第20ワン 総理大臣にはなれませんでした
朝のゴタゴタはタクシー運転手の警察に見つからない裏道を猛スピードで駆け抜けることで解消された。
この日あった特別国会は内閣総理大臣を選ぶという唯一つの目的だけのために行われる。
多くの国会議員は党議拘束によって決められた人物に投票するが、ジョンは政党に所属していないので好きな人に投票して良い、とマサルはあらかじめジョンに言っておいた。さらにジョンには過去の国会の映像を見せて振る舞いを予習させたし、国会の関係者にはトメコさんから口添えをしてもらったので問題は起きないはずなのであるが、近くの喫茶店にて動画サイトの国会中継を見つめるマサルの手は汗ばんでいた。
「追い出されたりしないだろうか?」とか、「走り回ったりしないだろうか?」などと呟くマサルに周囲の客やバリスタは怪訝な顔をしたが、マサルは気づかなかった。
国会中継はどうしても首相候補の議員や動向を注目される議員を中心に映るのでジョンが常に映っているというわけではなかった。しかし国会議事堂に犬がいるという事態はそれなりに話題になっているようで、中継でもジョンはちょくちょく映ったし、ニュースサイトやSNSでもジョンを総理大臣に推す意見が広がっていた。
「流石にジョン総理大臣はないだろう」
しかしトメコさんが根回しすればあるいは。
そんなことをマサルは考えていると、気づいたら日が暮れていた。
「あぁ、寝てしまったのか」
国会中継があまりにも退屈だったのか、飲んでいたコーヒーに睡眠薬が入っていたのか。そういえばジョンが国会議員になりたいって言い始めたきっかけも国会中継だったな、と思い出した。
マサルは眠っている間に何か問題が起きていないか確かめようとスマホのニュースサイトを開いて、それを見た。
「与野党の1部が離反!」
選挙後一発目の投票、それも総理大臣選出で離反とは穏やかじゃないな。マサルはそう思いながら、穏やかでない見出しのついた記事をクリックした。
「さすがにジョンとは関係ないだろうな」
マサルは、神通力などは信じない人間であったが、この時は言霊を信じてもいいかもしれないと思った。その記事には衆議院における首相選出投票の得票率が書かれていた。
1位は順当に与党のトップである、サカキと言う名の政治家だった。得票数は218。衆議院の定員は465人なので過半数を下回ってしまったことになる。離反者は思ったよりも多いようだ。
ついで2位は野党第一党のトップで得票数は102。そして3位は得票率101。ジョン衆議院議員。
「……」
DogSelection! 槻木翔 @count11
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