RPGとかにある透明な壁の正体ってさ、実は俺なんだよね

だるぉ

壁の自分語り


 RPGに透明な壁ってあるだろ?

 ステージは広がってるのに、それ以上先に進むのを阻んでくるやつ。そうそう、あのガツンってなるやつだよ。あれな、実は俺なんだよ。


 んー、この職に就いてからどれだけの時間が経ったんだろう。

 もはや抽象的な存在になってしまった俺に時間の概念が適用されるのかは謎だけど、おそらく数十年は経ってるはず。


 それは、


「ねえねえ、ちょっと暇ある? とっておきの美味しい仕事があるんだけどさ」


 と、声をかけられたのが始まりだった。


 だってよ、ただ立ってるだけで良いって言われたんだぜ?

 しかも無敵の力まであげちゃうって言うの。こりゃ、断る理由なんてないだろ。


 でもな、今になってわかるんだ。

 俺、完全に騙されたって。


 いやね、確かに立っているだけで良いってのは本当。なんなら実際に無敵になる力もくれた。おかげで俺に怒ったプレイヤーが攻撃してきても、全く痛くもないし痒くもねえの。全部すり抜けちゃうから。ははっ、傑作だろ?


 それで最初の頃は楽しかったのよ。やーい、ザマァ! みたいな感じで。

 でもよ、それでも俺に攻撃をし続けるプレイヤーの怒った表情を見てるとさ、段々と思うところがあるんだよね。


 俺って必要なのかな、って。


 だっていつも意味なく俺の存在に八つ当たりしてさ、プレイヤーたちは大層な剣を振り下ろしたり、半端ねぇ特大魔法をぶちかましたりしてくるんだぜ。こうも恨まれてちゃあ気が滅入っちまうよ。


 この前なんて特にすごかったぜ?

 某狩猟ゲームで働いてた時なんだけどよ、プレイヤーが満身創痍で倒したモンスターが何かの弾みで俺の方に飛んできたの。それでもちろん俺をすり抜けるわけ。


 するとどうなると思う?

 プレイヤーはモンスターの死体に用があるのに、間に俺がいるせいで干渉できないのよ。せっかく頑張って倒したのに、全部パァ! 


 いやあ、あの時はさすがに可哀想だと思ったね。

 プレイヤーもその様子を見て茫然自失。俺に怒る気力も失って、ただ突っ立てるさ。本当に申し訳ないと思ったよ、うん。


 だからよ、俺、相談したんだ。この仕事を紹介してくれた方にね。

 なんとかして仕様を変えてくれませんか? って。

 そしたら意外や意外、了承してくれたのよ! 


 それでどうなったかって? 

 なんか俺もよく分からん仕組みになった。


 簡単に説明するとだな、例えばひたすら北に進むとするだろ。それで限界まで北上したら、なぜか急に南から出てくるの。逆の場合も同じな。もちろん右にひらすら進めば、何かの拍子でいきなり左側にワープしちまう。


 やばくね? とうとう俺の体は、空間の壁すらも超越しちまったらしい。

 でもな、残念なことにプレイヤーたちを満足させるには至らなかったんだよ。こんなびっくり機能をつけたのに、それでもプレイヤーたちは俺への八つ当たりを辞めないんだ。


 だから、ついに俺は訊いたんだよ。

 なんでそんなに怒ってるの? って。


 そしたら奴らはこう言った。

 俺たちプレイヤーは、画面に広がっているもっと奥の世界に行きたいんだよ! って。


 なるほどね、と思った。

 俺もその気持ちすっごい分かるもん。誰だって広がってりゃ行きたくなるわな。


 それで再び俺は、仕事を紹介してくれた人に頼んだわけ。

 彼らプレイヤーはこういった機能を望んでいるから、俺にさらなるアップデートを施してくれ、って。


 そしたら断ってきやがったんだ。

 だから俺は訊いたの。なんで駄目なんだ? って。

 するとなんて返ってきたと思う?


 開発費の壁があるから駄目だってさ。

 

 

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