64 警官とカシャと
一方で、リオとメイコを出迎えたのは、サブマシンガンの雨だ。
連射の嵐が、ホテル入り口から浴びせられ、2人の乗ったマスタング コンバーチブルに穴をあける。
相手は、ホテルの傭兵。乗り捨てられた高級車や、ホテルを照らすサーチライトを盾に、撃ってくる。
「刺激的なウェルカム・ドリンクだ、全く!」
ジョークを飛ばしながら、リオはハンドルを切り、車をエントランスへ一直線に伸びるコンコースから逸らした。
等間隔に並ぶパームツリー。その間から芝生へとダイブしてスピン。
ハンドガンとサブマシンガンの雨が、2人の方へと注がれる。
幸いに、生い茂った緑と、放置している客のレクサスが盾になり、何とか無事。
2人は乗ってきたマスタングのトランクから、銃器を引っ張り出し、レクサスやパームツリーの影に隠れて、相手に銃弾を浴びせていく。
持ってきたのは、ありったけの銃器。
ハンドガンから、サブマシンガン。グレネードランチャーまである。
既に、弾丸の雨で、盾にしている車は穴だらけだ。
いつ、貫通してもおかしくない状況。
「メイコ、援護を!」
「了解!」
ショットガン、レミントンを手にしたメイコに叫んで、リオは愛銃 ジェリコ941を弾く。
散弾で敵を引きつけながら、ハンドガンで一人ずつ、確実に敵を打ち抜いていく。
しかし、どんな状況でも「生贄」というやつは、望んでなくても召還されるものだ。
正門から、サイレンを鳴らして、ラスベガス市警のパトカーが何台も入ってくる。
「警察?」と驚くメイコに、リオは言う。
「誰かが通報したんだ。これだけのバンバン撃ってりゃあね!」
ドアを開けるや否や、それを盾に保安官が銃撃。
黒服たちは、そちらにも弾丸を惜しみなく打ち込む。
両者の戦いは、確実に戦力を削っていた。
パトカーの窓ガラスや赤色灯が吹き飛ぶたびに、どちらかの陣で人が崩れ落ちる。
リオとメイコが手出しできる状況ではない。
「警察が来て、銃撃が一層ひどくなってます!」
「クソッ! 外野がしゃしゃり出てきやがって……。
お次は、パット・ギャレットでも呼んでくるってか? お巡りさんよ!」
リオが冗談交じりに唇を噛んだ、その時だ。
ストリップ側にあるVIP専用レーンから、一台の中型トラックが入ってきた。
いやに大きい2本の排気塔から黒煙を吐きながら。
巨大な4WD仕様のタイヤを穿き、普通の車両より高すぎる車高。
何より運転台の背後で光る銀色のコンテナ。
「なんだ?」
そんなトラックが三台、銃撃戦の現場に姿を見せて横一列に並ぶと、リオ達が入ってきた正面玄関へと、ゆっくりバック。
幅50メートルはある正面コンコースに、壁を作る。
何だ、と呆気にとられるホテルの兵士や警察官。
直後! トラックが一斉に後輪から煙を立ち上げ、スキール音を響かせながら動き始めた!
ロケットスタート。スピードを緩めずに突っ込んでくる!
トラックに感じた気配。
メイコは叫んだ!
「逃げてリオ! カシャよ!」
「えっ!?」
困惑するリオの手を引いて、2人はレクサスの脇を離れ、芝生の中へ。
トラックは、停車している高級車やパトカーに乗り上げ、押しつぶし、大型バンパーで弾き飛ばしながら迫ってくる。
その無機質な恐怖に、屈強なポリスメンも、どうすることもできず。
銃を捨て、脇の茂みに次々飛び込んでいく。
ガッシャーン……!!
地面を揺らす程の、凄まじい衝撃。
中央のトラックが、逃げ惑う男たちをひき殺しながら、エントランスに乗り上げて、ホテル入り口を破壊。
土煙が、瞬く間に立ち込めていく。
残る二台も、建物の外壁に穴をあけて静止した。
「……っ!」
直後、更に一台のトラックが、正門を破壊して突っ込んでくる。
破砕したレンガを纏いながら、車両はバランスを崩して横転。路肩のパームツリーに激突して停止する。
その様子を、マスタング越しに見る2人。
後輪が空転して止まる気配を見せない。
横転した車両の後ろに、綺麗に3台が縦列停車。
沈黙が、ホテルを包んだ。
スクラップと死体の廃棄場と化した、高級ホテルの玄関。
銃撃も止んで、建物からホテルの兵士が恐る恐る、トラックへ。
「いったい…あの車は?」
茂みの中で動揺する警官の1人に、リオは話しかけた。
「無線で、このホテルから半径2キロを封鎖するように言って」
「あ、あなたは?」
「元FBI捜査官よ。こういうヤバイ時の動き方は、よく知ってる。
とにかく、この場所は私たちに任せて――」
「なに寝言いってやがる! コイツはバッジを付けた人間の仕事だ!
一般市民はここから逃げろ。今すぐに!」
至極全うな返しだが、リオは制服の肩を掴んで、警官に怒る。
「いいか? お前たちが黒服どもと、ヒートごっこをしてた数秒前とは、完全に状況が違う!
あのマシンのせいで、コイツはもう、お前たちに扱える事件じゃなくなったんだ!
分かったら、私の言う通りに動いて!
私はもう、同業者が死ぬところを見たくないんだっ!」
「あのマシン、だと?」
驚く警官に、ここからメイコが説明する。
「そうよ。
とある生命体を冬眠保存した状態で移送するために作られた、特殊ジェラルミン貨物の輸送車両。私たちの間では“カシャ”と呼んでいるわ。
悪人の
「生命体?
「いえ。もっとタチの悪い生き物よ」
その言葉を待っていたかのように――
ガンガンガンガン!
正面玄関に突っ込んだカシャの荷台が、車もろども大きく揺れ始めたではないか!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます