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そんなある日
誰かが教室に僕を連れて行った
廊下で遊びだした
僕は
『あぶないよ…やめてよ。』
そう叫んだのに
誰にも声が届かなかったんだ。
そして次の瞬間
廊下の脇にあるトイレに飛び込んでしまった。
「うわぁ…トイレに入っちゃった。」
「汚い~!
トイレはバイ菌いっぱいだよ?」
子供たちが誰も拾いにきてくれない。
すごく…不安になった。
嫌だよ…またあの寂しい場所に帰るのは嫌だ。
大好きだった空が、寂しい色で広がって
僕を押しつぶそうとしているように感じてしまうあの空は嫌い。
誰か…助けて…
「こら!みんなで何やってたの?
すごい音がしたよ?」
「先生~!ボールがトイレに入っちゃったの。」
「ん~?本当にそうなのかなぁ?
ボールは勝手にトイレに入っちゃったの?
お外からコロコロやって来て?」
違うよ…
僕はみんなと遊ぶのは好き
でも…
ここでは危ないって
何度も叫んだんだ…。
誰にも聴こえなかったみたいだけど
僕は…注意したんだよ?
「みんなは、このボールくんと遊べなくなってもいいのかなぁ?」
先生は僕をみつけてヒョイと片手で持ち上げた。
「あ!先生汚い!!」
「バイ菌だらけだよ?」
「触っちゃダメだよ!!」
子供たちが慌てて叫んだ。
「大丈夫よ。
先生は大丈夫。
ちゃんと綺麗に洗って
う~んとう~んと綺麗に洗って。
先生も手をキチンと石鹸で洗いますから。
うん…そうね~
それでも、みんながバイ菌が気になるなら
消毒もしとこうか?
そしたら…
みんなはどうする?」
みんなが僕を見つめていた。
1人の女の子が手を挙げた。
「はぁい!
みんなでボールに謝る!
ごめんねって。」
「それから、外で遊ぶ!」
「そうね。
それが一番素敵な答えね。」
先生は微笑んで僕を石鹸で洗いだした。
それから、笑いながら
消毒をしてくれた。
「ごめんね。」
ってまるで僕に話しかけるみたいに。
その時
先生は何かに気がついた。
僕に書かれた薄くなった名前。
「あれ…?
これ…あの子のかな?」
「先生~ボールもう遊んで平気?」
「あ、ちょっと待ってて。
これね…もしかしたら、この前転園しちゃったあの子のかもしれない。」
僕を抱えたまま
先生は誰かに電話していた。
電話に向かってなんどか頭を下げて切った。
ニッコリ笑って僕を抱えて再び教室でまっている子供たちの元へ
「みんな~。
この前お家のお引越しでお別れしたシンジくん、覚えてるかな?」
みんなが一斉に手をあげた
「覚えてる!!
元気かなぁ~?」
「そのシンジくんの忘れもののボールでした。
サッカークラブで練習しててそのまま置いて行ってしまったんだって。
すご~く探していたんだって。
今、お母さんに電話したらね…
みんなが大切にしてくれるなら
大事にしてくれるなら
このボール
幼稚園のみんなのモノにしてもいいって言うんだけど…どうする?」
ドキドキした。
いつも大切にしてくれていたあの子
僕を探していてくれたんだぁ…。
「シンジくん
すごくサッカー上手だったよね?」
「このボールがあったからかなぁ?」
「…すごく大切にしていたよね?」
「返して…欲しいよねぇ?」
先生はみんなを黙って見つめていた
僕も黙って見つめていた
「返してあげた方がいいと思いま~す!」
「ボールもきっと帰りたいって言うかも。」
僕は嬉しい気持ちと
みんなと別れる寂しい気持ちで複雑だった
「じゃあ、みんなでシンジくんにお手紙書いてボールと一緒に送ろうか!」
先生が笑顔で言った。
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