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「さぁ!みんな。紙を半分に折ってね♪
片方だけに好きな色をのっけてみようね!
そしたら
こ~やって
パッタンって閉じて
ゴシゴシ…って優しく
いい?やさ~しくよ?
できたらそぉ~っと机において
まだ開けちゃダメね。
お楽しみだよ~!
お手ては膝において待っててくださ~い!」
ハァ~い!!
可愛らしい声と同時に、楽しそうに、真剣に、
画用紙に絵の具をたらしていく子ども達。
綺麗な明るい色を次々に選ぶ子どもや、
1つ1つ時間をかけてじっくり選んでいく子ども。
適当に手に掴んだ絵の具を次々にたらして行く子ども。
本当に
1人1人みんな違うから不思議。
「みんな?
できたかな?
まだの人ハァ~い!
……?
いない?大丈夫?」
【デカルコマニー】
白い紙に半分だけ色をたらして半分に折って
滲んだ色や模様で
素敵なこの世にたった1つのデザインができあがる。
〈とても素敵ね…センスあるね〉
大好きな先生に誉められた。
先生は何気なく言っただけかも知れないけど、
私の一番好きな思い出。
お気に入りの服を汚すと嫌だから
絵の具やクレヨンを使うのは嫌だった私。
うまく出来なかった初めてのデカルコマニー。
絵の具が大好きになって
絵が得意になった大切な思い出。
だけど今、目の前にいる子ども達にとっては
ただの色遊び…。
そこまで深く考えなくてもいいかな…?
なんて正直チョッピリ思ったりもする。
「じゃあ…どんなのができたかな?
みんなに発表しようね!
何にみえるか…みんなも考えててね!」
左右対称に色がつき
色々な模様に見える
みんなは
『チョウチョみたい!』
とか
『わかった!虹色の傘だ!』
とか想像を膨らましていく。
みんな楽しそう。
可愛らしい答えと
誇らしい笑顔で、
私の気持ちも和む。
最後の1人になったとき
【しまった!!】
と後悔した。
最後にみんなの前に出された子どもの作品は、
黒や茶色が混ざり合った、お世辞にも
「綺麗」とか「可愛い」とかは言えない作品に仕上がっていた。
子ども達は騒ぎだす。
『うわぁ!汚い!』
『何これ!ゲロ?』
『違うよ!ビリビリうんちだよ!』
笑いが起こった。
ヤバい。
笑いながら
どんどん批判的な意見になってくる。
作品を広げ
黙ってうつむくその子が、
みるみる泣き顔になってきた。
こんな時に、大丈夫な子もたしかにいる。
舌を出して
笑える強い子もいる。
でも…
目の前の子どもは泣きそうだ。
例えばこの子が笑っていたとしても
心の中では泣き出したい気持ちかもしれない。
だって…
私がそうだった。
…そうだったじゃない?
気づいた時には思わず声を出していた。
「わ…わぁ~すご~い!
先生わかっちゃったもん!」
とっさに大きな声で騒ぎをかき消したかった。
何か言わなきゃ!
焦れば焦るほど
頭が真っ白になる。
『何?なに!?先生!教えて~!』
みんなが期待の目で見つめてる。
泣きそうだった子もパッと顔をあげた。
「え…え~と…
そ…そう!そ~だよ!
森だ!!
これ、トトロの森でしょ?!
先生わかっちゃったよ!
すごいね~!素敵だね!』
少し大袈裟すぎたかな…?
それでも
その声で
子ども達の批判は歓声にかわった。
『すげー!本当だ!』
『うわ~!トトロはどこにいるの?』
『見つけた!これだよ!
トトロだ!そうだよね?!』
泣き顔がパァ~っと明るい誇らしい笑顔に変わった。
…セ…セーフだよね?
危ない危ない、
気をつけなきゃ…。
作品を確認してからみんなに発表させればよかったかな?
とにかく
次回からは違う方法にしよう…。
子供って凄く傷つきやすい。
そのくせ、けっこう残酷だ。
私の不注意で
一生懸命作った作品を破り捨ててしまうかもしれない。
もしかしたら、
絵を描くことすら嫌いになってしまうかも…。
深い反省と共に
ため息が出る…。
子供たちは元気に帰っていった。
教室を片付けながら、壁に貼った。
折り紙で作ったトトロを見ながら、
ちょっと落ち込んだ。
別に、誰かに責められたわけでもないし
上手くいったと思う。
でも…
なんとなく…
「気分転換に…
教室…模様替えしようかなぁ…」
画用紙を広げて
折り紙をおって
私って
引きずる性格だなぁ…とつくづく思っていたら
年長組の先輩先生から声をかけられた。
「今日お休みの子供、虐待疑惑でセンターから様子みられてるんだって?」
胸の端が痛い。
虐待疑惑…まではいかないけど
“ 育児放棄疑惑 ”は私のなかでもかなりあった。
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