77 最深部、到達!


 敵襲!


 だが、警報を発する術もなく、閃光弾は瞬く間に狭い廊下に輝き、抵抗するまもなく、兵士たちが倒れていく。

 破裂した鼓膜と脳へのダメージは、屈強な精神でもかなうまい。

 キーンと、切り裂く余韻の中を、エリス達が颯爽と駆け抜ける!

 

 「リオ!」

 「任せなさい!」

 

 両手にガーディアンを登場させると、ループレバーを水平にスライドさせ、全神経を集中させて、全ての兵士の持つライフルを視界に掌握する。


 小さい息と共に、弾いた撃鉄。

 

 見えない弾丸が、カーブを描きながら、全ての銃身を打ち抜き使用不能に。

 そう、たった一発で。

 

 武器を失った兵士たちは、腕を押さえながら、その場に崩れる。

 

 「流石…私も――っ!」


 リオの開いた道。

 あやめが、愛銃 ベレッタで監視カメラを次々と打ち抜いていく。

 

 追随して、メイコも。

  

 「行って! エリス!」

 「わかった!」


 その手に、グレネードを抱えながら、彼女は走る。

 リオの魔弾、その加護を受けながら。


 ケサランパサランを守る兵士たちは、大慌てだ。

 今まで誰一人、彼女たちに弾丸を打ち込んだ、否、銃口をまともに向けた者が、いないと言えば、その混乱が、お粗末に近いものだと分かるだろう。


 「敵襲…繰り返す、敵襲……おい!」

 「ダメです! 無線が壊れてます!」


 更に不幸なことに、兵士たちの無線が一斉に、ガリガリと不協和音を響かせ


 「ぐわあああっ!」


 手にしていた銃が突如と暴発して、反撃する矛先を持ち主に向ける始末。


 「どうなってる!?」


 この状況には、リオ達も驚きを隠せない。

 暴発した銃で、全身血まみれになった死体。

 その懐に、例の小瓶が転がっていた。


 あやめは、その状況を容易に理解できた。


 「ケサランパサランの加護が無くなったか…」

 「イングラム男の時と同じか」

 「ええ」


 だが、それは同時に、喉元に引っかかるほどの疑問を生み出す。


 「にしても、こんな一斉に、ケサランパサランが消えるなんてあり得るの?」


 あやめの疑問は、それだけではなかった。

 妖気を感じるのだ。

 それも、今までの調査で感じたことのない、最大級の気配が。

 テープ剤を貼ったまま、電気風呂に浸かったような、強烈に突き刺さる鋭い痛み。

 首や手足から、あやめの神経を侵してくる。

 

 「なんなの? 何が起きてるの?」


 だが、痛みに負けて歩みを止める少女ではない。

 いや、正確に言うなら、あやめより弱いものを、エリスも、リオも感じていた。

 

 生理的な嫌悪感。

 蛇が目の前を這って、自分の足元にとどまっているような感覚。

 正直、前には進みたくない。

 

 それでも、触覚を支配する蛇を黙殺し、走り続けるだけの精神を、彼女たちは持っていた。

 

 メイコもまた、補佐として頑張って後に続いている。

 彼女は正真正銘の妖怪だ。

 故に、アンテナも敏感なんだろう。

 露骨に顔をしかめながら、あやめの背中を追っている。

 言うまでもないが、あやめはしかと、メイコの様子を察していた。


 それと同時に、全員のリーダーたるエリスもまた然り。

  

 (皆、感じてる嫌悪感は同じ……これはいったい…)


 ようやくたどり着いた、廊下の終点。

 赤色灯を点滅させた鉄製の扉は、電子ロックさえも作動させ、どなた様も想像容易な通り、大層堅固だった――が。


 「エリス、よろしく」

 「オッケー、リオ」


 手にしていたグレネードが、あらゆる手間を省いて、一瞬で扉をこじ開けた。

 その衝撃と快感に、賞賛の口笛を吹きながら、エリスは言うのだ。


 「いい武器だこと。ノクターンにも入れるかな…」

 「これ以上、探偵社の経費で変なもの買うの、やめてもらえます?」


 グレネードを投げ捨てると、彼女は蒼白なメイコに、両手を振った。


 「冗談よ、メイコ。

  それに、うちの経営資金、商社一つ買収できる程度の額はあるわよ」

 「だから怖いんです!

  こないだ興味本位で買った、荷物運搬用ドローン、アレ、倉庫に仕舞いっぱなしじゃないですか」

 「そうだっけ?」


 「こいつ、目を離すと変なもの衝動買いするからなア…。

  事務机のボースフォンなんか、いい例だ」

 などと、リオまで加わって、エリスの隠された浪費癖暴露会になりかけた時だ。

 

 「その話は、今度パジャマパーティーでもしながら、駄弁りなさいよ」


 そう。あやめだけは、扉の向こうに目を凝らす。

 衝撃と煙の中で、まだ視界が閉ざされたままの世界。

 警告音が聞こえるだけで、それ以外の情報が全くない。

 嗅覚も、触覚も、反応がない。

 聴覚を研ぎ澄ますことが無駄であることは分かってる、それ故に、彼女たちの研ぎ澄まされた第六感が頼りになる。


 「かなりの妖気を感じる…」

 「ええ。人間でもピリピリ感じる」


 エリスも扉の方を見ながら、不敵な笑みを向けた。

 ようやくたどり着いた場所。

 描いていたシナリオとは違ったが、彼女たちはたどり着けたのだ。


 この事件の根幹。

 探偵社の目的地。

 イコールそれは、ゲイリー・アープの心臓部。


 「で、半妖の血は何て言ってるの?」

 「賭けてもいいわ。ケサランパサランは、この先にある!」

 「オッケー、なら……行くしかないわね!」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る