3

そっと

教えてくれたのは



先にママの傍に行った子の話。


その子のママは病気で

お腹の揺りかごを無くしてしまったんだって。


どんなに祈っても

もうその子は


ママのお腹には入れない。


その子は悲しみ

泣き叫んだ。




ずっと待っていたのに

ずっとママだけをみていたのに…



もうママに会えないの?



光の向こうから声がした



≪ あのママが好きなのかい? ≫ 


大好き!!

大好きだよ!


ママに会いたい…

会いたいよ!!



≪ あのママの事をちゃんと見ていたかい? ≫



見ていたよ!!


ずっと、見ていた。


ママの笑った顔が大好きだったのに…


最近ずっと

ママは泣いてばかりだよ?


傍に行って、慰めてあげなきゃ…

傍に行きたいんだ!!




≪三回…


三回チャンスがあるんだよ。


三回しかチャンスがないんだ。


それでも行くかい?≫



三回?



≪そうだよ…。


ママが気づいてくれるまで


傍にいるチャンスは三回。


気づいてくれたら

キミはずっとママの傍にいられる。


でも…

もし、気づかなかったら


もう…

二度とキミはあのママの傍には行けないんだよ。≫



迷って


悩んで


でも

その子は決心したんだ。


ずっとママを見てきた。


だから

きっとママが気づいてくれる!



一度目は

ママの大好きな人からもらった指輪になった



無くしても


なくしても


かならず戻ってくる


ママは不思議そうに友達に話していた。


でも…


そのうち

引き出しにしまったまま

忘れてしまったんだ。



…気づかなかった。


とても悲しんだ。



そしたらまた声がした。



≪残念だったね…

どうする?もう終わりにしようか?≫



いいえ…


揺りかごをなくしたママのお腹には…

もう…どっちにしたって…

あのママのお腹には入れないんでしょ?

だったら…


もう一度、頑張るよ。



二度目はママの大好きな曲になった



悲しんでいると

どこからともなく聞こえてくる。



そのたびに

笑顔になって


元気を取り戻す。



だけれど…



それも

そのうち


効果がなくなった。



どんなに元気づけようとしても


ママには聞こえなくなった。



心が…

その曲を求めなくなったからだ。




≪ さぁ…残るのは…最後の一回だ。



  どうする? ≫



しばらく考え込んだ。



ママがもしも笑っていたら

きっともう止めてしまって


光の向こうに帰って行ったに違いない。


でも…

ママは悲しんでいた。



「私には…もう…

赤ちゃんは来ない。」



そう呟いて

夜ひとりで泣いていた。


決心して光に向かって叫んだ。




最後…

これで最後だけど



ママのところに行きたい!!



三度目は子犬になった。


ママが小さなころ

大好きだった犬がいた。

その犬は、いつもママを元気づけていた。



ママは犬が大好きだから


だから

もしかしたら…


気づいてくれるかな?


初めてママが

犬になったその子をみつけたとき



とても不思議な感じがしたんだって。


どうしてもお家に連れて帰りたくて


会社の帰りに抱いて連れて帰ったんだって。


悲しい時も


嬉しいときも


ずっと一緒にいた犬とママ


ある日ママが呟いた。


「お前は…私のところに来たかったの?


なんでかなぁ…そんな気がするよ?

だとしたら…

嬉しいな。


赤ちゃんには会えなかったけど…

お前は私の大切な家族だから。」




光の向こうで声がした。


≪おめでとう。

最後に気づいてもらえたね。


キミは大好きなママと

ずっと一緒に暮らせるよ。


そして…

キミはこれから先

何度でもママと出逢えるだろう。


ママはそのたびに

キミに気がつくだろう。


それから…いつかは本当に、

キミはママのお腹のなかに入れる時がやってくる。


いつかママの本当の赤ちゃんとして

抱かれて眠る日がくるんだよ…。≫



その子と同じ気持ちになったのか



嬉しくて


うれしくて


涙があふれてきたよ。




そして…光の向こうの声は

同じように聞いてきたんだ。



≪ チャンスは三回。どうする? ≫



迷わず答えたよ

だって

ずっと見てきたんだ


ママのこと


パパのこと



だから気がついてくれるよ


きっと気がついてくれる!!




≪そうか…


では…


何になる?≫




あの花に


ベランダで枯れてしまった

あの花になりたい。



≪枯れてしまった花?


枯れてしまったのに…


大丈夫なのかい?≫



大丈夫だよ。

頑張って咲かしてみせる。



ベランダに放り投げてあるけれど


ママもパパも

忘れてしまったわけではないんだから!




≪ そうか…チャンスは三回。


  頑張るんだよ。≫




優しい声が遠くに聞こえる


響いてどんどん遠くになる



眩い光に包まれ

目をあけていられない



暖かい風に運ばれて



気がつくと



ベランダの隅で

倒れていた



雨の日には


なんとか腕をのばしてお水をのんで



晴れた日は

ママの声を思い出して


太陽から栄養をもらう



何日も

何日も


必死にがんばって



そして

やっと


芽を復活させたんだ


まだママは気がつかない



それからは慎重に

ゆっくりと…


でも早く育たなきゃ!


焦る気持ちをおさえて


なんとか蕾をつけれたよ!!


ママ!!

パパ!!



お願い!

気がついて!!


ここだよ!



ここにいるんだ!!



ママのお腹には

まだ入れないけど



ここにいるんだよ!!


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