を持つ物質で裏付けることで通貨の価値を安定させやすいことで。逆に問題点としては、金がないと通貨が発行出来ないために柔軟な金融政策が出来なくなること。
例えば通貨の価値がなくなってハイパーインフレになるようなことはほぼないけど。貿易赤字が増えたり不景気になったりすると国内から通貨が吸い取られてデフレになり、国がどんどん貧しくなるのに通貨は発行出来ないので政府に対応手段がないとか。
そんなこんなで人類史においては割と最近になって金本位制の問題点が世界的に認知されるようになり金本位制を採用する国がなくなっていったと。
なろう等、よくあるファンタジーの世界において国境で高い関税を取っているのは、そうして貿易を抑制して国内の産業を守らないと国から金(金貨)が吸い取られて通貨不足になり、通貨の価値が上がることで物の価格が下がり、国内がデフレになって皆が他国に比べて相対的に貧しくなり、国力が減って大きな問題になるから。というような側面もあると思う。
それは恐らくファンタジー世界の現実としては致命的すぎる問題。
いくつかのなろう作品で主人公がチートで貴族になったり国を作ったりして、チートで貴重アイテムを量産して売りさばいて大儲けして豊かな国にする的な展開があるが、それは長期的に見ると現代人が想像しているより遥かにヤバい影響を周辺国にもたらす可能性があるのではないかと思う。
話を戻すと。
今はほとんどの国が金本位制を止めて管理通貨制度を採用している。管理通貨制度とは通貨の発行を国や中央銀行が管理する制度で。例えば通貨の流通量が多くなってインフレに行き過ぎたら通貨を回収して調整し、逆に流通量が減ってデフレになったら通貨を発行して市場に流し、上手く調節することで経済をコントロールしていけば安定的に経済成長していける『はず』というモノ。
ちなみに、ここで『国』と『中央銀行』を分けたのには理由があって。ぶっちゃけ多くの国の中央銀行はただの民間企業であって形式的には国とは別の存在で。日本銀行も東証に上場している会社でその株を売り買い出来るし、日本政府は半分ぐらいの株を保有しているけど残りは誰が持っているのか分からないとか。アメリカの実質的な中央銀行にあたるFRBの株をアメリカ政府はまったく保有していなくて、誰が支配しているのか(公式には)分からない的な闇の深い話になるのでここまでにして。
とにかく今の世界のほとんどの通貨は金などの裏打ちがなくても実質的に無限に発行可能で、そういう制度に本格移行して現時点で約50年程度しか経っておらず、今の管理通貨制度の世界はまだまだ試行錯誤段階で、現在のお金のシステムが本当に正しいかはまだ未知数な部分が多いのではないか、と思うわけです。
そんな管理通貨制度の今の世界で様々な不況を乗り越えてきた結果、分かってきたことがあって、それは金融危機等で経済が悪化しそうな時はとにかく通貨をどんどん発行して市場にばらまけば(色々と端折るけど)危機状態を止められる、ということ。
例えば2008年のリーマンショックの時は通貨をどんどん発行し、不良資産化したサブプライムローンをアメリカ政府が買い取り続けて市場を安定化させた。
サブプライムローンは支払能力の低い人に高利で融資を行った住宅ローンを複数まとめて金融商品化したもので、そんな危険なものを作った金融機関や買った人が本来は責任を取って損をかぶるべきではあるものの、何兆ドルにも膨れ上がったそれが弾け飛んでしまえば金融機関や投資家だけでなく経済全体に甚大なる被害が出ることは明らかで、そうなるよりは政府が財政悪化を覚悟してでも買い取って損をかぶった方が全体的にはマイナスが少ないというのが、どうやら今の経済学では正解らしい。
なのでこの数十年間、先進国は金融危機が起こりそうになる度に新しく通貨を発行して様々な方法で市場に流してきたと。当然、好景気に入れば逆にインフレ抑制のために市場から資金を回収してはいるけど、それでもトータルでは回収しきれず年々通貨供給量は各国共に凄いスピードで増え続けている状況。
ここ数年、アメリカの株価が史上最高値を更新し続けて、日経平均も上がりまくっていて、それでも常に金余り状態でベンチャー企業にも資金が集まりまくり。しかしそれでも一般層の生活が豊かにならなかった理由はこのあたりにあると言われているらしく。
要するに金融緩和で通貨をどんどん発行した結果、金融資産を持っている層にどんどん通貨が集まり続ける状態だったのではないかと。
そして今、新型コロナが蔓延し、世界中の人々が外出出来なくなり、イベントは中止になり、経済活動が止まり、経済危機が起ころうとしている。
先日、アメリカのFRBが235兆円の金融緩和を発表したが、それでも株価の下落が止まらず、ついに無制限の金融緩和を発表。全ての国民に10万円とか20万円の通貨を配る政策も進行中らしい。そして欧州のECBも90兆円の金融緩和を発表している。これはそれだけのお金を発行して市場で投げ売りされている債権などの金融商品を購入していき市場に資金を供給し、コロナショックで危機的状況にある企業や個人にお金を配って破綻・破産させないようにしたいのだろう。
そうやって無理にでも通貨を刷ってお金をばらまいておいた方が大恐慌になるよりマシで総合的には良い結果になる、と今の所は過去の経験から分かっているから。
つまり、恐らくこれからはもっと社会に通貨が溢れ、金融資産を持つ層はジャブジャブに増えたお金をまた掴むだろう。
しかしそんな中、先進国では日本だけ随分慎重に動いている。
日本は財政均衡主義的な考え方を持つ政治家が与党にも野党にも多いのか、国と日銀の負債が増えすぎているのか、今回のコロナ騒動のような事態になっても国が大きな予算を使うことに慎重で他の先進国よりも行動が遅く感じる。
それは今の経済学とか政治学の中では恐らく大失敗なのだろうと思う。
しかし、思うわけですよ。
これ、本当に、こんな際限なく通貨発行を続けて大丈夫なのだろうか、と。
この数十年の間に世界の通貨供給量は増え続けていて、今回のコロナショックでもっと増えることは確実で、更にこの次なにかが起こればまたもっと増えていくのは確実。
しかも騒動の度に一定量が増えていくのではなく、使いすぎのせいで薬が効かなくなりもっと強い薬が必要になるように指数関数的に増え幅が大きくなっている状況。
その先にあるのはどういう世界なんだろうか?
本当にこれが未来まで続けていける制度なのだろうか?
そう考えていると日本政府がコロナ騒動対策への支出に慎重になるのも分からないでもないかなと思ったり。
こうやって差し迫った危機を目の前にして通貨制度と経済政策について考えていると、なろうファンタジーでたまに見る『主人公がチート等で紙幣を発行して金貨から切り替える』みたいなアレ、果たしてそれは本当に成功するのだろうか?大丈夫なのだろうか?とちょっと考えてしまうわけです。
今の現代に生きる我々からすると金貨から紙幣に変えるのは『可能ならやるべき』な『正解』なわけで、正しいことなはずだけど、今はそこのところの常識が切り替わって別物になるターニングポイントに来ているのかもしれないな~……なんて考えてしまう、そんな夜です。
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