76 棚ぼた的反撃方法


 PM 10:33

 ホテル・ベラッジオ 立体駐車場



 リオの運転するマスタングと、あやめのブルーバードが強引に駐車スペースに停車し、4人が一斉に降りてきた。

 各々の手に、愛銃を握りしめて。

 

 「行くわよ!」

 『了解!』


 エリスの合図で、全員がエレベーターに向かう。

 通常より大きい貨物用エレベーター。

 関係者以外使用禁止の文字を、堂々と無視して。


 地下一階にたどり着くと、トラックや電気機材、ビニールを被せられた意味不明な部品などが置かれた、半ば倉庫のような場所。

 

 「そのさき、右の5つ目の柱に……」


 スマートフォンを手にしたメイコの誘導で、3人は再度、関係者以外立ち入り禁止の文字を拝んだ。


 空白の駐車スペースの奥に、灰色のドア。

 その先には、螺旋階段が待ち構えている。

 ……とは書くものの、そこまで深く長く、階段が続いている訳ではない。

 階数で言うと、3階ほどだろう。

 すぐに、平坦な土地へと、戻ったわけだが――


 「なんだ、あれ」


 リオが指さした先。

 一直線に伸びる、コンクリートの通路。

 その横に大きな穴が開いているのだ。

 


 「ここは……」


 4人が出た場所。

 そこは上水道検査通路と、並行して走っている、鉄道トンネルだった。

 エリスは、考えることもなく、その正体が分かった。


 「間違いない。ゲイリーが敷いた秘密鉄道ね」 

 「しかし、どうして穴が」

 「さっきの爆発で、トンネルの広い範囲に被害が出たのよ。その証拠に」


 エリスが掴み上げたコンクリートの破片。

 彼女たちが入ってきた場所に散乱するガレキと比べると、薄くて軽い。

 それは、横っ腹に空いた穴のものではなく、天井から落ちてきたものだった。


 「急ぎましょう。このトンネルが、いつ崩落するかも分からないわ」


 ■


 棚からぼた餅。

 上水道通路に空いた、チート空間を走って5分ほどで、一行は線路の終点にたどり着いた。


 フェニックス・インペリアルホテル側の、プラットホーム。

 誰も見当たらない。

 まあ、塞がった上に、出入り口があるはずのないトンネルから、誰かが攻めてくるなど、想定すらしていないだろうから。


 「よっこら…せっ…」

 

 先行として、あやめとエリスが自力で、線路からはい上がったのだが――


 「何よこれ」

 「オールドロマンのホームとは、雲泥の差だわ…」


 そこには、貨物用とは思えないほどの設備が揃っていたのだ。

 天井はLEDライトに、空気清浄機。

 待合室と思しきガラス張りの部屋には、ペルシャ絨毯に赤いソファ。

 足元は無機質なコンクリではなく、真っ白なタイルを敷いており、貧乏な表現で結構というのなら、さながら深夜のコンビニエンスストアのような、過剰すぎる輝きである。


 脇には、貨物用の名残だろうと思しき、大型エレベーターがあるのだが、確実にリムジン一台は収まるだろう長さ。


 「ここにオリエント急行が停まる、って言っても信じるわな。こりゃあ」

 「同感……で、メイコ。この先は?」


 あやめが聞くと、彼女はスマートフォンを見ながら、指をさす。

 スワロフスキーの装飾が施された、場違いな観音開きの扉。

 

 この先に、ゲイリー達が……と思ったら、そうは問屋が卸さない。


 通路には、オールドロマンと同じ黒服の男たちが、視界にいるだけで7人ほど。

 それも、手には先ほどより強力な火器。

 リオは、顔をしかませながら小声で言った。


 「まずいなぁ…」

 「強行突破は厳しいか」

 「こんなハンドガンじゃ、役に立たないぜ、エリス。

  連中がぶら下げているのは、SG552。シールズも採用した、高性能ライフルだ」

 「なんで、んなもんを!?」

 

 驚くエリスに、リオは首を横に振るだけ。


 「言えることは、ここを通り抜けるのは、至難の業ってこと。

  たとえ、ここにシュワルツェネッガーがいても…ね」


 その時だ。


 「だったら、アレより強い武器で対抗しましょ? 簡単な事よ」

 「簡単って……第一、そんな武器どこにある?」

 「ここに」


 全員が振り返った先。

 今まで彼女たちが変哲もなく見送っていた、荷物置き場の業務用冷蔵庫。

 その中には、大量の武器弾薬が詰め込まれていた。


 『なんじゃこりゃ!』


 集団語彙力喪失。

 まあ、無理はないが。


 「冷蔵庫に擬態した、プチ武器庫ってとこね。

  電車に自爆装置つける輩だもん。乗り場にも何かしら武器があってもおかしくないって思って探してたら、案の定。

  それに――」


 あやめは冷凍庫から、灰色の缶を1つ取り上げて、リオに投げ渡す。


 「冷えてるわよ」

 「これは!?」

 「見たところ、スタングレネードね」

 「閃光弾か」

 「スカーフェイスのラストを再現する程、私たち暇じゃない。でしょ?」


 一蓮托生。

 4人は、何をすべきか、どう行動するか。

 説明をせずとも、互いの目配せ、そして自然に緩むイタズラな笑みで、全てを察した。


 「ケサランパサランに頼りすぎたわね。ゲイリー。

  今度は私たちに、ツキが回ってきてる」


 エリスも、なんちゃって武器庫に歩み寄ると、その中から、恐らく一番強力な武器を取り出して見せた。

 M79。中折れ式のグレネードランチャーだ。


 「違いない」


 リオもまた、冷凍庫から取り出した閃光弾でジャグリング。


 「裏帳簿の情報だと、この先の扉の向こうが、量産工場のようです」


 メイコの案内。

 画面には、広く、そして形状不明な敷地が広がる。


 遂に、クライマックス。

 敵の本陣に、こうも容易く、そしてお土産付きで入れるなど。

 いつもなら怖くなるが、今の4人には興奮と安心しかない。


 ケサランパサラン……幸運はもう尽きている。


 「さあ、決めましょう。アヤ、リオ、メイコ。

  棚からぼた餅。満塁サヨナラホームランの大進撃をね!」

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