国会編

第19ワン あと3時間寝させてください

国会議員の職場。それは国会議事堂である。まず召集されるのが特別国会で、これは選挙後30日以内に召集をすることになっている。

そして特別国会が召集される日の朝、ジョンは寝坊をしていた。

「ほら!早く起きて!」

普段であれば、朝早く起きたマサルがジョンを起こすのであるが、この日はマサルの目覚まし時計が停止するという典型的なカタストロフの勃発によって穏やかな朝のひと時は奪われていた。

マサルはタクシー会社に連絡をして5分以内にタクシーが来るようにとりはかるとジョンを起こしにかかった。

「クーン(あと3時間……)」

「ダメだよ!初日から遅刻したら友達できなくて孤立してしまうよ」

この日のジョンはいつにも増して起きるのを拒んだ。きっと昨晩国会での振る舞いを遅くまで復習したので疲れたのであろうが、遅刻は避けなくてはいけなかった。

「仕方がない」

マサルはジョンを肩に背負うと、そのまま玄関から外に出た。マサルはまだパジャマである。

マサルは財布のみを掴んでタクシーに乗り込んだ。タクシー運転手の側から見ればいきなりシェパードを背負ったパジャマ男が乗ってきたら驚くだろうが、さすがはプロ。その程度のイレギュラーには動じずに淡々と職務を遂行した。

「どちらまで行かれますか?」

「国会議事堂にお願いします!」


朝早くに呼び出したので、タクシー運転手は良く言えば慎重、悪く言えばトロトロと運転していた。しかし、焦ったマサルが口にした一言が状況を一変させた。

「せっかくトメコさんが応援してくれたのに初日遅刻じゃあ示しがつかないよ」

これは寝起きでぼんやりしているジョンに対していった言葉であるが、運転手はこの言葉に敏感に反応した。

「トメコさん?もしかしてそちらのお方はジョン議員ですか?」

「ええ、そうですが」

「大変失礼しました。トメコさんのためならば道路交通法をことごとく破ってでも間に合わせてみせますぞ!」

マサルは、道路交通法違反はしなくてもいいと思いながらもとてもありがたく思った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る