第15ワン 応援ありがとうございます

塩梅連候補の話によると、首謀者死亡(老衰)となったクーデター未遂の責任を取る形で、当時主導的に鎮圧にあたったトメコさんは辺境の外郭団体の顧問になったという。

ちなみにこの辺境の外郭団体というのはジョンの住んでいる町にある大きな老人ホームのことである。老人ホームといっても温泉やリハビリルームなどは一般に開放しており、隣接する病院や保育園、スポーツジムまで経営しているので、まさに揺りかごから墓場まで、この町の経済の要ともいうべき存在である。

塩梅連候補の話はやっとの事で選挙の話に戻ってきた。

「トメコさんは未だに世界老人連盟日本支部に政治的に強い影響力を持っています。そしてトメコさんには慣例的にこの選挙区における世界老人連盟日本支部擁立候補を決定する権限を国政選挙対策本部から預かっています」

ここまでの話の乖離の激しさに、普段よく吠えるジョンや、よく喋るカナエさんも黙ってしまっていた。マサルはといえばどこから突っ込んでいいのか決めかねて黙っていた。

「そんなトメコさんと昨日会談いたしまして、擁立候補をジョン候補に委ねるのでよろしく頼むと言われたのです」

「はあ、しかし塩梅連さんはそれでいいのですか?」

「ワン!(塩梅連さんが応援してくれるって言ってるんだから大丈夫じゃ無いの?)」

「しかし、塩梅連候補はよろしくても、支持者の方々はどう思うでしょうか?」

三者三様の意見が飛び出したが、塩梅連候補は柔和な笑みを浮かべて丁寧に答えてくれた。

「私は良いのです。もうこんな老いぼれですし、岡崎候補を盛り上げ続けるよりはジョン候補のような若くて活力のある候補を応援する方がやり甲斐があるというものです。支持者の方々は皆さん常日頃からトメコさんよりジョン候補がいかに人格的に優れた方かを聞いていらっしゃいますから快くジョン候補を支持してくださるはずです」

塩梅連候補にそこまで言われては2人と1匹には応援を断る理由は無かった。

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