87 シリアルキラーの血がうずく

 

 「シュバルツ、こいつらイキがいいわ。どうする?」


 高層ポッドから見下ろす者同士、互いの獲物をエリス達に向けながら、目を合わせることなく会話する。


 「決まってるでしょ、レベッカ。

  全員殺して、ケサランパサランをいただくの。

  この綿毛が、アカシックレコードの、いえ、私たちネオ・メイスンが目指す、リインカーネイションの鍵になるはずだからね!」


 「そんなこと、絶対にさせない!」

 「ええ、私も同感よ。リオ」

 「エリスちゃんに同じく」


 リオ、エリス、あやめ。

 彼女たち、一蓮托生の探偵の意見は、満場一致。


 それぞれが、アトリビュートを手元に持ち、戦闘に備えた。


 シュバルツとリオのにらみ合いは続いているが、一方のレベッカは――


 「さて、私が一番殺したい相手は……アネガサキ、お前だよ」

 「えっ!?」


 突然の指名に、あやめは動揺した。

 

 「どういうことかしら?

  私、あなたに何かした覚えはないけど?」

 「フフッ…言い方が悪かったかしらね。

  殺したいんじゃないの。殺してみたいの」

 「殺してみたい?」


 「私の先祖、ジャック・ザ・リッパーは幾人の娼婦を惨殺し、子宮を切り刻んで持ち帰った。

  そして私の中を流れる、もう一つのDNA、ペーター・キュルテンもまた、少女たちを切り刻み、潰し、犯し、内なる快感を満たしていたわ。

  そう……私もなのよ」 


 嬉しそうな笑顔に、あやめの背中を冷たいものが走る。

 こいつの目的は、私怨でも殲滅でもない。

 単なる快楽、愉悦!


 「切り刻んでみたいのよ。

  先祖でさえ、成し得なかった、子宮のない少女の惨殺と凌辱を!」

 「……やっぱり、狂ってるわよ。アンタたちっ!」


 顔をしかめるあやめに、ナイフを舌でなめずり、レベッカは言うのだ。


 「それは、ココロの卑しい人間が言うセリフよ。

  あなたは、そうは見えない」

 「さあ、どうかしら?」


 唾液を帯び、シュバルツのアトリビュートは輝きを強くする。

 彼女の興奮と呼応してると言わんばかりに。


 「シュバルツには届かないけど、人間を捌くのには自信があるの。

  だから、怖がらなくていいの……気持ちよく死なせてあ・げ・る」


 その、アトリビュートの名は!


 「私のアトリビュート、ボーン・サイズでねっ!!」


 堰を切ったのは、レベッカ!

 高層ポッドから飛びあがると、通路に佇むメイコめがけて落ちていく!


 「メイコっ!」


 あやめの叫びが聞こえるが、彼女は咄嗟の事で動けず。


 「まずは、お前からっ!」


 睨みつける視線、その次に刃が彼女を突き刺す!


 「!?」


 着地したそこに、メイコがいない。

 ガチンと鉄板とナイフがぶつかる音が響くだけ。

 レベッカが真横の気配を感じ取るのに、時間はいらなかった。

 立膝をつくメイコ。

 両手で構えた銃から、立て続けに弾を撃ち込む!


 「私はヤマネコ。人間の動きなんて、お見通しよ!」

 「ならば、本命に行こうかしら?」


 そう言うと、更に階下へと飛び降りる!


 「しまった!」


 あやめの元へ。


 「殺させなさい!」

 「ふざけるなよっ!」


 降り立った瞬間から、金属のぶつかり合う音が、薄暗いポッドの森から響き始める。

 村雨がレベッカに向って斬り込み、華麗に避けた彼女が、そのナイフをあやめのみぞおちめがけて突くも、今度は村雨が寸前で払いのける。

 そういった、激しい戦いが繰り広げられていた。

 互いの刃がぶつかり合い、それぞれの技術が、生の名のもとに光りあう。

 あやめもレベッカも、攻撃に隙が無い。


 「あぶないっ!」


 サロメを構えるまもなく、交戦状態に入ったあやめを、エリスは助太刀できずにいた。

 否、手出し無用。

 そう、言わんばかりに、2人のキャットファイトは熾烈を極めていた。

 村雨が振り回される度に、ヒュンヒュン、空を切る。

 

 「エリス、あなたはリオの援護に行って!」

 「ハッ……っ!」

 「リオのアトリビュートは遠距離武器、それもライフル銃よ。

  接近戦には向いてない。

  それに、ブラッディ・バージンはゼロ距離からでも相手を殺せる」


 そう、キス。

 体内に封印した状態でも効力を発揮できる、危ない武器。


 「首を取られれば最後、リオは間違いなく殺される。

  それをパワーでも距離でもカバーできるのは、エリス、あなたのサロメだけ」

 

 あやめのアトリビュート、村雨も遠距離に近い日本刀。

 ハンドナイフのレベッカが懐に潜り込めば、確実に殺される。

 隙を見せれば、終わりだから。


 しかし、今、リオをカバーできるのは、エリスかメイコしかいない。

 その上、メイコの獲物はハンドガンのみ。

 いくらヤマネコ妖怪とは言うものの、彼女には、爪や牙を用いた攻撃スキルの持ち合わせがない。


 できるのは、エリスだけ。

 1人で2人の援護はできない


 「いいのね?

  2人同時に援護できるほど、私、器用に立ち回れないわよ」

 「私は、大丈夫。心配しないで!

  それに、エリスもわかってるはずよ。戦いの大前提」

 「自分の身は、まず自分で守れ。

  それができない奴が、誰かを守れるわけがない、か。

  バチカン時代に教え込まれたっけ……」

 「私もよ。エリス」

 

 エリスに迷いはなかった――!!


 「……フッ」

 「……フフッ」


 頷き合う2人に、それ以上の会話はいらなかった。

 経験がモノを言う。

 あやめの大丈夫は、確たる保障のある安全牌。

 国選弁護士の甘い囁きより、何万倍も信頼できる!


 「メイコ!

  アヤの援護に回って!

  あの切り裂き魔に、ありったけの銃弾を撃ち込みなさい!」


 大声で叫ぶエリスの言葉に、メイコは弾倉を装填しながら答える。


 「オーライ!」


 手すりから身を乗り出し、今まさに襲い掛からんとするレベッカめがけて、メイコは銃の引き金を引く!

 バン、バン、と連続する銃声。

 その雨を避けながら、培養ポッドの陰に隠れたのを見て、あやめも走り出した。

 培養ポッドの森の中、身を隠しながら。


 一方のエリスは、反対に培養ポッドの上に飛びあがり、それを踏み台にして、リオ達のいる空中通路に。

 

 既に、2人の攻防戦も始まっていた!


 「シュバルツうううっ!!」

 


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る