2 アトリビュート、サロメ!
バケモノと化した相手は、ゆっくりとこちらに、手を伸ばしながら歩み寄ってくる。
「コロス……コロス…」
喘息のしゃがれた、否、それより細い、不気味な声で。
「で、次のプランは? マイ・マスター。
人間の身体から、その幽霊とやらを引き剥がすか?」とプラチナブロンド
だが、彼女は冷たく言い放つ。
「憑りつかれた相手は、残念だけど、もう死んでる。
向こう側に、魂もろども、引きずり込まれてしまってるようね。人間の反応がまるでない」
「なら、どうする?」
「愚問ね、リオ。決まってるじゃない……実態もろども、奴を壊すまでよ!」
すると、彼女は手の平を開きながら、両腕を胸の前で交差。
ゆっくり目を閉じ、そして小さく息を吸った!
「汝、井戸の底にある声を求めよ」
手のひらに、ほうっと青い光が灯り始める。
「恐れをもて許しを請い、七つの喜びをもて舞い踊れ」
それは、難解な記号にも似た刻印となり、更に輝きを増す!
「されば我、銀の杯と紅の接吻を、汝の物として与えん」
バッ、と横に突き出される両腕!
一瞬、白い光に包まれたと思うや、彼女の右手には、光彩を放つ、白銀のピストルが握られているではないか。
簡素でありながらも長い銃身と、引き金の先に鎮座する銃倉。複雑な安全装置。女性の手でも収まるほど小さなグリップ。
この見た目から、ドイツ・モーゼル社が開発した、マウザー式拳銃であることは理解できたが、博物館に飾られているソレとは、何かが違う。
かといって、モデルガンでないことは子供でも分かる。
そう…この銃はさっきまで使っていたリボルバーとは違う。否、人類が扱う代物とは全くかけ離れた、妖しくも幻想的なオーラを纏っている。
彼女が手にする、禁忌の異能力 ――。
「解放……
彼女はそのまま、銃口を化け物に向けた。
照準は、心臓に。
指をトリガーに添えた途端、自然と動く撃鉄、浮かび上がる不可視の弾丸。
そして――!
「堕ちろ! ベテシメシの闇へ!」
乳白色の煙と共に発射された透明な銃弾は、そのまま相手の右胸に。
刹那!
「ウオアアアアアアアアアアアアアアアア!!」
相手の身体が、蒼い炎に包まれていく。
周囲が昼間と見間違わんほどに、明るく。
「アツイ…ホネガ…トケル…ウウウ」
地を揺さぶる低い悲鳴がこだましたのも数秒、そこに、あの化け物の姿は微塵も残っていなかった。
あるのはただ、横転した車が一台。
それを見送ると、彼女の手からマウザー拳銃も姿を消した。
大きく息を吐き、2人にウインクを飛ばす彼女を見て、少女らも全ての仕事が終わったことを確認した。
すぐ後に、ポルトガル警察のパトカーが集団でやってきた。
一転、今度は森が、青いパトランプ一色。
降りてきた警部は、全てを見て、彼女に問うた。
「本当に、やったのか?」
「ええ」
「信じられん…警察が手をこまねいていた相手を、僅か3人で」
丸刈りの頭を、理解不能とバリバリ掻きながら。
「そこいらの街角にいる、鹿撃ち帽子の素人と訳が違うもので」
フレアスカートを翻し、彼女は傷ついたフェラーリに乗り込む。
他の2人も、それぞれのマシンに戻りながら。
刹那、警部が振り返り叫んだ。
「待ってくれ!
何者なんだ、君たちは……ただの私立探偵なのか?」
フフッ。
彼の方を見て、少女は微笑む。
あどけない少女の振る舞いで、こう返しながら。
「ええ。
私たちはノクターン探偵事務所。奇々怪々を両断できる、ただの私立探偵ですよ」
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