小説投稿サイトについての話

(出版社系を除く)作者に利益を還元する小説投稿サイトがダメな理由

2019年は自分にとっては小説家デビューの年で、以前noteの方で書いた『小説家デビュー出来たら勝ち確!あとは楽勝っしょ(笑)とか思っていたあの頃』の中で言及したように色々と調べて様々な現実を知った年だった。

その具体的な話に関しては、言えない事や言ってもデメリットが大きそうな話が多いので今は割愛するが、そんな事もあって小説業界について調べに調べたし、まぁネガティブな情報が多すぎて悲観的にもなった。

だからこそ2019年は小説業界に新しい風が吹いてくれる事を願っていたし、その新しい風を探し続けた1年でもあった。

そんな2019年、個人的に注目していたのは、


『何らかの方法で作者にインセンティブを与える小説サイト』


YouTubeなどが分かりやすいと思うが、最近はクリエイターが直接WEBに作品を公開し、そこから収益を得る流れが出来てきているので、小説や漫画に関してもそういう流れが来るのではないか、とずっと感じていた。

これまでの小説投稿サイトのようにWEBで無料公開して運が良ければ書籍化されてその売上から利益を得られるだけの形ではなく、WEBに公開した作品に対して作者に何らかの方法でダイレクトに利益が発生する形。

テレビにかわるモノとしてニコ動やYouTubeが伸びてきたり、コンシューマーゲームの人気が落ちてスマホゲームが台頭してきたり、そんなゲームチェンジが小説業界にも起こるのではないかと感じていた。

なのでそういうサイトをずっと探して観察していた。

そしてカクヨムが広告収入を還元するロイヤルティプログラムを発表した時は英断だと思ったし素直に嬉しいと思った。


しかしいくつか独立系(出版社系ではない)の『広告収益を作者に還元』するサイトとか『WEBで小説を販売』出来るサイトを見付け出して観察していたのだけど、深く調べれば調べるほど「これではちょっと……」と思ってしまったのだ。

ぶっちゃけると、残念ながら今はそれらのサイトを使うメリットがかなり小さく、勝負になっていないと言わざるを得なかった。

批判をしたいわけではないけど、期待しているだけに現状を見ると残念感が強く、これじゃダメだろうと思い、これを書いてしまおうと考えた。


ということで、

以下、ダメな理由を説明していく。


①インセンティブを受け取れるサイトに公開すると書籍化の可能性が下がる

以前、某編集者の方がTwitterで語っていたが、何らかの形で金銭が絡むサイトに投稿された作品は後々権利関係で問題になる可能性があるので新人賞では通しにくい、という話らしい。

(規約に『大丈夫』と書かれていても後で書き換えられる可能性も否定出来ない)

編集者によっても編集部によっても出版社によっても見解は変わってくると思うが、そういう可能性もあるという事。

そういうリスクを含めたうえでの優位性がなければいけないが、それを提示出来る独立系のサイトがない。


②WEBコンテンツ販売系サイトでは現状Kindleを超えられない

WEBで小説を販売する系のサービスではAmazonが運営するKindleがとにかく強い。

Kindleの場合、併売では35%、専売で70%の取り分なのでそこが欠点ではあるけど、現状、電子書籍でもeコマースでも大きなシェアを持っているAmazonを使うメリットを超えるメリットは現状どこも提示出来ていない。


③広告収益還元系サイトでは現状カクヨム、アルファポリスを超えられない

小説を投稿して無料公開し、PV数などによって広告収益を作者に還元するモデル。

これは出版社系サイトのカクヨムとアルファポリスがやっているが。

①で書いた、そういう金銭が絡むサイトに公開された作品の出版が敬遠される可能性があっても出版社系なら同社内からの書籍化は普通に問題なく出来るわけで。

独自の出版ルートを持たない独立系の広告収益還元系の小説投稿サイトを使うメリットは……。


④独立系サイトの作者へのインセンティブの限界

③で書いたように出版社が運営する広告収益還元系の小説投稿サイトならその出版社から出版の可能性があるうえで広告収益が得られるが、独立系の広告収益還元サイトで公開した場合はむしろ出版の可能性が下がる可能性がある。

そして例えばアルファポリスはサイトの広告収益を100%作者に還元すると謳っている。

これは出版社が運営するサイトは、サイトの連載作品を出版してそこから利益を得る収益構造が可能なのでサイトの広告収入を作者に100%還元しても収益的に問題ないわけで、

しかし独自の出版ルートを持たない独立系の広告収益還元系サイトでは収益の大部分がサイトの広告収入に偏っているはずで、広告収益を100%作者に還元してしまうと収入源がなくなってしまう可能性が高く、どう頑張っても構造的に出版社系より高いインセンティブは提供出来ないと思われる。

つまり広告収益還元系のサイトでも出版社系の方が作者の金銭的リターンが大きくメリットが多い可能性が高い。

アルファポリスに関してはネットで噂されている程度にしか情報は持っていないけど、カクヨムに関しては自分の貰っているアドスコアから推測すると上位はアルファポリスの噂と近いぐらいはインセンティブが出ているんじゃないかと予想しています。

(2020年1月18日現在、筆者のアドスコアに関してはPixivFunBoxで支援者様限定で公開しているので、興味ある方はググってみてください)


⑤様々なデメリット

小説が出版される場合、一般的に作者がもらえる印税率は10%とされる。

それに対して、例えばとある販売系サイトなどでは作者の取り分が87%だったりするので定価が同じだとすると単純計算で作者に入る利益は9倍近くになるはずだ。

一見すると書籍化を目指すより小説販売サイトで売った方が儲かるように思えるが、現実的にはそう上手くはいかない。

出版社による宣伝力。出版社から出版されるという面白さの保証。コミカライズやアニメ化の可能性。それらが大きすぎる。

個人がただ小説を販売したってそんな売れるもんじゃない。

自分で宣伝するにしても、残念ながら今のSNSは小説・小説家との相性が最悪で、小説家が独自に作品を宣伝して売っていくというのは現実的ではない(一部Kindle等で成功されてる作家さんはいます)。大物作家でもTwitterフォロワー1万人前後ぐらいで、2桁万人の作家なんて一握りしかいないし、そういう人は大体メディア露出がある人だ。

何らかの小説以外の要素で2桁万人ぐらいのインフルエンサーとして名を上げればワンチャンあるかもしれないが、ちょっと厳しい。


と、大体こんな感じだろうか。

簡単に言うと、単純に小説を販売するサイトとか広告収益を還元するだけのサイトは既にそれなりに完成したモノがあるし独立系では無理ですよ、という話。

だからもう一歩、先に進んだ策が必要なのに、どこのサイトもコンテンツ販売と広告収益の還元で歩みが止まってしまっていると。

でもそれじゃあ無理だと思うんですよ。




最後に、この話について語るなら一番人気のある独立系サイトの『小説家になろう』について言及しておく必要があるだろう。

よく『小説家になろうがインセンティブ還元を始めたら凄いことになる論』が出てくるが、当面はそれの実現は難しいだろうと考える。

①で書いたように、権利関係でややこしくなって出版社が小説家になろうを敬遠する可能性があるし。

それ以前に今の小説家になろうは業界ナンバーワン独走状態。わざわざユーザーに利益を還元せずともナンバーワンは当面安泰だ。

④で書いたように小説家になろうの収益源の大部分が広告収入であるはずなので、その広告収入を還元したら利益が何割単位で吹っ飛ぶはず。今の段階ではなろう側にインセンティブ還元をする大きなメリットがない。

今後、業界ナンバーワンの座が脅かされそうになるまでは導入しないのでは?

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