第13ワン 杏梅連候補登場!
カナエさんが陣営に入ってから、確実にジョンは活動の幅を広げていった。
ジョンはデスクで喋ったり(吠えたり?)公園で走ったりしながら、字幕で公園の充実などを訴える動画をカナエさんに作ってもらい、動画の再生回数は20万回をを超えていた。
「ワン!(なんか順調だね)」
「そうだね、岡崎候補が姿を見せなくなったのは大きい、一ヶ月後くらいにあったら猫好きに改造されてたりするのかな?」
「マサルさん、不謹慎ですよ。きっと他の選挙区に行ってるんですよ、明美ちゃんも今東京に行ってるって連絡がきてましたし」
最近、カナエさんはジョンとマサルの会話に混ざってくるようになってきた。もちろんジョンの言葉はわからないのでマサルの返事から話の内容を推測しているらしい。
「問題はもう1人の候補者だな、なんて言ったっけ?」
「杏梅連候補ですね? 無所属で年齢は68歳、毎回選挙には出てますが岡崎候補に破れています」
カナエさんはこの選挙区の情報をあらかた頭に入れているようであった。ちなみにこの日のカナエさんは白地に青のチェック柄のシャツを着ていた。いわゆるオタクファッションであるが、カナエさんが着ると何を着ても大人っぽく背伸びをしてみた小学生ファッションに見えてしまう。要するにファッションとは服ではなく着る人の問題なのであろう。
「そう、その杏梅連さんがなんだか好調みたいなんだよね」
「ワン!(杏梅連さんも犬が好きだったら勝てるかな?)」
ジョンの提案にマサルは少し考えたが、根本的な問題があることにすぐに気づいた。
「岡崎候補は猫好きだって言って犬好きを隠してたからスキャンダルになったけど杏梅連候補は特に明言してないからね。犬好きでもどうってことはないよ」
「杏梅連候補はお年寄りに人気がありますからね、戦略としてはお年寄りが集まる場所を訪問して杏梅連候補の支持者を切り崩すプランともともと杏梅連候補の支持層ではなく投票態度を表明していない若年層を中心に訴えかける手がありますね」
「どうする?ジョン」
「ワン!(両方はダメ?)」
「両方か……、どうだろう?」
「両方だと時間的な厳しさはあると思いますね、もう少し人手がいればいいのですが」
2人と1匹が悩んでいると、ジョンが物音に気付いた。
「ワン!(誰か来たみたいだよ!)」
ジョンは誰かが来たことは知らせても自分で玄関まで確かめに行くと言うことを決してしない。散歩はしたがるくせに家の中の移動は誰よりもめんどくさがるのである。
「私が出て来ますね」
マサルが重い腰をあげようとしていると、カナエさんがタタッと出ていった。何回か転ける音がした後玄関が開くと、少ししてカナエさんが戻ってきた。
「誰だった?」
マサルは尋ねた。
「杏梅連さんです」
「そうか、杏梅連さんが来てくれたか……、ん?」
「ワン!(本物の杏梅蓮さん?)」
そこにいたのは、60代後半ではあるが姿勢が良く非常に体格のいい老人であった。それだけならば驚かない。杏梅連候補は真夏の暑い日でありながら甲冑に身を包んでいた。腰には刀を付けている。銃刀法とか大丈夫だっただろうかなどとマサルが現実逃避の思考に走っていると武士(?)が口を開いた。
「君がジョンくんですか」
深みのある声で、ジョンに語りかけると杏梅連候補はジョンの頭をそっと撫でた。ジョンは突然の出来事に動けずにいる。そりゃそうだ、目の前にいつの時代からやって来たんですか?と聞くしかないような人間がいたら誰だって固まる。
「あの、杏梅連候補ですよね」
マサルが恐る恐る尋ねると杏梅連候補は重々しく頷いた。
「いかにも」
「えっと、どのようなご用件でしょうか?」
マサルの感じた第一印象では敵対的な印象はなかったが、対立候補が事務所までやってくる時点で想像の範疇を超えている今、常識に頼るのは間違っていると感じていた。
「まずはトメコさんからの伝言を預かってまいりました」
「あ、はあ」
トメコさんの杏梅連候補が繋がっていることは不思議ではない、マサルたちが住んでいる地域においては年配の方々の小学校の同期から連なる同世代並び先輩後輩の繋がりは眼を見張るものがある。しかし。
「ワン!(トメコさん電話壊れたのかな?)」
そう、トメコさんはいつも電話で連絡を取ってくる。
「トメコさんは、『こちらは任せてほしい』とおっしゃっていました。ずいぶんのジョン候補のことを買っていらしている様子でした」
「そうですか」
マサルは焦っていた。カナエさんに助けを求めるように目線を向けるがカナエさんは視線に気づくと眼をそらしてしまった。なぜ顔を赤らめているのだろう?
「あの……、話が見えてこないのですが」
なぜ、杏梅連候補はここを訪れたのか、まさか伝言だけではあるまい。その思いを渦巻かせながらマサルは尋ねた。
「実は私もトメコさんに頼まれてしまいまして」
「何をですか?」
「僭越ながらジョン候補の選挙活動を手伝わせていただきます」
「は?」
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