第5話退院

そして約9カ月後に彼は退院してきた


思えば退院するまでも

かなりの紆余曲折があった

退院する直前に

薬を飲んでもどうしても下がらない

血圧の原因がわかり

緊急に手術をすることになり

手術の為によその病院へ転院して

退院が延期になったり


車椅子での退院予定だったので

入口が階段だった前の家では

病院から退院許可がおりなくて

仕方なくバリアフリーの家に

引っ越すことになったり


やっと退院OKの許可が出て

ホッとした頃には

私はすでに疲れ切っていた


「ご家族は朝から晩まで

 患者さんに付き添いなさい」

という方針の病院だったので

病院には毎日行かなければならず

引っ越しの準備なんか

できるわけがなかった


為すすべもなく

引っ越し業者さんに

荷作りから荷ほどきまでを

お願いすることにした


おかげでそれなりに

荷物は片付いたが

新しい家のどこになにがあるのか

私自身、まだ把握できていなかった


そんな中で

「俺のものがない!」

と前触れもなく怒り出す彼

なだめるために

色々なところを探し回り

運良く見つかったとしても

ほどなくまた別のものがないと

騒ぎ出す彼に

私はほとほと疲れていた

退院して来なければ良かったのに


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